表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

【2】

私が目を覚ましたのは、郭馥カフクの部屋だった。

倒れた時、私の部屋より近かったから自分の部屋に運んだんだろう。


でも、初めての郭馥カフクのベッドは苦痛だった。

昨夜の女の人の温もりや香りが、残っている様な気がして…。


私はギュッと目をつぶると深呼吸をした。

精神が落ち着いてくると、改めて部屋の中を見回す。


郭馥カフクが、いる。

私が起きた気配に気付いたのか、郭馥カフクは私を振り返り近寄ってくる。


「大丈夫か!?急に倒れるから、心臓止まるかと思ったぜ…」


「…ごめん。大丈夫だから…」


私がそう言うと、郭馥カフクは私の頭を撫でる。


決して抱き締める事はしない。

私の身体に触れる事はしない。


「…あー、何か食いたいモンねぇか?何でも持って来てやるよ」


私が小さく微笑んで「ないよ」と言うと、郭馥カフクは少し私から離れた場所へ腰掛けた。


「…何かあったのか?」


「何も?」


知らぬ顔で私に接する郭馥カフクに、悲しみよりも怒りの方が勝り始める。


意地でも私からは折れない。


だって人を好きになるのに理屈はない。

人を好きになるのは自由。


郭馥カフクが他の女の人を好きになったのなら…。

私がどうこう言える訳がない。


私はここで、私のやるべき事をやるだけ…。

何も知らないフリして、郭馥カフクの傍にいるだけ。


「本当に何でもないから。…部屋に戻るね。ごめん、ベッド占領して」


私が笑っていうと。


「じゃあ部屋まで…」


送る。と言うだろう郭馥カフクを遮ると、部屋を出る。


だってどうせ…今夜も来るんでしょう?

あの人が…。









次の日から、自分のすべき新しい事を見つけた私は気が楽になった。


郭馥カフクが誰を好きにっても、今の郭馥カフクの奥さんは私だもん。

いつも通りに郭馥カフクと接して、いつも通りに生活した。


でも、しばらくたったある夜…。

自室にいるとコンコン。と部屋のドアが鳴る。


「…いるか?」


「いるよ」


私は郭馥カフクの問掛けに短く答えるだけで、ドアを振り返りもせずに、帳簿をつけていた。

ドアが開いて、郭馥カフクが入ってくる気配がする。


私は「どうしたの?」と日誌に向かったまま声を掛ける。

すると郭馥カフクは、イラついたような低い声で、


「この狸女たぬかおんなが…」


と、呟いた。

…意味は分かる。


私は狸だ。

全て知っていて、知らぬ顔で過ごして来た。


人を化すのは得意よ。

もちろん、辛く無い訳は無いのだけれど…。


「…狸?」


「使用人から聞いたぜ…。俺が女を囲ってたの、全部知ってたらしいじゃねぇか。よく今まで、しらっと知らぬフリが出来たモンだ」


「はぁ、だって…私にどうしろって言うの?」


そう言うと、一瞬言葉に詰まった郭馥カフクを、私はやっと振り返る。


「…人を好きになるのは自由よ。別に貴方が誰を好きになっても、私は何も言えない」


「違う!!あの女は…」


「…私は!」


郭馥カフクの言葉に被せる様に怒鳴る。


「私は…父が、止めるのを振り切ってまで、貴方についてきた。貴方の気持ちが変わっても、私の気持ちは変わらない。貴方が私を不要でも、私は貴方について行く」


私は元々、大人しく屋敷の奥にいるような女ではない。


幼馴染の鄧選トウセンと一緒に、武器を手にして、父の為に戦ってきた武将だ。


貴方が私に捨てろと言った武器…。

私はまた手に取るだろう。


女として不要でも、貴方の側にいる為に…。


私が話している事を黙って聞いていた郭馥カフクは、やっと口を開く。


「お前は平気なのかよ…?」


平気な訳ない。

そんな訳はない。


私の気持ちがそんな…、

その程度の物だと思ってたのか…。


私は貴方と違って、体も心も命も…全てを貴方に捧げる覚悟でついてきたのに!!


それでも…私の口から出て来た言葉は…。


「私の気持ちなんか関係ない。だって私が嫌だ、帰る。と言ったら…郭馥カフク…、貴方は父と戦う事になる」


「…ハッ…そうかい。つまり…」


そう自嘲気味に笑った郭馥カフクは、私が向かっていた机を乱暴に蹴り飛ばす。


私が睨みつけると郭馥カフクは私の腕を掴み、ベッドへと引き倒した。


「ご立派な英雄様であるアンタの親父と戦にならねぇ様に…、本当は嫌だが、俺と一緒にいてくれてる。…そう言う事か?…お前の最後の優しさって訳かよ!!」


郭馥カフクはベッドに私を組み敷いたまま、私を見つめる。


「…好きにしろよ。帰りたきゃ帰りな。お前の親父が俺を攻めてくるなら、返り討ちにしてやるよ!!」


その言葉に、私の中の何かが弾けた。

私は郭馥カフクを力任せに退すと立ち上がる。


分かってない。

分かってない。

分かってない。


全然分かってない!!!!


「…なら帰るわ。戦を望むなら貴方が攻めて来るといい。父には会わせない。私が、貴方を止めてみせる」


「…お前がか?この俺に勝てると思ってんのか!?」


郭馥カフクが本気で怒っているのが分かる。

でも私だって怒ってる。


父を討つ?

そんな事させてなるものか!!


「父には会わせない…」


私はその夜、郭馥カフクの船を降りたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ