57.指環の縁者(52)
アスタロトが施術していく中で気になる人が居たと言うので、俺と共にその人の元へ行く。
「私はアスタロト。彼はガンダロフ。あなたのお名前は?」
彼が声を掛けたのは、青い瞳とくすんだ茶髪の見た目は十四、五歳の少年。膝を折り両手を組んで彼を見上げているその表情は、何故声を掛けられているのかわからない、と目を見開き驚き、固まっている。
アスタロトは少年と同じ高さの目線になるように片膝をついて再度尋ねる。
「あなたのお名前は?」
その問い掛けに少年はパチリと瞬きをして
「マーリオといいます、女神様」
と答えた。
「ガンダロフ」
アスタロトは隣にいる俺を見上げて少し困ったように言う。
「私、白いワンピースとか着てた方が良かったかな」
「似合うと思うが気にするところはそこじゃない」
まぁロトだったらワンピースでもドレスでも華麗に着熟すのだろうなと思いつつ、俺は、はあぁ~、と息を吐きながら腰を落としてマーリオに指摘する。
「彼は男だ。女神じゃない」
立派なモノを持ってる。
「で、彼に何の用だ?」
と俺はアスタロトに訊いた。
「ガンダロフが提げてる指環、彼に縁のある物じゃないかと」
そう言って彼は俺の胸元を指差す。
「っ?!そうなのか?まさか本当に見つけるなんて、凄いな」
と俺は鎖をするするっと引っ張って指環を表に出した。古ぼけた金の指環が、その存在を主張するようにキラリと光る。
その指環を見た瞬間、マーリオは大きく目を開いて
「何故貴方がそれを持っているのですか?」
とわなわなと小刻みに震え指環を指差す。
「この指環はね、北にある教会の地下にあったの。指環と一緒に衣服もあったのだけど、それを身に着けていた人のことはわからない」
とアスタロトが説明している間に、俺は鎖から指環を外して手の平に載せてマーリオに見せる。
「とても強い守護の念を持つ物だから、縁のある人に持っていて欲しいと思ってた。見つかって良かった」
ふわっ、と花が綻ぶようにアスタロトが微笑む。
うわあぁぁ~~~っ!かわいい~~~っ!というか、ロト!そんな不意打ちは止めて欲しい!いや、無意識なのだろうが。マーリオが顔を真っ赤にして固まったのを、何故?と言いたげに俺を見られても!かわいさが増してくるのだが!!
気を取り直して
「ん゛んっ、で、指環は返して良いのか?」
と咳払いをしてアスタロトに訊く。
「うん。で、マーリオ君。君とこの指環の事と、前の持ち主の事を教えて欲しい」
大広間に聖獣達が入ってきたのが見えたからか、アスタロトはここでは落ち着かないから後でね、と俺が差し出していた指環をマーリオに渡して聖獣達の元へ行く。
「お疲れ。街の方の話は食堂で詳しく聞くことにしよう」
俺が麒麟に声を掛けると、聖獣達の後ろからピョコピョコンと十五歳位の少年?が二人、顔を覗かせる。
「ジョーイ、ジョニー、お疲れ様」
アスタロトが二人に声を掛けると、聖獣達の横にささっと並んで敬礼をする。
「清掃、終了しました」「しました」
先程、アスタロトは集塵機ズを人型に変化させ、ピンクの髪に赤い瞳をジョーイ、水色の髪に青い瞳をジョニーと名付けた。ショートボブにクリーム色の帽子とつなぎ、焦げ茶色の腰ベルトポーチと長靴の装備。主に清掃を担う眷族として造り変え、まずはこの宿舎の清掃を任せた。
「何か不具合は無い?」
アスタロトは彼等の様子をじっくりと観察する。
「「はい、今のところ無いです!」」
「では、彼等の退室後、ここの片付けとお掃除をお願いね」
「「ラジャー!」」
二人とも自由に動けるのがとても嬉しいようだ。
※※※※※
ここに集められていた神殿関係者達に、全員食堂で食事をとること、代表者を決めて俺達の指示を受けることを伝え、皆でぞろぞろと大広間から食堂へと移動する。食堂では既に人数分のパンと具沢山のスープが用意されていた。聖獣達、手際が良いな。
俺とアスタロト、代表者としてマーリオが同じテーブルに着く。マーリオは貴族の令息だったそうでこの中では身分が一番高いのだとか。俺達はお茶をいただきながら、話を聞くことにする。
先に麒麟から街の様子を訊く。
「かなり混乱しております」
町長・区長などの取り仕切る立場の者が見当たらず、一部略奪行為などの形跡があり治安はよろしくない、と。黒い靄の影響で辛うじて動ける状態の者が殆どだったのが、アスタロトが放った浄化の魔法で毒素等が取り除かれ、若干の衰弱は見られるものの自力で回復出来る程度だという。
「治安の悪化は好ましくないな」
ここまで波及しないと良いが。
「マーリオ、街の警邏等は今までどうなって」
マーリオは、えぐっえぐっと泣きながらパンを齧っていた。
「いや、話は後で良いから、落ち着いて食べてくれ」
もしかすると久しぶりの食事か?マーリオがパンを頬張ったままコクコクと頷くのを見て、麒麟が手拭きをマーリオの傍にそっと置いた。
マーリオだけじゃなくて此処で食事をしている皆が同じような状態で、うれし泣きなんだろうがどことなく悲壮感が漂う。アスタロトも少し眉をひそめてその光景を眺めている。
「ロト、この者達にやらせたい事とは、大聖女であるアーリエルさんの世話なのだろう?後はルゥさんとアーリエルさんをここに連れてくるだけで良いのではないか?」
あ~~、と小さく唸ってアスタロトは
「そうだね。此処での異変の状況を把握したら、ルゥさん達を此処に連れてこよう」
と良い笑顔で答えた。
「で、街の方は、構う?無視する?私としてはどちらでも良いよ、どうせ暇だし」
「治安が良くない所に君をわざわざ連れて行きたくはないな」
との俺の言葉にアスタロトはニヤッと口角を上げて、でもね、と続ける。
「絡んできた奴等を片っ端から矯正していくのも面白そう」
「直ぐに飽きるのでは?」
「飽きたら燃やしてお終い、とか」
アスタロトはそう言うが実際は温厚だからそう悲惨な状況にはならないだろう。……『暇』と言ったか?大人しくじっとしている性質ではないし、俺が傍についていれば大抵のことは対処できるとは思う。何せ彼は強いのだし。彼に手を出すような輩は先に俺が打ちのめせば問題無い。
「市井の者達を恐怖で支配するのは短期的には良いか。混乱を治めることが最優先だしな。どうせ此処には長居するつもりは無いのだろう?」
「うん。私達が傍若無人に振る舞えば、後から来るルゥさん達が善人に見えて支配はやりやすいかもね」
ルゥさん達がこの都市を支配するのは、アスタロトの不都合にはならないだろうか。まぁ、気にしてはいなさそうだが。
「で、そろそろお話し、出来るかな?」
アスタロトはマーリオに話を向ける。彼はもう食事も終わって落ち着いた様子で俺達の話を聞いていた。
「あ、はい。先程は失礼しました。パンもスープも凄く美味しかったです。ありがとうございました」
アスタロトが俺を見る。何をどう訊くか悩んでいるのか?マーリオが答えやすいようにと俺が質問をする。
「まずは君の身の上話を簡潔に、それから君達の日常に異変が起こってから俺達と会うまでの間に、何があったのか教えて欲しい」
※※※※※
マーリオはこの神殿では下働きとして働いている。元は此処から東にあるジョウガ王国の貴族子息だったのが、両親が事故で亡くなって叔父の家族に家を乗っ取られ、叔父の三男と共にこの神殿に放り出されたと言う。指環は此処に来る道中にその三男に取り上げられてしまったのだとか。神殿に着いてから直ぐに離れて生活していたので、三男がどうしていたのかはわからない。
「ワーリオ様は乱暴も、んんっ、力がそこそこ強い方でしたので、どなたかの護衛でも務めていらしたのかも」
「その三男、ワーリオって名前なの?」
「はい。私より3才年上です」
アスタロトは『ワーリオ』という名前に何か引っ掛かったのか
「『ルイージ』っていう弟がいたりしない?」
と瞳を輝かせて訊く。…弟?
「いいえ、弟はいません。妹が一人、『ディアナ』といいます」
マーリオはパチリと瞬きをすると真面目に答えた。
読了、ありがとうございます。
<(_ _)>
次回『カクテー深刻、曝かれた真実!~嘘っ!こんなに持ってかれてたの?!』お楽しみに!(嘘です、たぶん)
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