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聖者のお務め  作者: まちどり
41/197

41.昼食は(37.4)


「……済まなかった……本当に…その……」

 俺は謝罪の言葉を口にすると、真っ赤になった顔を両手で覆って俯いてしまった。羞恥で顔が上げられない。


 俺の変わり様に

「私がなかなか目を覚まさなかったから、私を抱き締めて号泣してたの」

とアスタロトが説明すると、アーリエルさんの、まあっ!という感嘆が聞こえてきた。うむ、嘘、ではないな。彼の説明はかなり言葉が足りないが、それはいつものことだ。


「で、話が逸れたけど、服とか装備がそのまま残っていて中身だけが消えた感じなのだけど、何故だかわかる?」

とその流れでアスタロトが尋ねる。


 それに便乗する形で

「そう、昨日の襲撃の時も、兵士を斬り伏せるとその兵士は塵となって消えたのだが、この世界では死体は残らないのか?」

と俺は言葉を連ねた。横でアスタロトが何故かキラキラした瞳で見つめる。…何に反応した?


「彼等は御使い様の部下達です」

 俺の問いにアーリエルさんが答える。


「わたくしも詳しくはわかりませんが、常ならぬ力を分け与えられた屈強な戦士なのだと聞いていました。その…彼等が倒されるのを見たのはあれが初めてで、わたくしも彼等があんな風に塵となってしまうなんて……でも、確かにわたくしの知っている方々で…人間でしたのに。……ただ…」


 話しているうちに、アーリエルさんの顔色が悪くなっていく。見知った顔が塵と目の前で消えていったのは確かに衝撃だろう。


「ただ…彼等もわたくしのように、もう長い間姿形が変わっていないのです。30年から50年程」


「えっ、アーリエルさん、歳幾つ?」


 小さいがアスタロトの驚嘆の声がはっきりと聞こえた。いや、妙齢の女性にそれ訊くか?


 ルゥさんがアーリエルさんに気遣わしい眼差しを向ける中、彼女は俯いたまま弱々しく答える。


「…16の時に紋様を刻まれて、そろそろ100年になります」


 アスタロトは本当に驚いているようで

「この世界の人って、長生きなんだねぇ。で、1年は365日?」


 そうだよなぁ、ここは異世界。1年が何日かなど、世界毎に異なっていてもおかしくはない。


 聞けば月の満ち欠けを基にした暦で、今の季節は春。で、俺達が召喚された時は丁度日食が起こっていたのだとか。


「話を戻して、その兵士達もアーリエルさんと同じように紋様を刻まれたということ?」

 アスタロトはアーリエルさんとルゥさんを順に見て訊く。


「直接見たり聞いた訳でもありませんが、わたくしと同じく何らかの紋様を刻まれていたのかもしれません」

とアーリエルさんは震える声で答える。いや、声だけじゃなく身体も小刻みに震えている。自身の行く末を見せられた感じなのだろう。……俺も死んだら塵と消えるのだろうか。他人に迷惑かけること無く逝けるのであれば、それも良いか。


 ルゥさんがアーリエルさんの背に腕を回して「ずっと傍にいる」等々優しく声を掛けるのを目の前にして、アスタロトはそわそわしている。飽きたのか腹が減ったのか、いずれにしろ、お昼だ。



 ※※※※※



 ♪おべんとおべんとうれしいなぁ~♪


 アスタロトの楽しげな歌声が食堂に流れる。が、マジックバッグのランチメニューを眺める表情はあまり浮かない感じだ。……朝食が期待外れ過ぎたのだろうか。


 まずは朝と同じように昼食セット①②を『毒味』と称して捕虜二人に先に食べさせた。朝に引き続き好評だったらしい。ルゥさん達にも同じ物を玄武に持って行かせた。




「俺達も同じ物を出すか?」

と聞くと

「迷ってる」

と返ってきた。不味い訳では無いが、かなり口に合わなかったというところか。他人が言えば「つまらん」と切り捨てるが、彼には小さな事でも無理とか妥協とかはさせたくない。俺は、はぁ~と小さく息を吐いた。


 その様子を見てアスタロトは申し訳なく思ったのか

「このバッグの中の料理って、たぶんこの世界では最高水準の物だと思う。でも、好みじゃない。……ごめんね」

「いや、ロトが謝ることは無い。確かに朝食を食べた感じでは、ロトの作った料理の方が数段美味い」


 そう、俺だって食べるのであれば美味いものが食べたい。そしてここに来てからの美味いものはロトの作った料理だ。毎食作ってもらうのは気が引けるが、それでも食べたい。ロトは俺の言葉が嬉しかったのか、ぱあっと明るい笑みを満面に浮かべた。うむ、かわいい。


 では、と調理を早速始める。聖獣達の分も用意したいからと、マジックバッグからそれなりの量の食材を出した。お、玉子も使うのか、楽しみだな。


 慣れた手つきで食材の下処理をしていく。俺も野菜を洗ったり皮を剝いたりと、出来ることを手伝う。後は彼の立ち回りの邪魔にならないように。スープ鍋の底が焦げ付かないようゆっくり掻き混ぜながら、彼が淡々と流れるように作業していくのをじっくりと鑑賞した。キリッとした真剣な眼差し、髪は三つ編みですっきりと纏め、簡素なエプロンが彼の洗練された動きを際立たせて、はぁ、眼福だ…。


 そして大体30分程で七人分の料理が出来上がる。お馴染みとなった野菜スープに小麦粉団子と焼いたベーコンを加え、芋は細切りにして炒めて、真ん中に半熟玉子が乗っている。


「料理の種類に幅が無くて申し訳ないです…」

「いや、毎回目の前で美味い料理が出来上がっていくのを信じられない思いで見ているのだが。作業自体は何の変哲も無いものだとわかっているし、何なら昨日の俺達が作った夕食とそう変わらないのだが」


 仕上げに、とアスタロトは硬いチーズを削って粉にした物を、潰して粗い粉状の黒胡椒と一緒に半熟玉子に振りかけ、香草か?葉を瞬時に乾燥させてスープの上に砕きながら振りまいて、完成!と声を挙げた。


 出来たてを頂く。スープを飲む。美味い。いつもの野菜スープの素材の味を感じる素朴な味わいに、練って一口大にちぎった小麦粉の団子が食べ応えを増して、やはり一口大に切って焼いたベーコンが味に深みを加えている。仕上げに散らした香草が味変わりの役目をして、何杯でもいけそうだ。


 芋は、細切りにして熱の通りを優先したのだろう、焼いた面はカリッと芳ばしく上面は少しもちっとした食感が面白い。少し癖のあるチーズの塩気とたまにピリッと痺れる黒胡椒が味に変化を付ける。そして玉子は黄身がとろりと流れ出すかどうかの絶妙な固まり具合で、芋と絡まるとチーズの癖と黒胡椒の口当たりを柔らかくしてくれる。美味い。


 あぁ、アスタロトが食べることに拘っていることが解るような料理だ。『料理の種類に幅が無い』との意見は、却下だ。食材の種類と時間があれば、おそらくもっといろいろ作るのではないかと思うぞ。こんなに美味いものを毎食食べていたら、そのうち他の料理は受け付けなくなるのではないか?もっとも彼と離れることなど微塵も考えてはいないが。


 俺が多めに分けてもらった芋を平らげ、お代わりした野菜スープをじっくりと味わうのを、アスタロトは満足げに暖かい眼差しで見つめていた。


 読了、ありがとうございます。

 <(_ _)>

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