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聖者のお務め  作者: まちどり
64/197

64.『大聖女』の居住区(59)


 どういうことだ?と言いたげにレアンは顔を上げてアスタロトを真っ直ぐに見つめる。

「貴方の言うところの『世界を巡る力の化身』は私のことだから」

 アスタロトはふわりと花が綻ぶような笑顔で暴露した。


「……噓だろ?」

 驚愕の表情でレアンがアスタロトを見返す。確かにアスタロトは『魔神』の印象からは懸け離れている。

「も一つ言うと、彼が『運命の人』!」

 でぃーすてぃにぃーっ!と声を掛けながらアスタロトは俺を手で示す。


「「はぁっ?!」」

 なんだその『でぃーすてぃにぃーっ!』というのは?!レアンが俺を、俺がアスタロトを凝視する。そんな彼は、目が合うと仄かに顔を赤らめた。


「抑えとかついとかつがいとか『聖者』とか、いろいろ呼び様はあるんだろうけど、たぶんこれが一番正確のような気がするのだけど」

 アスタロトは俺の目をまっすぐ見つめ返して

「『愛しい人』の方が良い?タケシは『愛し子』って言ってたっけ?」

と小首を傾げる。かわいい。ではなくて、『愛し子』は勘弁して欲しい。そんな柄じゃない。


「で、『魔神』を見てみたかったって?」

 アスタロトは驚きすぎてか間抜けな顔で俺達を見ているレアンにくるっと向き合い淡々と告げる。

「貴方の願い通り、わ ざ わ ざ 姿を現してやったんだから、私の言うこと聞きなさい。死ぬことは許さない」



 ※※※※※



 大神殿に戻ると、連れて来た破落戸共の分まで晩御飯と寝床が用意されていた。玄武に事情を聞いた大神殿の皆さんが用意したという。有難い。破落戸共はレアンと放蕩貴族男に取り纏めてもらう予定だが、アスタロトが反逆行為の防止対策に見張り役を付けておこうと、馬車に積んで持ってきた鎖をジャラジャラと纏めて造ったのは。


 ゥワッフーーッ!


 拳を振り上げピョーンと跳び上がったのは、マーリオに似た顔立ちの緑の帽子とシャツ、藍色の胸当て付きズボンを着た若い青年男性。


「マーリオ君の助手、その名も『類似ルイジ』君!」

 アスタロトが得意気に紹介する。

「…助手、ですか?」

 マーリオがまじまじとルイジを観察する。

「腕っ節の強い弟分って感じかな。仲良くしてね」

 フンムッとルイジは腕を力強く曲げて力瘤を出す素振りを見せるが、全体的に細い体格で様になってない。頼りない印象を受けるが、元は金属の鎖だ。見た目に反して頑丈なのだろうな。




 アスタロトと二人で晩飯を食堂で食べた後、諸事を聖獣達に任せて今日の寝床に向かう。用意されていたのは『大聖女』様の居住区。…女性の部屋の無断使用は気後れするのだが、まぁ、今更だな。アスタロトは全く気にしていないどころか、心が浮き立っているようにも見える。部屋の内装は豪華でも華美でも無く、清貧で質素な中でも格と品質の高さが感じられる造りとなっている。


「アーリエルさんの趣味なのかな?うん、なかなか良いね」

「あぁ、心が安らぐというか、落ち着くな」

 アスタロトがそう感想を述べると、俺は、ほぉ~っと息を吐いた。


「ラクーシルの部屋も質素な感じで、意外だった」

 『大聖女』の部屋と隣り合わせて『大司教』の部屋がある。監視も兼ねていたのか。

「確かに。だが、所持品が少ないように見えるのは、何処かに隠し部屋でもあるのだろう」

 俺は何か違和感のあるところを探るべく、部屋の中をぐるっと見回す。

「明日は家探しだねっ!」

 何が出てくるか、楽しみ!とアスタロトの弾んだ声が彼の明日への期待を感じさせた。



 ※※※※※



 『大聖女』『大司教』専用の浴室はとても広く、手早く汗を流して俺とアスタロト二人で手足を伸ばしても端に届かない程広い湯舟を堪能する。熱くも温くもない丁度良い湯加減で、ずっと浸かっていられそうだ。気持ちい~!と長い黒髪を一つにまとめたアスタロトがバシャバシャバシャと脚をバタつかせてはしゃぐ。大きな波紋がトプンと胸に当たって砕けた。


「広いからって離れて浸かる謂れは無いよね」

とアスタロトは俺の横にピタッとくっつく。タオルは湯舟に付けちゃ駄目、と注意されたので二人とも頭の上に乗せており、濁りの無い無色透明のお湯では体の線が隅から隅まで露になって目の置き場にとても困る。触れ合った肌から柔らかさと温かさがじんわりと伝わってきて心地良い。ほぉ~~っと力を抜いてアスタロトが俺の肩に頭を乗せる。タオルがずり落ちるのを湯舟に浸る前に受け止めて、何処に置くか思案して適当な場所が思いつかず結局自分の頭に乗せた。


「ロト」

「ん?」

「今日も朝から頑張ったな」

「うん、頑張った。私もガンダロフも。聖獣達もみんな」

「疲れただろう、後はゆっくり休もう」

と俺は頬をアスタロトの頭に擦り寄せる。


 アスタロトの身体から更に力が抜けていくのが伝わってくる。甘酸っぱい香りが鼻腔を擽り頭の芯から全身に痺れるような快感が奔る。アスタロトも気持ち良さそうに目を細め微睡んでいて…このまま寝てしまいそうだ。


 と、徐に彼は頭を上げて俺を見る。月の無い夜の満天の星空のような煌めく黒い瞳が真っ赤に茹で上がった俺を映し出して、なんだか恥ずかしくなってますます熱くなる。


「ガンダロフの紋様、見せてもらっても良いかな?」

「紋様?」

 相変わらず突飛だな。俺は、どうぞ、と彼に背中を向ける。


「触るよ」

とアスタロトは一声掛けると、俺の背中にある紋様をじっくりと観察しているのか熱い視線を感じる。そしてボソッと

「左の太腿」

と呟く。ん?左太腿?何かあるのか?と自分の左太腿を見下ろす。


「レアンのお姉さん。…アーリエルさんに貼り付けられてた紋様付き皮膚、どう処理したら良いかわからなくて、まだそのまま持ってるんだよね」

とアスタロトは俺の背中の紋様を撫でながら困ったように言葉を洩らす。つまりはアーリエルさんの左太腿の紋様の皮膚の持ち主がレアンの姉君ということか。


「処理、か」

 その表現、レアンには聞かせない方が良いと思うが、言い換えるのに上手い言葉が見つからない。俺は、はぁ~、と熱い吐息と共に溢す。


「そのまま返却かえしても持て余すよね、グロいし。見てて気持ちの良い物ではないからねー……レアン本人に話してどうするかを決めてもらおうかなぁ」


 でも、拙い図形が描かれた皮膚をぺろ~んと見せられても、ねぇ。とアスタロトは心の声を洩らしながら、紋様にチュッと軽く口づけて俺の首に腕を絡めて背中から抱き付く。合わさった柔肌から甘酸っぱい香りが立ち上って、俺の身体の奥底の熱いモノを刺激する。

「っん、ふぅ…それはレアンにその紋様の皮膚を入手した経緯を話すということか?」

 熱い。俺はアスタロトの腕を撫でながら訊く。

「うん。私は剥がしただけだから、詳しい事はよくわからないって正直に言う。それでレアンがアーリエルさん達のことどう思うかとか、知ったこっちゃない」

「まぁ…そうだな」

 熱い。俺は、ふぅっ、と息を吐く。身体の奥から熱い!アスタロトが絡めていた腕を外す。もう我慢出来ない!俺はくるっと彼に向き合ってその勢いのまま抱き締める。熱い俺の身体の熱を彼の身体が吸い取ってくれているようで気持ち良い。と、彼は俺の耳朶をはむっと口で挟む。温かい柔らかい唇の感触が気持ち良い。ん、と小さく声を洩らしながら彼は何度も俺の耳朶を甘噛みする。


 俺は気持ち良さにぼんやりしながらアスタロトの背中をゆっくりと撫でる。

「っぁ…はぁ、ご飯、足りなかったんじゃないのか?」

 晩飯は大神殿の調理員達が作ってくれた。具沢山のシチューと硬いパン。いつもの献立だというそれは薄い塩味で、アスタロトの美味しい食事に馴れてしまった俺としては物足りない代物だった。アスタロトがこっそり塩胡椒を足して味を調えると見違えるように美味しくなったのだが、彼は何か気になったのか「食べて」と俺に半分以上を寄越した。


「ん、正直なところ、食事よりガンダロフにくっついている方が元気になる」


 アスタロトは俺の頬に自分の頬をふんわりとくっつけると、触れた肌から身体中にぞわぞわと快感が浸みていく。身体の芯が更に熱くぐるぐると溢れてくる熱を逃すように、はあぁ~、と大きく深く息を吐くと、それが彼の首筋を撫でたのか、はぁんっ、と悶える。快感からか細かく震えるアスタロトが欲しくて頬を離して荒々しく唇を奪った。甘く香る息と共に艶めかしく動く舌を絡め取って、目の奥がチカチカと光が点滅してあぁ、身体がふわふわと蕩けて意識が白く飛んでいく……。


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