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聖者のお務め  作者: まちどり
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68.ジョウガ王国の依頼(63)


 何を?どうやって?とまたアスタロトが呟き、ばつが悪そうに俯いて口元で伸ばした両の人差し指を交差する。なんだそれはかわいいじゃないか。だが彼のそんな仕草を見ていたのは俺だけだったようで、他の者は皆ルセーニョに注目していた。


「な、何って、司教様達を害したり、『聖樹』を消したり…」

「うむ、ということはレアンがそのような力を持っているとお考えか。して、具体的にはどのような力や方法で害をなしたと?」

 ルセーニョの言葉に俺が問いを重ねる。

「具体的にはと言われましても、それは本人に訊けばわかるものでは?」

 それは答えになってない。

「いやいやいやいや、俺にそんな力がある訳ねえだろ!あったら今頃こんな所にはいない!」

「確かに」

 レアンが全力で否定するのに俺は即座に同意した。


「あの…」

 黙って成り行きを見ていた、というよりは訳が分からず口を挟むことが出来なかった感じのロジェ団長が

「出来ればアスタロト殿とガンダロフ殿の話をもう少し詳しく伺ってもよろしいか?」

と遠慮がちに尋ねる。

「詳しく、とは」

 どの辺りのことが最も興味があるのだろうか。

「『聖樹』がどのような経緯で消え去ってしまったのか」

 まぁ、気になるよな。そして聖騎士ルセーニョのレアンに対する疑惑はさらっと無視。混乱するから「後で個人的にやれ!」と言うのは賛成だ。


 先にオルジオさんが俺達のことを、北にいた傭兵と魔法使いで、襲われたのを反撃したら捕まってた大聖女様を助けたので、彼女の依頼で『聖樹』の様子を見に来たら異変が起こっていたのでそれを収めた、と簡単に説明していた。アスタロトの様子をちらりと見て何も異論は無さそうなことを確認してから説明を始める。


「襲撃時には知らなかったのだが、大聖女様によると俺達を襲ったのはラクーシル大司教で、どうやら『聖樹』へ捧げる贄を確保する為に俺達を襲ったらしい。返り討ちにしてしまったので詳しい事情は不明なのだが。それで大聖女様から自分にはもう力が無いが『聖樹』の様子が心配だから見てきて欲しいと頼まれて此方に来たのが一昨日の朝。

 元から空気は淀んでいたが到着寸前に大気が大きく震えて『聖樹』が根元から黒く染まっていきその後ボロボロに崩れ去った。その根元から大きな黒い球…二階建ての村長の家がすっぽり入るくらいの大きさだったな、それがせり出してきて黒い靄が絶え間なく大量に噴出していた」

 その時の重苦しい空気を思い出し、その胸につっかえるような気持ち毎ふぅっと息を吐き出してもう冷めてしまったお茶を一口飲んだ。


「では、貴方方が到着した時には『聖樹』はすでに手の施しようが無かった、ということか…」

 ロジェ団長は沈痛な面持ちで確認を取る。それに俺は頷きで返して

「まず黒い靄がこれ以上拡散しないよう結界を張り、黒い靄を発生させていた大きな黒い球と黒く朽ちてしまった『聖樹』の残骸を燃やして灰にして処分した。それから黒い靄とそれに汚染されたものを浄化して事態を収束させた」

「アスタロト殿が?」

 ロジェ団長が確認するようにアスタロトを見ると、アスタロトが頷く。

「うん、ガンダロフと二人で。後、仲間たちにも手伝ってもらった。一人じゃ無理」


 その後も俺が説明を続けて、大神殿で治癒を施したこと、既に消えてしまったり亡くなっていた人が少なからずいたこと、

「この辺りはオルジオさんの話と重複するのだが」

 『聖都』に行くと暴動が起こった直後で破落戸共を捕縛して労働の担い手としてこき使っていること、『聖都』でも治癒を施したこと、今は大神殿に滞在していることを話した。


「……なるほど、わかりました。大惨事になるところを防いでいただいたようで誠にありがとうございます」

とロジェ団長とシャンテ隊長、遅れて聖騎士ルセーニョが頭を下げる。


「どういたしまして、と言うべきか」

 頭を上げてもらって俺は言葉を連ねる。

「元は大聖女様からの依頼ではあったし、報酬もそれなりにもらっている」

 マジックバッグの中の金だけでも相当な額だ。

「それに「好きにやって良い」との言葉も貰っている」

 世界監理者の分身体の言葉だがな。

「『聖樹』は今は休眠状態だが完全に失われるのを阻止できたことを良しとするべきだろう」


「休眠状態、ですか。どのくらいの期間になるかはおわかりですか?」

 必死にメモを取っているシャンテ隊長が問う。期間、か。剣は『わかんない』と答えた。アスタロトに、わかるか?と目で問うと

「気が済むまで」

「「「「「は?」」」」」

 また端的に答えたな。それでは俺以外の人には通じないぞ?

「あ~…。つまり『聖樹』が充分な休息を取り活動できるほどの力を取り戻すまで、ということだな。実際何年、何十年掛かるかなんて俺達にはわからない」


 俺が分かり易く言い換えると、さすがガンダロフ、ちゃんと伝わってる!とアスタロトは嬉しそうにニコニコしている。かわいい。思わず嬉しくて彼の頭を撫でると益々笑みが深くなった。


 ん゛ん゛っとロジェ団長の咳払いでそちらを向くと、

「改めてお願い申し上げる。未だ目覚めぬ者に治癒を施す為に、是非とも我が国ジョウガ王国へお越しいただきたい」

とロジェ団長とシャンテ隊長が再度頭を下げた。遅れて聖騎士ルセーニョも頭を下げる。アスタロトはどうしたいのだろう。出来れば彼の負担が増えるようなことは避けたい。


 アスタロトはロジェ団長にぽつんと言葉を投げる。

「……すぐ?」

「出来れば早急に」

 ロジェ団長もシャンテ隊長も困り顔でアスタロトを見つめる。…余り見て欲しくないと思うのは、俺が狭量な所為か。

「はやる気持ちも理解できる。が、俺達も大神殿で引き取ったり預かったりした破落戸共や子ども達を放って行くことは出来かねる。何分、『聖都』も大神殿も人材が不足していてな、おそらくだが聖騎士や主だった神官たちは皆黒い靄の毒でやられてしまったようで、今はともかく、時間の経過とともに労働力の低下、治安の悪化が懸念されるのだが」

と俺が弁明してオルジオさんの方を向くと、それに釣られるようにロジェ団長とシャンテ隊長もオルジオさんを見る。


「えぇ~っとぉ~…」

 いきなり話を振られて戸惑っているのか、オルジオさんは上手く言葉が出てこないようだ。

「それで、どおしようね?」

 アスタロトの口調から察するに、迷っているというよりどうでも良いのだろう。が、小首を傾げて少し上目遣いで訊かれたら思考が明後日の方向に飛んでしまいそうになる。平常心を取り戻すべく俺は目を片手で覆って、はあぁ~~っと大きく息を吐き出した。その様子を彼はどう捕らえたのか。


「レアン」

「はい」

「大神殿の差配、任せた。マーリオ君と協力して運営よろしく。オルジオさんとも仲良くね」

「承知しました」

 っていうかもう既にやらされてますよね、みたいな目でレアンはアスタロトを見る。そこに

「はぁ?な、何でこいつが」

と聖騎士ルセーニョが口を挟むのを無視して

「オルジオさん、人手が要りそうだったらレアン達を使ってどうぞ」

「えぇ、はい、頼りにしております」

 アスタロトが声を掛けるとオルジオさんはほっと一安心したように笑みを溢した。


 しつこく付き纏われるよりさっさと用事を済ませてすっきりしたい。そういうことだな。

『剣、此処からジョウガ王国まで行くまでの所要時間は?』

『馬車で休みながら2日、急ぎで1日半、麒麟に乗ってゆっくり1時間』

 俺は剣に礼を言いアスタロトに提案する。

「折角来てもらったが、部隊はそのまま国へ先に帰ってもらった方が良いだろうな。下手すると俺達の方が先に着く」

「どの位で着くの?」

「麒麟に乗って1時間程」


 すると剣がアスタロトに

『そこにいる三人、一緒に連れてったら?』

と提案するが

「え、聖獣達に乗せたくない」

 即答か!

「オルジオさん達は良かったのに?」

と俺が訊くと

「非常時だったし、急ぎだったし」

 そんなに気にしてなかったし。と自分でも良く判っていなさそうな感じだ。あ、と小さく声を上げたので、何かと思えば

「蓑虫にして連れてけば」

「それは止めておこうか」

「それはさすがに失礼かと」

「それは見応えありそうだな」

 俺とオルジオさんとレアンから速攻で突っ込まれる。アスタロトの中でジョウガ王国の三人は一体どのような立ち位置なんだ?


 読了、ありがとうございます。

 <(_ _)>

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