83.黒い玉の行方(78)
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いつの間にか10,000PV越えてました!嬉しい!
『ところで剣、毒薬と黒い玉は?』
『うん、毒薬はサイドテーブルの上の薬に混ざってる。黒い玉はそこにいる灰髪の侍従が懐に仕舞ったよ』
『そうか。ありがとう。麒麟は扉付近に、白虎は窓際に待機だ』
と指示を出したところで
「あの、お取り込み中のところ、申し訳ございませんが……」
申し訳ないと思うのであれば声を掛けるな!と言いたくなる。が、アスタロトがその男に冷ややかな目を向けると同時に彼の暖かかった身体がすっと冷めてきた。まぁ、男にしてみれば職務上声掛けはやむを得ぬことだな。俺達も場所と場合を考えなくては。はぁ、と小さく息を吐くと、俺はアスタロトの目元を覆った。不機嫌の元は見なくても良いだろう?
ベッド傍に行くと、陛下は既に身体を起こして俺達を待っていた。
「私はジョウガ王国を治めているムドイ・ラ・ジョウガだ。先程は私を目覚めさせてくれて、本当にありがとう。後日改めて礼を述べさせてもらうが、まだ王妃と子供達が眠ったままだという。彼女達も早急に目覚めさせてはもらえないだろうか」
と周囲の者達も合わせて頭を下げる。国王と言う存在が頭を下げているという状況に、予想はしていたとはいえ俺は狼狽えてしまう。
「えぇと、まず頭をお上げくださいませ」
アスタロトも落ち着かない様子で陛下に声を掛け、陛下が顔を上げたところで彼は話を続ける。
「改めて、私はアスタロト、こちらはガンダロフと申します。すっかり調子が戻られたようでなによりです。他の方達への処置も直ぐに行いますがその前に」
ここで彼は周囲の者達を見回して
「陛下のお口から飛び出した毒素玉を回収します。このぐらいの黒い玉、見掛けませんでしたか?」
と指で輪っかを作り大きさを示して訊く。
「「「「「毒素玉?」」」」」
周囲の者達はお互いを見合ったり床を見回したりとその毒素玉を探し始める。灰髪の侍従も何食わぬ顔で探すふりをするのをアスタロトがちろりと盗み見る。先程の剣との念話をしっかり聞いていたのだな。尤も俺達は隠すつもりもなくしかもあの密着した状態では、聞きたくなくても伝わってしまうか。
「陛下の体内の毒を集めて固めた物なので、飲み込んだら死ぬかも」
「ロト、それは」
黒い玉を飲み込む。あの大きさの玉を。
『喉に詰まらせるから、か?』
念話で訊くと、よくお解りで!とキラキラした眼差しを向けられた。それ、毒は関係無いぞ。
ほぼ全員が探し回っているのを眺めながら、アスタロトが会話を続ける。
「メイドさんがお掃除の時とかに間違って触れないと良いのだけど」
「触れるとどうなる」
また毒とは関係ないことか?
「皮膚が爛れて毒素が回って、死ぬ」
その言葉が聞こえたのか、近くで探していた何人かがギョッと顔を引きつらせて俺達を凝視する。間違って毒が漏れ出てしまったら、確かに大惨事だ。
そんな物騒な話を暢気に交わしていると
「う、うわあぁーーっ!」「なんだどうした?!」「ひえぇ~~」「近寄るなぁ!」「こっち来るなよ!」
突如発生した騒動の中心は、毒素玉を隠し持っていた件の男、灰色髪の侍従だ。左胸の辺りが焦げ茶色に変色してプスプスと黒っぽい煙が染み出ている。奴は
「助けてくれぇ!」
と煙を上げる上着を脱ぎ捨てた。物が燃やされた焦げた臭いが辺りに拡がり焦げ茶の変色部分が黒く炭になりボロボロと崩れ、その下から黒い玉がツルリと出てきた。無傷で。
『これは…毒素玉を加熱して周りを燃やした?』
ガンダロフ、正解!とアスタロトは満面の笑みを俺に向けた。まさかとは思うが、毒素玉を俺が拾わなかった意図を理解して不穏分子をこの場で炙り出したとか?彼としては仕事はさっさと終わらせて引きずることなく立ち去りたいといったところか。灰色髪の侍従はロジェ団長にあっという間に捕縛された。
※※※※※
「申し訳ございませんがそちらの方の入室はご遠慮願います」
王妃殿下の部屋の扉前、俺だけ部屋への入室許可が下りない。俺の肩にちょんと乗った麒麟と白虎も困惑してる。
「何故?私も男だよ?それに」
アスタロトは俺の腕にガシッとしがみついて
「隣にいてくれないと落ち着かない。不安で力が出せない」
『力が出せない』ではなく『力が抑えられない』だ。表情は変わらないが、その言葉と態度に離れない!という彼の強い意志が現れている。俺自身を求められているようで嬉しいのだが、侍女長と言ったか、困惑を隠しきれない様子だ。そうだよなぁ、貴婦人それも国母である王妃殿下の寝所に得体の知れないむさ苦しい男など入れたくはなかろう。が、俺としてはアスタロトが望むことを一番に考えたい。さて、どうしたものか。
すると直ぐに
「では先に兄様の方の施術を頼む」
と案内がてら一緒に来ていた第二王子のモルク殿下が、第一王子のリオス殿下の寝所へと歩き出す。アスタロトは何事も無かったかのように俺の腕にしがみついたまま歩き出す。お互いの腕を絡ませたところからお互いの熱が伝わり、仄かに甘酸っぱい香りが鼻を掠める。侍女長に限らず、俺のことを単にアスタロトの付属物と見ている者が殆どだろう。俺自身このような高貴な方々の前にいること自体忌避したい状況ではあるが、なんとか気後れせずにいられるのは彼のお陰だ。
「ロト」
「ん?あ、ごめん、歩きづらいよね」
彼は絡めていた腕をパッと放す。こんな些細な仕草で彼が俺のことを気遣っている、大事に大切に思っているのを感じられて、嬉しい。頬が緩む。俺は彼の手を握って
「ありがとう」
と今の気持ちを素直に告げた。……身体が熱い。アスタロトは照れてしまったのか、俯いて俺の手をぎゅっと握り返した。
「侍女が失礼な態度を取り、済まなかった。だが」
モルク殿下が歩きながら謝罪する。
「女性の寝所に男性を入れるというのは、ガンダロフ殿が関係者とはいえやはり抵抗があるのだろう。その辺りの事情をどうかご理解願いたい」
「あぁ。王妃殿下の部屋に、部外者にしか見えない俺を抵抗も無く入室させるなど無理だろうな、うむ」
俺は頷く。だが、アスタロトは納得がいかないのかモルク殿下の発言に反論する。
「部外者じゃない。私を止められるのは、ガンダロフだけだもの」
それもまた事実だな。
読了、ありがとうございます。
<(_ _)>
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