67.ジョウガ王国からの調査部隊(62)
更新が遅くなり本当にごめんなさい!(>_<)
しかも長い…。
マーリオがうんうんと力強く頷くのをレアンは
「いや俺もう部外者だし」
と横目で嫌そうに見る。
「だが、未成年のマーリオには『代表』など重責だ。対外的にも暫くはお前が采配を振るしかなかろう。それが嫌だというのなら、別の都市にいる責務を果たすのに適当な者をさっさと呼び寄せるのだな」
とレアンの肩を叩くと、どよ~んとした目で俺を睨んだ。
後は、子ども達の迎えと諸々の連携確認等を行う為に『聖都』へ赴いた青龍と白虎、元破落戸の作業員の何人かが帰ってくるのを待つだけになったので、大神殿の見廻りを兼ねて周囲を散策する。
『お供します』
獣体となった麒麟に跨がり大神殿の敷地をぐるりと囲う柵の外側、その先に拡がる森との境目辺りの上空を駆けていく。木々が萌え立つような力強さを感じるのはアスタロトの昨日の奇跡の影響だろうか。進んで行くと視界が開け『聖樹』のあった辺りまでは草原となっているが、下草が嬉々として繁る勢いだ。
「もう黒い靄の影響は無さそうだな」
『はい、どこもかしこも生きる喜びに満ち溢れております』
生きる喜び。そういえばアスタロトは何をするにしても大抵は楽しそうだな。俺達は外周を一回りして異常が無いことを確かめる。それから更に上空に昇り遠くまで見渡す。
「あれは…」
東の方はそろそろ宵闇に覆われそうだ。その闇に紛れ武装集団が此方に進行している。おそらくその先の少し開けた場所で夜を過ごすのか、攻め込む為に陣を張るのか。
『聖獣達、隠密形態で見てきて』
と剣が麒麟に指示を出す。
『承知しました。我々で調べておきます』
「あぁ、任せた。緊急性が無ければ俺達への報告は明日で良い」
他に異常が無いことを確認してから、俺はアスタロトの元へ戻っていった。
晩御飯は久しぶり?に豊かな味わいのもので、大神殿の者は皆笑顔で温かくてコクのあるスープに固いパンを浸して味わいながら食べている。それを見てアスタロトが、最終的に主食・主菜・副菜・汁物にデザートを毎食出すことで目標達成ってところだな、と笑顔で呟く。
「さすが、一味も二味も違う」
と俺も格段に美味く変貌を遂げた食事に舌鼓を打つ。このような贅沢に慣れてしまうのは怖いことだと頭の隅では常に感じているのだが、同時にこの幸福を手放すことの無いよう一層気を引き締めなければ、とアスタロトの嬉しさにあふれる笑顔を見てそう思った。
『昨日お預けだったから、気合い入ってるね~!』
晩飯の後、剣の指摘通りアスタロトはお風呂も一緒!と言って洗い場で俺を泡だらけにして丁寧に、だが楽しそうに磨き上げていく。彼の指が、手が、肌が触れたところからゾクゾクと軽く痺れるような快感を絶え間なくもたらして、まだ湯舟に浸かる前からのぼせそうだ。俺もお返しとばかりに彼の身体をきめ細かい泡で隈無く覆っていく。「邪魔になるから」と長い黒髪を上部に纏めている所為で露わになった項が赤く染まって艶めかしい。その色気を吸い取るように唇を這わせ背中から抱き締めると、彼から甘さを秘めた息が零れる。
「んぁ……っ…」
流さないままの泡が二人の密着した肌の間でぬるりと程良く滑り蕩けるような気持ち良さ。口に拡がる石鹸の苦さが無ければこの劣情に流されるまま暴走しそうだ。
「まだまだ宵の口。ゆっくり楽しもうねぇ」
アスタロトの少し薄い整った赤い唇が妖艶な弧を描いた。
※※※※※
「攻め込む前に、まずは話し合いで平和的解決を目指そうとか思わないものなんだろうか」
「会談が決裂または話にならない状態の時に素早く行動に移す為に控えているのだろう。相手側も情報不足の中、最悪の事態を想定しての行動だ。たぶん」
だからこちらからは手を出すな、とアスタロトに注意を促して俺は手の甲で優しく彼の頬を撫でる。『聖都』の大きな東門の前、『聖都』領主代理のオルジオと大神殿代表(仮)のレアン、そして俺とアスタロトが馬に乗ってこちらにやってくる招いた覚えのない客達を眺めていた。
昨夜は俺のやりたいようにヤらせてくれて一頻り満足した後で、彼を善がらせた以上に啼かされた。先日から未知なる世界への扉を押し開かれっ放しのようで、目が覚めて我に返ると恥ずかしさで転げ回りたくなる。そして昨日の晩飯から食事の味付けが格段に良くなり、アスタロトが次は白くて柔らかいパンが選択肢の一つとしてあるのが当たり前になるように料理人達に頑張ってもらわなきゃ、と上機嫌になっていたのは今朝のことか。
麒麟の
「東の方から武装集団が進行しております」
との報告にアスタロトは、こんなバタついている時に何処かの馬鹿が戦争吹っ掛けようっての?凄い迷惑。事情を話したら帰ってくれないかな、と呟きながら綺麗な眉を寄せるので
「相手が帰るかどうかはともかく、俺達としてはまずは用件を聞き内容によって対応を決める」
と宥めた。
彼等を出迎えるのに、周辺諸国事情の分かるオルジオさんとレアン、アスタロトと俺で東門で待ち受ける。聖獣達は引き続き隠密形態で控え、『聖都』と大神殿はアスタロトが地中から天空までがっちり結界を張って今は俺達以外は出入りできない状態だ。
「私、なるべく黙ってる。うっかり煽って喧嘩腰になられると困るし。喋って欲しい時には私の目をしっかり見てね」
とアスタロトが宣言するのに合わせて俺も
「あぁ、俺も口を挟むのは極力控えよう」
と言っておく。『人間たちの事には関わらない』って建前としてあるからね。そうアスタロトが言うとオルジオさんは了承の意で頷き、レアンは苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。
そして来訪者達は声がはっきりと聞こえる所で馬を止め、先頭にいた銀色の鎧着用の騎士風の男性が名乗りを上げる。…男、だよな?体格は確かに筋肉が程良く付いた、戦士としては申し分ないものだが、その、見目麗しいというか、無駄にキラキラしているというか……。
「私はジョウガ王国、王国騎士団団長ロジェ・ザルーブ。『聖都』及び『聖樹』に異変有りとの報告を受け調査に参った次第。『聖都』の領主殿及びイルシャ教大神殿の代表の者に取次ぎを願いたい」
麒麟の報告通りだな。聖獣達は迫りくる集団の間近で情報収集を行い、オルジオさんをはじめレアン、放蕩貴族男改めベルシーム、マーリオにその内容について教示と確認を経て彼らのデータ、行動目的等をほぼ正確に把握するに至った。改めて思うが聖獣達、有能だな。武装部隊は主にジョウガ王国騎士団でそれに加えてジョウガ王国神殿所属の聖騎士が三人。目視できる東門には30人ほどだが、南門、北門、西門付近に12人くらい潜伏している。先行してやってきた三名は先程名乗りを上げたロジェ団長、シャンテ第三部隊長、イルシャ教ジョウガ王国神殿所属聖騎士ルセーニョだ。
オルジオさんがついっと一歩前に出る。
「私は『聖都』で助役を務めております、オルジオ・ロークと申します。この度の災禍についてはジョウガ王国の素早い反応に感謝いたします」
この災禍はイルシャ教関係者の『魔神』『聖女』『聖樹』の誤った認識による積年の歪みが起因する事、それにより様々な異変が生じ『聖樹』が消失したことを手短に説明して、『聖都』の領主邸での会談をオルジオさんが提案すると三名共特に異を唱えることなく領主邸の応接室で話をすることとなった。
俺達の紹介の時の彼等三人のアスタロトを見る蕩けたような惚けたような粘っこい目つきは気に入らないのだが、それと同じくらい聖騎士ルセーニョがレアンを見る時の少し蔑んだような鋭い目が気になる。
「ではそちらのお二方の働きで異変を収めることができた、ということですね?」
とロジェ団長は俺とアスタロトを交互に見た。主にオルジオさんに『聖都』で起こったことの説明と受け答えをしてもらって、『魔神召喚』に関しては単なる暴動として伝えてある。向こうの聖騎士とレアンは面識があるのか、お互いに怪訝な視線を向けている。過去に面識があるのだろう、ただ確証が持てないのか言えない事情があるのか。…アスタロトが手をそっと俺の腕に添わせる。横目で見ると彼の表情は変わらないが、あのような粘っこい視線に晒されるのに嫌悪を感じているということか。
「えぇ、そうです。大変助かりました。それで、ジョウガ王国での異変はどのようなものだったのでしょうか」
とオルジオさんは俺達への関心を上手く避けつつジョウガ王国の話を促す。
ロジェ団長と聖騎士ルセーニョによると、3日前の夕刻前に高位司教、聖騎士、王国内の要職の中で不調を訴えたり昏倒する者が出始め、日が変わる頃に昏倒していた者の中で塵となり消えてしまう者が出た。『聖都』や大神殿に連絡するも応答は無く、『聖都』から来た者達の話では『聖樹』が消えてしまったという。明らかな異常事態に対処すべく、まずは現地調査を行おうと部隊を編成して『聖都』へと赴いたのだと。
……この世界での連絡というのは、どのようなものなのだろうか、気になる。後でオルジオさんに要確認だ。
「我が国では未だ目覚めぬ者が多数おります。もし目覚めさせる術をお持ちであれば是非ともその術を施していただきたい」
とロジェ団長はアスタロトにビタッと目線を合わせて懇願する。
『アスタロトの治癒魔法』という説明からすると、ロジェ団長の対応としては正解だな。
「……だってよ。どうする?」
とアスタロトは俺に助けを求めるように顔を向けた。俺としては彼の望みのままに、と言うところだが。だがそれでは優しい彼のことだ、かの国へ赴き治癒を施すのは当然、他の国でも苦しむ人達の為にその力を惜しみなく使ってしまうだろう。それは彼を今よりも多くの人の目に晒すことになり…彼の多大な負担にならないか?俺がどう答えるべきか苦慮していると
「ちょっ、ちょっとおおま、お待ちください!」
聖騎士ルセーニョが裏返った声で言葉を詰まらせながら待ったを掛ける。
「そ、その、レアンという者、詐欺師ではありませんか?!」
何を根拠に?とアスタロトが極々小さく呟きレアン以外の皆がルセーニョからレアンに注目する。ルセーニョはビシッとレアンに人差し指を突き付けて力説する。
「その者は本当は『オル』という名で、5年程前まで大神殿に勤めておりましたが、謎の失踪を遂げた怪しき人物です!魔教徒集団との関わりがあるとの話もあります!この異変を引き起こしている元凶と何らかの関係が、いや、深い繋がりがあるに違いない!」
元凶?単なる詐欺師風情が?との小さいがはっきりとした声に、バッ!と皆がアスタロトを見る。彼は粗相をしでかした子どものような顔で口をつぐむ。遅い。というか「詐欺師風情」って。俺は頭を横に振ると
「確かにレアンが大神殿で図書に関わる仕事をしていたことは聞き及んでいる。『魔神』や『聖女』等の造詣も深いだろう。疑われても仕方がないことを散々遣らかしているのも想像に難くない。だが、彼はこの異変に関しては無実だ」
とルセーニョに淡々と言葉を返す。が、ルセーニョは何が何でもレアンの所為にしたいのか
「だ、だが、しかし、では何故今頃姿を現したんだ?お前がやったんだろう?」
何を?どうやって?とまたアスタロトが呟き、ばつが悪そうに俯いて口元で伸ばした両の人差し指を交差する。なんだそれはかわいいじゃないか。だが彼のそんな仕草を見ていたのは俺だけだったようで、他の者は皆ルセーニョに注目していた。
読了、ありがとうございます。
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更新が遅いのは偏に作者の力量不足です。申し訳ございません。レアンの本名、オルレアン・ブロースです。作中で一番設定が細かいのは今のところ彼です。
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