85.これは『嫉妬』だ(80)
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リオス殿下が水を飲み終わって、ほぅ、と一息吐いたところでアスタロトは
「殿下がお目覚めになられるのを皆さんお待ちになっておりましたよ」
と告げてグラスを引き取ろうすると、殿下はそのグラスごとアスタロトの手をガシッと掴んだ。
「貴方は一体何者なのだ?僕は何故眠っていたんだ?一体何が」
だからロトに勝手に触れるな!と俺が不快に思うと同時に、アスタロトは一緒に掴まれたグラスをリオス殿下の唇に当てて言葉を止める。その腕の動きに伴ってひんやりとした空気が流れてきた。アスタロトの表情は変わらず穏やかに見えるが、心の中は荒れているのではないか?周囲の者達が無言ながら俄に殺気立つのを丸っきり無視して
「申し遅れました。私はアスタロト、こちらはガンダロフです。陛下や殿下達が何日も眠ったままでいるとのことで、目覚めさせて欲しいとロジェ団長に乞われて施術を行いました。詳細は周囲の方達や後程ロジェ団長からも説明があるかと思います」
とアスタロトここまで言うとグラスを消して、リオス殿下がそれに驚き手を離した隙に立ち上がり俺の腕を取る。
「まだ王妃殿下と王女殿下が眠ったままだと聞いておりますので、これからそちらに向かいます。リオス殿下もどうぞお大事に」
アスタロトに穏やかにだが返答を全く求めていない雰囲気で告げられ、リオス殿下は呆気にとられた表情で
「あ、あぁ、ありがとう」
と、辛うじてそれだけ言えたという感じでぱちぱちっと瞬きを繰り返した。
さて、次は何処だ?とアスタロトに腕を引っ張られる状態でロジェ団長の方へ向かうと、助かった、と明らかに安堵した顔のロジェ団長と毒素玉を拾った少年がいた。その少年は両手の上のハンカチに毒素玉を乗せたまま不安な顔で俺達を見る。
「君が拾ってくれたのか。ありがとう」
と俺がお礼を述べて、ひょいと毒素玉を摘まむと
「あ、危なくはないのか?その、溶け出したりとか」
先程の騒動を目の当たりにしたロジェ団長は、毒素玉をそのまま躊躇せずに懐に入れた俺におっかなびっくり問いただす。
「これはね、触れた人の心待ちで変化するような物だから」
アスタロトが尤もらしいことを言う。陛下の部屋で起きた毒素玉の騒動を少年は知らなかったようだ。俺はすかさず
「陛下の部屋で拾った奴はこの玉に関して良からぬ事を考えていたのだろう、それに玉が反応してあのような事態になった。だが、君はただ俺達に渡す為に拾ったのだから、玉も無害なままだ」
と補足説明すると、ロジェ団長と傍で聞いていたモルク殿下が、そうなのか、と納得した表情で頷いた。誤魔化す気満々ではあったが、そんな簡単に信じ込まれると逆にこの者達のことが心配になるのだが。
で、次は戻って王妃殿下とのこと。リオス殿下の部屋を出たところで、俺はアスタロトのリオス殿下に触られた方の手を両手で包み込む。
「大丈夫か?その、気持ち悪いとか、嫌な感じがするとか」
怒気は含まれていなかったとはいえ、あのように冷気を放つということはそれなりに嫌な思いをしたのだろう。俺の持つ力で彼の心を癒せると良いのだが。
「ガンダロフに訊かれるまで忘れてた」
とアスタロトは何でもないように言う。…しまった!彼の中では既に過去のことと忘却の彼方に追いやったのを、俺はわざわざ思い出させてしまったのか!
「気持ち悪いとか、嫌な感じがするとかは、ガンダロフがそう思ったってことだよね、ごめんね、次からは気を付ける」
アスタロトは申し訳なさそうに眉を下げる。違う!君が謝ることではない!そうだな、これは『嫉妬』だ。俺の愛しいかわいい君を誰にも取られたくないから。
「い、いや、俺が勝手にそう感じたというだけだから、ロトが気にすることはない。いつも通り自由に振る舞ってくれれば、俺はその方が安心するし、嬉しい」
だが彼は、自分が気に掛けるのは俺だけだと些細な言動からも教えてくれる。彼が自由に振る舞う中で俺を特別だと示してくれるのが凄く嬉しい。
俺は恥ずかしさから顔が火照ってくるのを自覚しながら彼の手をそっと放した。すると少し翳っていたアスタロトの新月の夜のような黒い瞳が、星が明るさを競うかのように煌めいて
「早く終わらせて、戻ってゆったりまったりしようね」
と俺の火照った頬に手を添えて、くんっ、と背伸びをしてお互いの唇をそっと重ねた。ん、と彼が小さく喘ぎ、暖かくて柔らかくてしっとりした感触と微かな甘酸っぱい香りで俺の意識が瞬時に何処か遠くへ飛んでいきそうになる。が、ここは王城!ロジェ団長とモルク殿下ががっつり見てる!麒麟!白虎!気配が消せていないどころかもの凄く昂揚しているのが丸わかりだぞ!…はぁ、ロトが自由すぎる……。
※※※※※
王妃殿下の部屋へは今回は俺もすんなりと通された。陛下と第一王子の実績があるからか、ロジェ団長の交渉力のお陰か。だが入室したのはモルク殿下だけで、ロジェ団長は扉前で待機している。部屋の中に入るとふわっと甘い花の香りに混じりすえた臭いが鼻につく。
「先ずはカーテンと窓を開けて空気を入れ替えて」
アスタロトが命じてメイド達がぱたぱたと動き回るのを横目で見ながら、俺達は王妃殿下のベッド脇に立つ。寝付いていてもさすが国母、長い金髪はそれなりに艶やかで閉じられた瞼は長い睫を湛えており肌は皺シミはあまり目立たず頬はうっすらと紅が差して、一見するとただ眠っているかのようだ。だがアスタロトは、ん?と訝しげな顔で周囲の者達に質問する。
「この方に化粧を施した方は、どなたでしょうか?」
「はい、私です」
と年配の侍女が申告する。化粧か。俺が入室を拒まれたのは、まさか王妃の素顔を見せたくなかったから、とかじゃないだろうな?
「うん、とてもきれいだと思う。でもね、素顔の肌色を隠されてしまっては、正しい判断が出来ない。なので殿下の体調が回復した後でその腕を振るって欲しいのだけど…貴女にとっては殿下がこのまま眠り続けている方が都合が良い?」
アスタロトが言葉を連ねていく毎にその侍女の顔色は悪くなり
「いえ!そんなっ!都合が良いなんて!そんなことっ!」
と半ば狂ったように叫び出したが
「落ち着いて。良かれと思ってやったのでしょ?化粧は落とせば問題ありませんから」
大丈夫、とアスタロトは人の好さそうな笑みを浮かべて王妃殿下の顔を撫でて化粧を落とすと、まるで魔法を解かれたように大小様々な皺とシミがカサカサに乾いた皮膚の上にくっきりと表れる。これは、陛下よりも酷い状態だ。件の侍女が涙目で、あぁ、お労しい、と声を漏らしながらそれを見守っているが、うむ、心情は理解できる。
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