74.ある聖職者の行動記録(69)
数多ある作品の中から選んでいただきありがとうございます。<(_ _)>
「で、ですが『聖樹』が消失してしまった今、私達は何を心の拠り所としていけば良いのか……」
聖騎士の一人、リコロと言ったか、が項垂れるのをもう一人の聖騎士、こちらはダングだな、が気遣わしげに見る。
「消失ではなく休眠、だ。無くなったわけじゃない」
俺が訂正するとアスタロトが頷く。
「うん、そうだね。そのうちポコって生えてくるよ」
軽く言うなよ、北の大きな木とは違うのだろうから。
「生きているうちに会えると良いね」
とアスタロトは目を細めて微笑む。あぁ、それは俺も同意だ。
「大体ね、ラクーシルが実際何を思って何をやっていたんだかって、私達にわかる訳がない。襲われたから返り討ちにした、それだけ」
まずは残された資料を見てみれば推測なり何なり出来るでしょ?と言われて、聖騎士二人は渋い顔をしながらも頷いた。
ここからの案内はマーリオからベルシームへと引き継ぐ。アスタロトが言うところのオタク部屋じゃない方の資料室は、それでも聖騎士二人にとっては貴重なもの満載だったようで、教団の歴史、教義の遍歴、儀式についてのあれこれ等々、うわぁ~とか、すげぇ~とか素の顔丸出しで見入っている。
部屋の入り口近くに見慣れない箱が置いてあった。
「この箱に入っている物は?」
昨日は無かった箱について、ベルシームに尋ねる。
「それは今回亡くなってしまわれた者たちの元にあった書籍や手記です」
「これであれば、持ち出せたのでは…いや、それは無意味だな。済まない、失言だった」
「いえ、とんでもございません」
俺がすぐに謝罪を口にしたのを、聖騎士二人は意外そうに眺めていた。
その箱の中からアスタロトが一冊手に取って中を覗く。……興味あるなぁ、とソファに座って
「一緒に読もう?」
と俺に声を掛ける。俺がまだ文字が読めないのを気遣ってくれたのか。嬉しい。
「あぁ」
と短く答えて彼の隣に座った。
アスタロトは初めの方からパラパラッと捲ってざっと目を通す。
「…行動記録?たぶん日の出の1時間前に起床して禊ぎ…身と場を清めてお祈りして写経して朝御飯。献立が書いてあると読み応えが出てくるのに」
覗き込むと、ほぼ決まった文面が続く。
「何が書いてあるか相変わらず解らんが、代わり映えしない日々だったのではないか?」
すると彼は何かに気付いたようで、ん?と小さく声を漏らして
「えぇっと、聖騎士リコロ、さん。お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
と聖騎士リコロに声を掛ける。どちらも茶目茶髪で、少し色が薄い方がリコロだったか。ルセーニョは薄い金髪に薄い緑の眼、性格がきつい割には外見は色味が薄くぼやけた印象だったな。
「はい、リコロ、とお呼びくださいませ、アスタロト様」
「様、は不要。呼び捨ては心苦しくなるから、リコロさん、で」
と彼が言うと、少し困惑した感じで聖騎士二人は目を見合わせてから
「…では、アスタロトさん、と呼ばせていただきます」
ほっ、とアスタロトが小さく息を吐いた。
「で、質問です。神官たちの食事って、朝、というかお昼だね、と晩の2回?」
「えぇ、そうです」
アスタロトが尋ねると、聖騎士リコロはさらっと答える。
「……お腹空かない?」
今、気にするところはそこではないと思うのだが、彼にとっては重要なのだろう、切なそうに眉が下がる。俺が
「平民の食事回数は大体2回だ。朝も食べるという方が珍しい。兵士や騎士は朝も食べるが、おやつまで用意するのは王侯貴族や裕福な商人等、ごく一部の者だけだ」
と説明すると
「えっ!おやつ、食べないの?」
「たまには食べるが、毎日ではないな」
『依り代』さんの世界では朝昼晩の三食におやつがあるのが普通の生活だったのだな。驚きで大きく見開かれた黒い瞳が『信じられない!』と訴えている。俺は、はぁ~、と息を吐いて
「君の常識とはかなり離れているのだろうな」
と彼の頭を撫でて慰めた。そういえばこの世界に来てからやたらと食事をしているような感じがしていたが、実際に回数は増えていたのだったな。
「そっかぁ~、このヴィオロさんも食事は普通だったのかぁ。あ、後、『夜のお務め』って具体的には何をするの?」
…今、曲解してしまいそうな単語が聞こえたような。聖騎士二人だけでなくベルシームも動きがピタッと止まって見る間に顔を赤くする。
「いや、そういう疚しい意味ではないのは君の口調と態度でわかるのだが」
なんとも刺激的な言葉だな。
「んーーー、でもちょこちょこ出てくるから何だろうって。…私の誤訳?」
ほら、こことかここにも、とページを捲りながらアスタロトは聖騎士リコロに見てもらう。
「…あ、……本当ですね……確かに気になるかも」
とリコロが真面目な顔に戻る。
「これは、私共よりオルに聞いた方が判ると思いますよ」
聖騎士ダングも覘き込み意見を述べた。
「オル、ってレアンのこと?」
「そういえば、ルセーニョがレアンにやたらと突っかかっていたのだが、あの二人、過去に何かあったのか?」
折角名前が出たのだから、この機会に訊いてみる。アスタロトも興味深い面持ちで二人を注視する。
読了、ありがとうございます。<(_ _)>
気付けば連載始めて約一年です。作中では一週間経っておりませんが。歩みの遅さは亀か蝸牛かナマケモノか。というか、マッチョ兄さん、別方面で頑張りすぎて、たまに筆が止まるどころか後退します。マジで18R垢を考えるレベル。
ブックマーク、★評価、いいね!ありがとうございます!私の拙い文章でも待ってる人が居る!って思うと、頑張れます。
続きが気になる、面白い、と思われた方は是非スクロールバーを下げていった先にある広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★に、ブックマーク、いいね、感想等をお願いします。




