91.懲罰房(86)
更新遅くなり申し訳ございません。
「他の神殿の様子は把握しているか?」
司祭アバルードによると、近隣国の首都等の主要都市にある神殿でも同じことが起こっているようで、大神殿と『聖都』の神殿に連絡がつかないからとジョウガ王国の神殿に問い合わせの伝書鳩が殺到しているのだとか。
「申し訳ないけど、他の人達も同じ状態だとすると私には今、これ以上のことは出来ない」
とアスタロトが首を振ると聖騎士リコロが首肯する。
「えぇ、それは理解しております。私共が大変失礼なことをしたにもかかわらず、ここに来ていただいただけでもありがたいことです」
「それで、その失礼なことをした奴は今どうしている?」
ルセーニョは今、懲罰房に入れられて反省を促されているのだとか。しかし、奴がまともに反省するとは思えないのだが。するとアスタロトがニコッと笑う。
「もし扱いに困るのであれば、引き取るよ。勿論、本人の了承を得てからだけど」
一体彼は何を思い付いたのだ?リコロさんとアバルードさんが目を見開く。
「引き取ってどうするんだ?何にも使えそうに無いが」
と俺が顔を顰めると彼は
「ではガンダロフが嫌がるから、無しで」
「いやいやいやちゃんとした説明を聞きたいのだが?!」
小首を傾げてもかわいいだけだから、しっかり説明してくれよ。
「まず、ルセーニョの中に『貴族』っていう意識が強く残っているのが問題なんだから、イルシャ教関連で籍を置きたいのであれば下働きからやってもらう」
「無理だろうそれは」
思わず即答する。だがアスタロトは
「やってみなくちゃ、わからない。嫌だって言うんだったら放り出すまでだ。んで、もし下働きからでも大神殿にいたいというのであれば、大神殿から出さないようにする。というか、本音としては大神殿に縛り付けておきたい」
「「「は?何故?」」」
黙ってアスタロトの説明を聞いていた司祭アバルードと聖騎士リコロと俺の声が重なる。アスタロトは僅かに口角を上げて説明を続ける。
「ルセーニョが執着しているのは、レアン本人だと思う。で、レアンが私達と同行するのについて回られるのは迷惑。大神殿あそこから動けない!ってわかっていれば、レアンも安心して過ごせるでしょ?」
「そう出来るのであれば、とても有難いことです」
司祭アバルード曰く、ルセーニョはこの国の大貴族の息子ということで、それはとても扱いが難しいのだという。
「ルセーニョが不満を持てば親が出てくるとか?」
と俺が訊くと
「いえ、今まで一度もそのようなことは起こってはおりません。ですが、やはり家名をちらつかせられると萎縮してしまうのです」
「親御さんがどう考えているかは誰も訊いたことは無い?」
アスタロトがそう尋ねると聖騎士リコロと司祭アバルードは揃って首を横に振る。
「そのような伝手は誰も持っておりません」
「んじゃ、今から訊きに行こう!」
とアスタロトが立ち上がる。が、相手は高位貴族だぞ?
「いやいやちょっと待て、せめて先触れを出して失礼の無いように」
「懲罰房にいるんでしょ?ルセーニョ」
「「「は?」」」
司祭アバルードと聖騎士リコロと俺の声が重なるのをどう感じたのか、アスタロトが機嫌良さげに笑みを浮かべた。
聖騎士リコロと司祭アバルードに案内されて懲罰房までやってきた。廊下から扉を開けると2メートル先が鉄格子で区切られており、その先に簡素な机と椅子、ベッドがあるだけの狭い個室だが、湿気も異臭も不潔な感じも無い。トイレが別に設けてあるからだろう。純粋に反省を促す為の部屋だということか。
「ご機嫌いかが?」
アスタロトがベッドにドカッと胡坐をかいて座っているルセーニョに軽く挨拶する。
「良い訳がなかろう、何故私がこんな所に入れられなければならないのだ?」
思い切り不服そうな表情だ。やはり反省はしていないようだが。
「初対面の者にあまりにも失礼な態度を取ったからでは?」
俺が指摘すると
「貴様等が聖女だとか、ありえない」
「いや何当たり前なことを言ってんのかな男だから聖女な訳ないじゃないちなみに魔女でも女神でもないからね」
思わずといった風にアスタロトが一息で言い切る。
「自分の行いの何が悪かったのか、やはり理解していないようだが」
俺が呆れて首を小さく振ると、司祭アバルードは
「本当に、どうしたら良いものか」
と項垂れた。
アスタロトは何か考えているようだったが、徐にルセーニョに告げる。
「ルセーニョに宣告。貴方がこの部屋から出た後の選択肢は二つ」
ルセーニョは相変わらずムッとした不機嫌な顔つきをしているがアスタロトは気にする風でも無く人差し指をピッと立てて
「一つは、神殿の所属から外れて籍を抜いて、イルシャ教の全てのものと無関係になる」
中指を加えて二本指を立てて
「もう一つは、大神殿に所属を移して下働きから初めてもらう」
「どちらも断る!」
予想通りの答えにアスタロトは、やっぱりね~と横にいる俺に目で言う。後ろの二人もやっぱりなって雰囲気が伝わってくる。
「じゃ、第三の選択肢」
アスタロトは薬指を加えて三本指を立てると
「籍抜いて蓑虫状態で『聖都』に連れてって放逐」
「おいっ!扱いが酷くなっているじゃないか!」
ルセーニョは立ち上がって抗議する。だが、俺から見ればアスタロトはかなり譲歩していると思うぞ?彼がその気になれば、奴を息をしているだけの躯に変えることも可能だろうから。
「貴方を丁寧に扱う義理は私には無い。では、特別措置。先に述べた三つの選択肢を全て拒否した場合は、直ちに貴方の親族の元に連行して、神殿からは除籍済みイルシャ教の全てのものと無関係だと説明して終了。苦情は受け付けない」
「はぁ?!そ、そんなこと許される訳が無いだろう!」
「貴方の許可は元々不要。他の誰が許さないって言うの?貴方の親族?」
「そそ、それは」
ルセーニョの目が泳ぐ。
「よし、今から確認しに行こう!親御さんの所で良いよね?さすがにご実家の場所は覚えているでしょ?あ、リコロさんに案内してもらえば良いか」
「は?私がですか?!」
聖騎士リコロ、とんだとばっちりな。
「じゃ、行こう!」
読了、ありがとうございます。
<(_ _)>
更新、不定期です。書けたら上げます。
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