42.御結婚、おめでとうございます?(38)
いつも読んで頂きましてありがとうございます。この度は別視点小説に誤投稿し、その為にこちらの更新が遅れてしまいました。本当に申し訳ございませんでした。
<(_ _)>
♪あーめがふーります、あーめがーふーるー♪
外はシトシトと冷たい小雨が降ってた。なんとなくつまらなさそうにアスタロトが口遊む。
お昼ごはんを食べ終わってから、大きな木の所に行く、とアスタロトが言うので
「雨が降っているから、明日でも良くないか?」
と苦言を呈する。
すると彼は
「明日も雨降るかもしれないし、濡れても風邪引かないよ」
だから『行かない』という選択肢は無いらしい。
「でも、ガンダロフは身体冷やすと具合が悪くなるからお留守番でも」
「一緒に行く」
離れる、という選択肢は無い。だよね。と彼は笑顔で返す。
「要は濡れなきゃ良いんだし。魔法で、身体の周囲の余計な湿気を飛ばすように想像して」
アスタロトに、出来る?と聞かれたので、やってみる。と応える。では、とまず彼が試しにやってみて、それを手本に俺と手を繋いで…出来た。離れても問題は無い。
「すぐ出来た!凄いね!さすがガンダロフ、頼もしい!」
「教え方が上手いからだな」
と返すと彼はえへへっと照れ笑い。んんっ、かわいい!
魔法とは全く縁の無かった俺がこうも簡単に習得出来るのは、やはり彼の指導が上手いからだと本当に思う。ただ、実際にやることはえげつないんだが。彼の褒めて褒めて褒めまくる教え方は……うむ、こそばゆい感じがまだ慣れないなぁ。
※※※※※
気を取り直して、厩舎に行く。馬達は、さすがに雨に濡れるのを避けたようで、厩舎でのんびりと過ごしている。
「グラナ、リパス、ジル、こんにちは。今日は冷えるね」
とアスタロトが声を掛ける。所謂湿気寒い感じだが、三頭ともそれなりに元気そうだ。
『こんにちは。アスタロトが無事で良かった』
とグラナが寄ってきて彼と話をしている。
「うん、心配してくれてありがとう」
『木がもの凄く怒ってて、怖かった』
木が怒るとはどのような状況だったのか。アスタロトの危機とどんな関連があるのか等々、大きな木に実際に会って訊いておかなければ。
リパスとジルも元気そうだ。ジルは何故か俺に擦り寄ってくる。鼻面や背中を撫でたり耳の裏を掻いてやったり。手が止まると、もっとやれ!とばかりに鼻で突き回す……こいつ、俺のことを何だと思っているんだ?
※※※※※
大きな木に行こうかと厩舎を出ると
「はるさめじゃ、濡れて参ろう。食べる方が好きだけど」
とアスタロトが朗らかに言う。
「はるさめ?」
彼が唐突に意味がよく解らないことを言うのは慣れた様な気はするが、だからといって解らないまま流す事はしたくない。
「春の雨、という意味なのだけど、そういう名前の食材があるの。ちゅるちゅるんって美味しいんだよ、サラダにしても良いし、スープに入れても良いし、油で揚げると軽い食感で♪止やめられない、止とまらない♪」
「………………そうか」
解るようで解らない。彼のこの説明で判明したのは、彼は美味いものを食べることが本当に好きなんだな、ということ位か。
歩きながらたわいない話をしていると、いつの間にか大きな木の近くまで来ていた。あまり風は吹いていないのだが大きな木の葉が全体的にさわさわと小刻みに揺れており、張り出した枝の下も雨が降っているのと同様に細かい滴が多量に垂れる。
「…歓迎?」
とアスタロトが小さく呟くと、淡い光が木の中心からふわぁ~~と拡がる。それに一拍遅れて、青い爽やかな香りと『嬉しい!』と昂揚した気持ちが辺りに拡がっていった。
「昨日ぶりだな。ご機嫌のようでなによりだ」
と俺が声を掛けると、腰に下げている剣も大きな木に応えるように淡く光る。俺は
「次に来る時は、ロトを連れてくると言ったから」
とアスタロトに笑みを向けた。
彼も大きな木に明るく挨拶をする。
「こんにちは、初めまして。アスタロトです。お葉書ありがとう。これからもよろしくね」
すると、木の枝という枝の上に俺の手の平より気持ち小さい淡い光の玉がポポポポポンと大量に出現して、その玉が弾けたと思うと2.5等身程の薄い黄土色の小人が現れた。そして
『御結婚、おめでとうございます!お二人の行く先に多くの幸あらんことをお祈り申し上げます!』
と頭の中に響いた次の瞬間、その小人達は一斉に
御結婚、おめでとうございまぁ~~すっ!!
と唱和した。
「「『え」」』
俺とアスタロトが呆気にとられて口をポカンと開けて剣と一緒に茫然と佇む中、小人達はわいわいがやがやとそこら中飛び回ってお祭り騒ぎ。光の欠片が花吹雪のようにキラキラと舞い幻想的な景色が目の前で展開されていく。
が、俺達は混乱を極めて
「剣、これは一体どういうことだ?何が起こっている?というか、け、結婚?!」
『剣にもわかんない~!何で結婚~?』
「…この世界でも男同士で結婚出来るんだ…」
と、唐突に大きな木と小人達の動きがピタッと止まった。え、次は何だ?シトシトと細かい雨が下草の葉に当たって大きな粒となって地面の方に流れていく微かな音が暫しこの場を支配する。
『……男同士?』
大きな木の小さな呟きがやけに頭に響く。
それにアスタロトが反応する。
「それ確認するの、今更じゃない?それより、『結婚』の意味合いがあなた方と私達、もしかしたら私とガンダロフと剣ちゃんでもかなり食い違っているような気がする」
『結婚というのは』
と剣が言いかけて、沈黙した。ルゥさんがアーリエルさんをお姫様抱っこして飛んできたからだ。
「一体何があったのですか?」
とアーリエルさんを降ろしたルゥさんに問われる。アスタロトが、いや、現在進行形なんだけどね、と呟きつつ
「『結婚おめでとう』って祝福受けたのだけど、『結婚』の意味が解らない」
ルゥさんはアスタロトが何を言っているのかさっぱり解らないという感じで眉をひそめる。
「この大きな木に祝福を受けたのだが、『結婚』というのが何をもってそう判断されたのかが判らなくて困っている」
と俺が補足説明するが、これで解るのは『解らない』ということだな。
『大きな木』と聞いてルゥさんは件の木を見上げるが、ルゥさん達の到着時には光も小人達も影も形も無くなって、下草に寄り集まった雨粒が滴る音が聞こえる程静まり返っている。
その遣り取りの横で、アーリエルさんが感嘆の言葉を洩らす。
「これは『聖樹』!なんて立派な…でも、何故こんな所に?」
胸の前で手を組み、恍惚の表情を浮かべて木を見上げている。エメラルドのような翠の瞳がキラキラと輝いて、その姿は正に聖女だ。
「せいじゅ?って何ですか?」
とアスタロトが質問する。そういえば白修道服との会話だかでその言葉をちらりと聞いたような。アーリエルさんは少し興奮気味に答える。
「『聖樹』というのは、この世界をお創りになった主様がこの世界の支えと為なるようにと植えられた聖なる樹木のことです。この大陸の中央、聖都にありまして、わたくしは聖女としてことある毎にお祈りを捧げております。ですが…」
アーリエルさんは俯くと
「…聖都の聖樹は、わたくしが初めてお祈りを捧げた時に白い花を咲かせて以来何も応えず、最近は息も絶え絶えという感じで……わたくしの無力さを痛感するばかりです」
と声が段々と萎んでいった。
「これが『聖樹』として。聖都にある物と同一個体?それとも種類は同じで別の個体?」
とアスタロトが淡々と尋ねると彼女はパチリと瞬きをして
「『聖樹』ではありますが、別の木です」
と即答した。
「そっか~。その聖都の『聖樹』が移動してきたのかと思った。根っこは続くよ何処までもって感じで」
と、アスタロトは普通の木と同じ様になった『大きな木』を見上げて言った。
読了、ありがとうございます。
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