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聖者のお務め  作者: まちどり
93/197

93.ルセーニョの誤解?(88)

「生まれは貴族だとしても、今は聖職者。平民と同じ様なものだ。貴族の義務を果たしていないのに意識だけは立派なのだな」


 書庫整理に駆り出された時に、周囲はそこそこ話し声が飛び交っていたのにその静かに意見する声が耳に入った。自分に言われたのだと思った。実際はどうしてその声が聞こえたのか不思議なくらい距離があったのに。しかもその発言は別の者に向けられていたのに。大人になる前の、だが低く落ち着いた柔らかい声。その声の持ち主と声を掛けられたらしい者達は作業を進めていて先程の言葉は既に過去のことのようだ。だがその言葉はルセーニョの胸の奥の脆いところに突き刺さってじわじわと壊していくような感覚を、今もずっと味わわせている。


 その声の持ち主、オルという修道士見習いを自分が屈服させることが出来れば、この胸の奥のじわじわと嫌な痛みが無くなるのではないかと何かと付き纏って手出しをしたのだが、近隣の都市の神殿へ他の者と共に出張した際にオルは失踪した。切っ掛けを作ったのはルセーニョだが、それは予想外、想定外なことで。オルの生死もわからぬまま、少し冷めたぬるま湯に浸かっているような日々が続く。ジョウガ王国の神殿に戻されてもそれは変わらず、もう死ぬまでこの何の刺激もない状態なのだとルセーニョは思った。


 『聖樹』『聖都』に異変ありとの報告を受け、ジョウガ王国神殿所属の聖騎士ルセーニョ達も王国騎士団の調査に同行した。約五年振りの『聖都』だ。そういえば、オルは『聖樹』をよく眺めていたな、諦めの悪そうな眼差しで。その胸にはどんな思いがよぎっていたのだろうか。今も同じ眼差しで見つめているのだろうか…。



 ♢♢♢♢♢



「…『聖都』に行くと、奴がいた。『レアン』と名乗ったか?だがこいつは『オル』だ!昔から貧相な体付きだったが更に痩せこけて苦労した跡が顔つきに表れて人相が変わって見えるが、確かに『オル』だ!本当は人一倍真面目な癖に後ろ向きでやる気の無さ気な対応は変わっていない。が、何でこんな美人と楽しそうにじゃれ合っている?何故相手は私ではないのだ?!私が代わり映えしない退屈な日常を送っている間、奴は楽しんでいたのか?それは狡くないか?こんなのは、認めない!」

 再び興奮しだしたルセーニョは語気を強めてガシャンッ!と鉄格子を強く揺らした。


「つまり、ルセーニョはレアンに構って欲しかった、ということかな?」

 アスタロトが要約したのを俺は小さく息を吐いて首肯する。

「ルセーニョが自ら興味を覚えたのがレアンだった、ということらしい。自覚はあまり無かったようだがな」

「レアン、大迷惑」

「大迷惑だと?!彼奴あやつが貴族の生まれを見下すからその考えを正しているだけだろう?!」

 ルセーニョは相変わらずの興奮状態だ。が、アスタロトが

「レアンも元は貴族のお坊ちゃまだよね」

と俺に確認する。

「あぁ、確か嫡男だったのが愛人の子どもに取って代わられたんじゃなかったか?」

 そう俺が補足説明すると、ルセーニョはピタッと固まったように静かになる。

「レアンの生い立ちを聞いたときに、ルセーニョのルの字も出なかったよね。大体、『聖女』と『魔神』にしか興味無かったようだし」

「元は姉の行方を捜していたのではなかったか?」


「………………は?」

 ルセーニョは俺達の会話にやっと反応したと思いきや、間抜けな顔で一言洩らすだけだ。

「まさか知らなかったとか?十年くらいは付き纏っていたんだよね?」

「……」

 アスタロトの声が届いているのかどうか。ともかく、今の会話の内容はルセーニョにとっては言葉が出ないほど衝撃だったらしい。どの辺りかは不明だが。俺達は会話を続ける。

そもそもレアンが『貴族の生まれを見下した』というのが誤解だった可能性は充分にあり得るのだが」

「もしかしたら自虐だったかも知れないけど、生まれについては拘って無さそうだし」

 俺とアスタロトの会話を聞いて、さっきまでの興奮状態は何処へ行ったやら、ルセーニョは見る間にサァーッと顔色を無くしていく。


「で、再度質問。貴方は貴方自身をどう思っているの?貴方はこの世界で、どう在りたいの?」

 アスタロトが改めて問い掛けると、ルセーニョは顔色を無くしたまま困惑気味に眉を寄せる。なんとなく迷子になったことを自覚した子どものような表情だ。

「ルセーニョ」

 俺が呼び掛けるとビクッと肩を揺らしてこちらへ顔を向ける。…あぁ、泣き出す前の子どものようだな。

「急いで答えなくても良い。ゆっくりじっくり落ち着いて自らを省みる、この部屋はそういう場所なのだろう?レアンに対しても本当はどう思っていたのか、どう接したかったのか、事実をそのまま受け止めながら考えてみると良い」

 ルセーニョはじぃっと大人しく聞いて、そして鉄格子から手を放して項垂れた。


 シィーーーー……と暫しこの場を沈黙が支配する。私達がここにいてもルセーニョの思考の邪魔になるだけたから、静かに退室しよう、とアスタロトが俺に目で訴えてくる。すると

「私は……どうしたら、良い?」

 ルセーニョが俯いたまま静かに問う。誰に向けてなのか自身に向けてかはわからぬが。


 いつも読んでいただきありがとうございます。

 <(_ _)>

 副題について。『聖者』は本文の要約、()内数字は『転生魔神』の副題に対応。『転生魔神』は本文中の言葉です。

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