59.『聖都』?(54)
山道、というよりはカーブの多い坂道のような感じで、常時馬車が離合出来る幅がある。植生を見ると杉や松等の割と高い山や寒い地方の物が多い。山の中腹より頂上に近い所の神殿敷地から下っていき、中腹より少し下方に降りた所に街があった。『聖都』だ。見ると、黒っぽい煙が彼方此方で上がっている。
「っ!焼き討ちか?!」
俺の緊張が伝わったのか、アスタロトの身体が俄に強張る。俺は聖獣達に命を下す。
「青龍、朱雀、白虎、状況を確認。対処は任せる」
「「「承知!」」」
青龍、朱雀は獣型になって三人共パッと散っていった。
門に到着するが、門扉は閉まっており見張りの兵士に許可を取る暇も惜しい。
「麒麟、飛べ!」
「承知!」
俺の叫びに呼応して麒麟は門扉を飛び越える。
「通るよ~」
とアスタロトが声を掛けた兵士が何やら喚いていたが、無視して通り過ぎた。
「炊き出しとか、遺体を荼毘に付するとかだと良いけど」
アスタロトが楽観的希望を述べる。
「だび、は解らんが、煮炊きであんな煙は出ない」
何事も無ければ良いが、火が回ると厄介だな。
大きな道が真っ直ぐ伸びて、その先に人だかりが見える。そして黒っぽい煙が見る間に立ち上る。あれは、人が柱に括り付けられて火炙りにされているのか?!
人垣をまたも飛び越えるとアスタロトが瞬時に火元を消火する。
「まだ、生きてる」
火に焼べられていた人を、彼は括り付けられたそのままの状態で治癒魔法を掛ける。
俺達は麒麟から降りた。状況確認の為に事情を尋ねようと思うのだが。
「父さん!」
殴られた跡も痛々しいボロボロの男の人が、火炙りにされていた人の綱を切って柱から解放していく。ふむ、親子か。
「うぉいっっ!なんだ手前等は!」
如何にも悪徳貴族風の小太り中年男にその取り巻きの破落戸が3人、そのうちの一人がお決まりの台詞で絡んできた。五月蝿く喚かれる前に牽制しておくか。
俺は剣の柄に手を掛けて、奴等を睨み返す。
「お前達こそ何者だ?しかもこれは何の所業だ?」
威嚇の意で声に力を込める。所謂ドスの効いた声だが、貴族風男と破落戸共は元より観衆まで震え上がっている。麒麟、お前に言った訳では無いのは解っているだろうに、何故畏怖するのだ?
アスタロトは麒麟を優しく撫でて
「此処は私達に任せて、出来れば傷病者の治癒を施しやすいように纏めておいて」
と指示を出す。
「っ!承知!」
麒麟は落ち着いたのか来た時と同じようにサッと人垣を飛び越えて行った。
その遣り取りを横目で見ていた俺にアスタロトが声を掛ける。
「さて、ガンダロフ。彼等の対処は私がやっても良い?」
と硬直したままの破落戸共を指す。
…何か面白いことでも思い付いたか?上辺の表情は変わらないが、彼の、新月の澄んだ星空のような黒い瞳がキラキラと輝きだした。俺は、はぁ、と息を吐くと
「やり過ぎないようにな」
とだけ言い、火炙りにされていた人とその介抱をしている男の話を聞こうとそちらに向かう。
さて、何して遊ぼうかな~♪とアスタロトが愉しげに呟く。まぁ、殺しはしないだろう。
「へ、へぇ~、色男が、俺達と何して遊ぶってかぁ~?」
破落戸共が彼を煽っている。…まぁ、殺しはしない、だろう。再起不能にはなるかもしれんが。すると
「楽しむのに邪魔だから、没収」
アスタロトは破落戸共から武器を全て、それこそ鎖から暗器、歯に仕込まれた毒薬の類まで、ザザザァーッと剥ぎ取って、火炙り用の柱の横に積み上げた。
「「「「はあぁぁ~~?」」」」
破落戸共が間抜けな顔で驚愕の声を揃って吐き出す。火炙り男とその息子、周囲の観衆もざわついている。はぁ、一言言っておこう。
「貴方方には今のところ危害を加えるつもりは無いから、落ち着いて欲しい」
……誰も逃げ出さないのだな。俺は火炙り男の傍で彼と目の高さを合わせるように腰を落とす。
「俺はガンダロフ。彼はアスタロト。出来れば貴方方の名前と、何故火炙りになっていたのか等を教えて欲しい」
そう彼等に尋ねると、アスタロトの弾むような声が聞こえてくる。
「危険物が無くなったところで、童心に返って楽しもう!1番手は、君に決めた!」
思わず振り返ると、彼は一番手前にいた破落戸の胴回りを両手で掴んで
「高い高~いっ!」
と有無を言わせず真上に放り投げた。
「ひえぇぇ~~~~……………~~~~ぇっ!」
投げられた破落戸は二階建て住居を飛び越す位の高さまで上がって、そのまま落ちてきたのをアスタロトは危なげ無くガシッと押さえる。
「流石に泣かないね。偉い偉い。それでこそ大人だね。じゃ、も一回」
驚きの表情のまま固まっていた破落戸が、はっ、と我に返る。
「え、いやちょっと待」
「『聖樹』より高い高~いっ!」
「てえぇ~~~~……」
放り上げられた破落戸から何かキラキラした物が降ってきたのを確認したのか、アスタロトは少し眉をひそめると、おそらく浄化魔法をサァッと掛けた。
暫くして無言で逆さまに落ちてきた破落戸を彼は先程と同じ様にガシッと押さえる。涙も涎もお小水も垂れ流して酷い有様だ。というのに、アスタロトは笑顔で
「うん、充分童心に返ったっぽい。お昼寝もしっかり出来てるね」
涎にお漏らしに昼寝、完全に子ども扱いだ。気絶した破落戸を身綺麗にして、邪魔にならない所に横たえた。
「さあ!次、いってみよう~!」
とアスタロトは残り3人を見渡す。現実を認識したくなかったのか、ただただ黙って成り行きを見守っていたらしき3人が、はっ、と我に返る。
「ま、待て待て一体何を」
「いやいやいやいやムリムリムリムリ」
「な、な、何であんなに高く飛ば」
彼は躊躇無く近くにいた破落戸をガシッと掴んで
「雲より高い高~いっ!」
と問答無用で真上に放り上げる。
「やってぃやあ~~~~~~…………」
放り上げた傍から先程と同様にキラキラした物が降ってくるのを、アスタロトはサァッと浄化魔法を掛けていた。愉しそうでなによりだが。
「ロト。流石に飛ばしすぎではないか?」
より高く飛ばしても気絶するのであれば意味が無さそうだ。
「ガンダロフも、飛びたい?」
アスタロトが小首を傾げて聞いてくる。
「……いや、それは…」
残念ながら好き好んで怖い思いをする趣味嗜好は無いぞ。
「あ、でもガンダロフは飛ぼうと思ったら自分で飛べるんだったね」
…これは純粋に楽しんでいるのか。
「……そうだな。それに、出来ればロトと一緒に飛びたい」
一人で飛んでもつまらないだろう?俺が表情を和らげると、彼もふわっと微笑んだ。
暫くして破落戸が無言で逆さまに落ちてきたのをアスタロトは先程と同様にガシッと押さえる。奴も、涙も涎もお小水も垂れ流した無残な姿だ。
「うん、彼も充分童心に返ったっぽい。よしよし」
彼は奴も身綺麗にして、先に伸びた破落戸の横に寝かせた。
「さて!次は誰かなっ!」
アスタロトはくるっと振り返って残った二人に声を掛ける。凄く楽しそうだ。残った破落戸は元から高い所が苦手なのか、身体を震わせて怯えている。
「なな、お、わ、わが、我が輩が何者か、知っていての狼藉かっ?!」
破落戸共の親玉である貴族風中年男が唾を飛ばす。が
「知らないし興味無い」
とアスタロトは淡々とした口調で言う。
「大体、貴方に訊くより周りの人に訊いた方が詳しく優しく丁寧に教えてくれるでしょ?」
いや確かにそうだが!ということは、初めから此奴らに聞く気が全く無かったのだな。貴族男は、興味無いって、と唖然としていた。
「星になるまで飛ばそうかとも思ったけど」
とアスタロトが言うと、破落戸はビクッと身体を震わせて彼を凝視する。
「飛ばすの飽きたから、今度はコレを使おう」
飽きた、のか。彼は積み上がっていた武器の中から鎖を念力でジャラジャラと動かして破落戸と貴族男に巻き付ける。
「「はあっ?」」
鎖にぐるぐると巻き付かれ、そのうち二人は立っていられなくなりゴロンと倒れ込んだ。
「わ、我が輩にこんな仕打ち、ぜ」
「な、なな、何しやがるんだてめ」
「はいっ♪い~も~む~し~ご~ろごろ~♪」
アスタロトか明るい歌声に合わせて二人をその辺にゴロゴロと転がし始めた。
「「えぇぇ~~~~!」」ゴロゴロゴロゴロ。
「「ひょぇぇ~~~!」」ゴロゴロゴロゴロ。
彼の歌だけ聞くと、明るくてほのぼのするのだが。彼は破落戸と貴族男を広場の石畳の上を豪快に転がしていき、1往復して様子を見る。
「ぜ、ぜ、絶対、に、後悔、させてやる」
「何、なんだ、手前、は、よぉ…」
お、まだ口答えする余裕があるのか。
「けど、汚いのを撒き散らされるのは嫌かも」
アスタロトはそう溢すと、鎖に巻かれたままの二人をズザザザザッと火炙り用の柱にぶら下げた。
「芋虫から蓑虫にチェンジ!そう、蓑虫!確か彼等は頭が下だったよね」
だからか、二人も逆さに吊り下げられていた。
読了、ありがとうございます。
<(_ _)>
『転生魔神』も『聖者』も更新直後は次話が一文字も書けてないので、作者にもどう展開していくのだかよくわかりません……。何で芋虫……。
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