63.レアンの生い立ち(58)
更新が遅くなって申し訳ございません(>_<)
サブタイトル忘れてました!
「この世界に来る前は、俺は兵士、彼はシュフというものをやっていた。何故お前が『魔神』に固執するのかを踏まえてお前の生い立ちを話して欲しい」
♢♢♢♢♢
レアンはラズルド王国ブロース伯爵の長男として生を受けた。父はあまり姿を見せず、母はレアンが5歳の時に流感で亡くなりその後すぐ継母と連れ子が屋敷に住み始めた。11歳上の姉はレアンの母と同じくらいに愛情を注いだが、レアンは継母達が来て直ぐに神官見習いとして隣国の神殿に送られた。
神殿では持参金を持たされなかったことで孤児と同じ扱いを受けたが、纏め役の修道士は善人を絵に描いたような人柄で読み書き算術を学ぶことが出来、図書保管庫の下働きとして真面目に職務に精を出していた。
レアンは『隣国の結婚式で花嫁が消えた』という噂は聞いていた。それが姉の事だということを知ったのは12歳の時、神殿に送られてから7年後だった。その頃の彼は聖都の書類整理に駆り出されており、その時偶然目についた報告書に詳細が書いてあった。
【ブロース家は連れ子が継ぐということで姉は持参金の要らない所へ嫁に出されることになっていた。レアンの父は姉が成人になる18歳の誕生日に成金商人と結婚させて、そのままブロース家から追い出す予定だったのだろう。だが、結婚式で司祭が誓いの言葉を促した直後に、花嫁である姉は光に包まれて大勢の人の前から忽然と消えてしまった。
商人は激怒して支度金の返却と違約金の支払いを求め、元々困窮していたブロース家は程なく没落し父も継母も連れ子も行方知れず。】
その報告書は、『魔神』を制御するものとして当時召喚された『聖女』の家族に関する物だった。姉が『聖女』ならば、大神殿か『聖都』の神殿にいるのではないか?だが周りの人達に訊いても今の『聖女』の存在は誰も知らないと言う。
大神殿の書庫であれば何か手掛かりがつかめるだろう、と職務に励み、レアンが15歳の時に周囲の人達の推薦もあって晴れて大神殿図書室の司書補の職位を得た。そしてこれまで以上に『聖女』について調べるが、何故か曖昧な表記が殆どで本当にいるのかどうか疑うレベルだ。
「君が興味を持っているのは『大聖女』様ではないのかね?」
上司に指摘されて、はたと気が付いた。確か『大聖女』様は初めてそのお姿をお見せになられてからもう80年以上は経つが、未だに若い容姿を保っておられる。以前大神殿でお見掛けした時は、髪の色こそ違うがどことなく姉に似ていたような。まさか秘かに代替わりしているのでは?だが確認しようにも『大聖女』様は滅多に表には御姿は現さない。どうしたものかと考えあぐねていると、その機会は不意に訪れる。
いつものように書類を送り届けた先で、手が空いているならば手伝って欲しいと小包みを奥の『大聖女』様の住居部に持っていくように指示された。尤も侍女に手渡しするだけだから見掛けることが出来れば幸運だな、等と思っていると。
「わざわざ持ってきてくれてありがとう」
なんとご本人からお声掛けいただいた。……柔らかく淡く輝く白い絹のような長い髪に初夏の強い陽射しを喜ぶ若葉のような濃い翠の瞳。見る者をを癒す優しい微笑みは姉に似ている。が、別人だ。
聖女の事を訊こうにも、こちらから声掛けすることは出来なかった。が、図書庫へ行くのならばと返却用の書物を何冊か持たされた中に、先年亡くなったという『大聖女』様付きの司教様の日記があった。上手く隠して読み進めていくと、おそらく聖女として召喚された姉のことではないかと思われる記述があった。
姉は大司教補佐に魔法で連れ去られ、自覚することのなかった聖女としての力を強奪され、欲望の捌け口のように高位の聖職者達に強姦され、亡くなった後も聖樹の糧となるよう処置を施されて根元に埋められた、という。
優しい姉の柔らかい笑顔が瞼に浮かぶ。子どものレアンに出来ることは無かったとはいえ、それでも神殿内部でそれなりの地位となれば不遇な姉を助けることが出来るとの思いを胸に精進していた。『世界の平穏を支える為』と言われても、もし姉が承知していたとしても、まるで使い捨ての道具のように扱われるなど、納得がいかない。
『聖女』、『大聖女』、『魔神』、『聖樹』……沢山の資料を読んでいく中で判ったのは、イルシャ教の上層部としては世界を平穏に保ち大多数の人の平和を守る為には少しばかりの犠牲を払うことは致し方ないということらしい。
……だからといって『仕方が無い』なんて思える訳が無い。姉が苦しみの中で死んでいったことを許せる訳が無い。小山のように茂る『聖樹』を目にする毎に、その根元に姉が埋まっているのだと思う度に、憤りと自分の無力さと遣る瀬なさを感じて身体の奥底に澱として積み重なっていく……。
【…『魔神』の力を取り込んだというのに衰えるのが速いとぼやかれても…】
『魔神』は、世界を巡る力の澱みが意思を持った者だと伝えられている……折角意思を持つに至ったというのに、力としてただ利用されるだけの存在に還されるのはさぞかし不本意だろうな。
そう思ったら、見てみたくなった。『魔神』が世界を思うままに蹂躙する様を。
♢♢♢♢♢
そして、生まれた国に戻って放蕩貴族を誑かして資金と人材を得て『聖都』に『魔神』を召喚することを画策した、という。
アスタロトが切なそうな感じで黄昏掛けていたので、おやつのクッキーを出すと齧りながら大人しく聞いていた。
レアンが話し終わるとアスタロトは早速質問を投げる。
「ただ見たかっただけ?」
「……はい」
レアンは弱々しく頷く。
「喚び出した後のことは何も考えなかったのか?」
俺はなるべく感情を抑えて尋ねる。
「そのまま暴れて全てを壊して欲しい、と」
レアンは俯いて掠れた声で答える。喋りっぱなしで喉渇くよねー、とアスタロトはテーブル代わりに浮かせたボードに水を入れたコップを置いて、どうぞと勧める。もちろん俺達の分もちゃんと用意してくれる。
「死ぬつもりだった?」
喉を潤したアスタロトがあまり感情の籠もらない声で訊くと、レアンは静かにコクンと頷く。
「迷惑だな」
俺は、はぁ~~、と大きく溜息を吐く。
「うん、迷惑だね」
アスタロトも同意して頷く。
「じゃ、迷惑料として、手下になってもらおうかな」
「は?」
手下?
「子分でも良いよ」
「いや同じ意味だろう。奴に何をさせたい?」
「教師。だって司書やってたんだよね、いろんなこと知ってるんでしょ、その知識を是非活用してもらいたい」
あぁ、読み書き算術を教えるのは、確かに適任かもな。
「だが、その能力はあってもこの状態ではとても承諾するとは思えない」
レアンは俺達の遣り取りを聞いてもぼんやりとしている。心此処に在らず、といった感じにも見えるが。
「レアン」
アスタロトが呼び掛けると、レアンは上目遣いに彼を見た。未来を見ようとしない、暗い瞳。それには構わず、アスタロトは言葉を続ける。
「『魔神召喚』の術は全く効果は無かった。けど、『魔神』を呼び寄せることには成功していたんだ、実は。偶然だけど」
え?とレアンの目が丸くなる。それは事実だが、俺達のことを言うつもりか?というか、どう説明するんだ?
「『魔神』と『聖女』というのは人が便宜的に付けた呼称。実態は違う」
どういうことだ?と言いたげにレアンは顔を上げてアスタロトを真っ直ぐに見つめる。
「貴方の言うところの『世界を巡る力の化身』は私のことだから」
アスタロトはふわりと花が綻ぶような笑顔で暴露した。
読了、ありがとうございます。
<(_ _)>
続きが気になる、面白い、と思われた方は是非スクロールバーを下げていった先にある広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★に、ブックマーク、いいね、感想等をお願いします。




