81.国王陛下の部屋(76)
訓練場から王城まで距離があるのでロジェ団長は馬を駆り、俺達はその後をバイクで追っかける。王城に着くと俺は青龍、朱雀、玄武に隠密形態で王城内外の探索・情報収集を指示する。そして白虎は俺の、麒麟はアスタロトのフードに潜む。会う人達に「ロジェ団長が何故今ここに?!」「その者達は何者だ?!」等と足止めされそうになりながらもロジェ団長は「詳細は後程!」と振り切ってやっと国王陛下の寝室前まで到着した。許可を得て入室すると、むわっと嫌な空気に出迎えられた。空気が澱んでいるのか、何となく臭う。アスタロトがハンカチで口を押さえながら
「診る前に先ずはカーテンと窓を開けて空気を入れ替えて。これでは健康な人でも具合が悪くなる」
と近くにいたメイドに言うと、
「何を勝手なことを!お前達は何者だ?!」
ともうそろそろ壮年期も終わりかという男性が怒鳴る。マスクしようよ、とアスタロトが小さく洩らす。
「先ほども言いましたが、この方達は『聖都』と大神殿での異変と騒動を収めて、意識不明に陥った者達を目覚めさせた大魔法使いです」
ロジェ団長が簡単に説明して、早く陛下を診てくれと俺達を誘導するが
「そんな怪しい者共に陛下を診せる訳にはいかん!」
と怒鳴り散らす男性と周囲の者達が立ち塞がる。
俺は、はぁ、とこっそり溜息を吐くと腰のマジックポーチから3枚程の紙を出してロジェ団長に渡す。昨晩、麒麟が報告と相談をする時に持ってきたものだ。
「貴方方と『聖都』で話した内容を纏めた物だ。これに異論が無ければアスタロトの言うことに従って欲しいのだが」
と爺さん達を一瞥して
「手遅れだった場合、俺達に責任を転嫁されたくないな」
アスタロトが同意とばかりにコクコクと頷いた。
ロジェ団長は少し驚いたように目を見開き「かたじけない」と紙を受け取るとざっと目を通し、そのまま男性に渡す。
「『聖都』での会談内容だ。今回の彼等への報酬については成功報酬のみだ。私はここでこのまま手を拱いて陛下が死に向かうのを見ているだけより、彼等に一縷の望みを託したい」
アスタロトが形の良い眉をひそめる。そんなモノ、要らない、等と思っていそうだな。俺は宥めるように彼の頭を撫でて、ロジェ団長達に向き合う。
「で、俺達はどうすれば良いのだ?」
押し売りではないのだから、必要なければ立ち去るのみだ。俺達だって暇じゃない。するとアスタロトが俺の言葉に連ねて
「やるのであれば、さっさと始めたい。時間が経つと生還率が低下する」
「生還率?」
何処から還るというのだ?
「目を開けても意識が何処かに行ったまま帰ってこないかも。どういう状態か詳しく見ないと何とも言えないけど。このままであれば、見た目は穏やかに眠ったまま逝ってしまう。その方が都合が良い人が何人いるか知らないけど」
いきなり物騒なことを言い出したな!だが言った本人はしれっとした顔で続ける。
「王室内部のドロドロに関わりたくないから、このまま帰っちゃおうか」
「いやいやお待ちください!どうか!どうか!陛下を目覚めさせてください!」
ロジェ団長が涙目になりながら懇願する。自分の大事な主の命が懸かっているのだ、そりゃあ必死にもなるだろう。アスタロトは引いているが。どう返すか考えあぐねているとロジェ団長の隣にまた別の、身なりからするとこの部屋の中では陛下の次に身分が高いのではないかと思われる青年がスッと並んで、アスタロトを真正面から見据えた。
「貴方方にその術があるならば、是非とも我が父を目覚めさせて欲しい」
そう言うと俯いて腰を落として
「膝は着かないで」
アスタロトの低く鋭い声に、そのままの姿勢で固まる。既視感、というか、今朝も見たなこの遣り取り。
「私にそういう趣味は無い。主従揃って似た者同士、仲良しなのはわかったから私を巻き込まないで」
とアスタロトは温度が感じられない声音で淡々と言葉を連ねる。そういう趣味…どんな趣味だ?依り代さんの世界では、平伏するのは忌み嫌われるような行為なのだろうか。姿勢を戻した青年は国王陛下を『我が父』と呼ぶ。つまり青年は王子ということか。であれば
「では、診せてもらってもよろしいか?」
と俺がロジェ団長、王子(仮)、そして立ち塞がる男性達を順に見回し確認を取る。男性達は苦々しい顔をするも、もう何も言わない。
改めて俺達はロジェ団長に促されてというか急かされて、国王陛下を診る。肩までの長さのくすんだ金髪は艶が無くパサついてで肌は様々な皺が刻み込まれている。俺はアスタロトの分のマントも持って横に付いてこそっと訊く。
「どんな具合だ?」
「何というか……枯れたイケおじ?心も体も疲弊して、力が出ない。ゆっくりと気力体力を回復させればそのうち目は覚める。それと…長年摂取してきた毒がここぞとばかりに本来の働きをしているから、先にそれを取り除く」
「毒?長年摂取してきた、だと?」
「うん、この部屋にあるかも。探してみて」
『『承知!』』
アスタロトは隠密形態で俺の肩にちょこんと乗っかってた麒麟と白虎に指示する。
「では、いきます。デトックス」
デトックス、とは?
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