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聖者のお務め  作者: まちどり
94/197

94.自分自身のことは自分で(89)


 アスタロトがどう答えたら良いの?とばかりに眉尻を下げて、俺とそれから後ろに控えている二人を見る。だがそんなもの、他人に答えを求めるものでもないことだろう?俺は、ふっ、と息を抜いてルセーニョに向き合う。

「自分がどうしたいか、どう在りたいかがなんとなくでも掴むことが出来ていれば、それに向かってどうすれば良いのかは周囲の人も手助け出来る。だが、自分のことは結局自分自身が考えて決めることだ。他人に求めるものではない」

 俺が話し始めるとルセーニョは顔を上げてじっと聞いていたが、やっぱりどうしたら良いかわからないって顔は変わらない。俺の横で何か呟いていたアスタロトの小さい声がだんだんはっきり聞こえてきた。

「この状態、悪徳新興宗教の手先が見たら「迷えるカモ発見!」って嬉しさで小躍りするよね。でも自分が自分自身でいられるように自分で考えて行動することが大事なんだよね。他人の良いように扱われない為に」

 迷えるカモ、とはルセーニョのことか。他人の良いように扱われない為に…何故か引っかかる言葉だ。アスタロトの呟きは続く。

「愛しい人をずっとお慕いするのも」

 アーリエルさんとルゥさんのことだな。

「組織内で成り上がってハーレム作るのも」

 …ラクーシルのことか?

「世を儚んで『魔神』を呼び出して壮大な無理心中を図るのも」

 レアンだな。

「その人自身が決めて頑張ったことだと思うし、他人に強制されて出来ることではないもの」

 例えに出す人物が全て難ありな感じがするのだが。俺は思わず頭を抱えてしまった。


 アスタロトはふぅっと息を吐くと、ルセーニョに向き合った。

「ルセーニョ、難しいことは明日考えよう。今日は美味しいもの食べて、寝よう。眠れなかったら腕立て伏せと腹筋とスクワットを動けなくなるまで繰り返せば、眠れるから」

 そう言って彼はまるで鉄格子が無いかのようにすり抜けてルセーニョの横を通り過ぎて机まで行くと、トレーとお皿とマグカップを魔法で出した。皿には彼が昼に作っていた唐揚げサンドとメンチカツサンド、カップには熱いお茶。あ、手拭きもいるよね、と呟きながらそれらを次々とポーチから出していく。

「食事の心配は無し!これで後はルセーニョのお一人様の時間、我等は退散じゃ!」

とアスタロトは振り返ると、彼の奇行を凝視していたルセーニョの顔に魔法で出した厚めの蒸しタオルをバフッと押し当てた。

「熱っ!な?何?」

「食べたら歯磨き、忘れずに」

 慌てふためくルセーニョを放って入ってきた時と同様に鉄格子をすり抜けて戻ってきた。相変わらず突飛な行動を取る人だ。




 もう疲れたから帰りたい、とアスタロトが切なげに呟く。あぁ、俺も帰りたい。それではまたのお越しをお待ちしております、と到着時に降り立った中庭に案内されそうになったのだが。

「そういえば、祭事を執り行える者を早急に連れて来て欲しい、とレアンから頼まれていたのだが、どなたか適任者を派遣してはもらえないだろうか」

 まだここに来た用件が済んでいない。俺が司祭アバルードに尋ねるが、彼は申し訳なさそうに眉尻を下げる。

「常ならば二人程は直ぐにでも派遣できるのですが、今は各地からの伝書鳩が殺到してその対応に追われておりまして、こちらとしても人手が欲しい程なのです」

伝書鳩ポッポが沢山?」

 見てみたい!とアスタロトが俄かに元気になった。


 実際に連れて行かれたのはその伝書鳩達が運んできた沢山の文書を査収、精査している事務室だ。アスタロトの興味が少し削がれたか。

いづれの神殿も司教様は塵となって消えてしまい、大神殿から派遣された司祭級の者は眠ったまま目覚めない、大神殿とは連絡が付かず、どう対処すべきかの助言を求める文書が殆どです」

 ほぼ全ての国に一つの神殿があり、大神殿からはその一つ一つに司祭級の者が、地域ごとに司教が派遣されているのだとか。

「運営自体は私のようにその国に縁のある司祭が執り行っておりますが、特に節目節目毎の祭事は大神殿派遣の者でなければあの神々しさは一朝一夕では修得は難しいでしょう」

 私にはとても無理です、と司祭アバルードは項垂れて首を振った。


「祭事?具体的には?」

 俺が尋ねると、俯いたままの司祭アバルードに代わって聖騎士リコロが答えた。

「季節の節目、春分、夏至、秋分、冬至に神殿に教徒が集まり、創世の主神に祈りを捧げるのです。皆の祈りが実際に光となり司教様や司祭様に集まり空に解き放たれる……本当に神々しさ溢れる情景です」

 リコロはその情景を思い出したのか、うっとりとした表情で両手を合わせた。

「その時の決まった文言って、載ってる書物はある?」

 アスタロトが尋ねる。ラクーシルの隠し資料部屋にもはっきりとした記述のある書物は見つけられなかったと言っていたか。消沈していた司祭アバルードが顔を上げて答える。

「いいえ、言葉というものは身の内から滲み出てくるものだ、との教えから、決まった文言としては残してはいないのです」

「では、その時々によって内容も変わる、と」

「じゃあ、毎日の祭事、お祈りも内容は人によって違うし、同じ人でもその時その時で違う?」

 俺とアスタロトの確認に、司祭アバルードは首肯して

「祈り自体は声には出さず、心の中で唱え捧げるものですので、実際にどのようなことを祈っておられるのか、その内容は本人以外はわからないのですよ」

と少し困ったように微笑んだ。


 読了、ありがとうございます。

 <(_ _)>

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