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聖者のお務め  作者: まちどり
39/197

39.彼等と俺達の違いは(35.7)


「私だけではなく彼女にまでその慈愛に満ちたお力を使っていただき、この、感謝の念を、どうお伝えしたら良いか……本当に、ありがとうございます」


 ルゥさんの焦げ茶色の瞳が潤んでる。アスタロトに多大な恩を本当に感じているのだというのがしっかりと伝わってくる。そんなルゥさんを労るようにアーリエルさんは彼の膝の上に置かれていた手に自身の手を重ねた。彼女の翠色の瞳も潤んでいる。


「私としてはこの世界の情報を得る対価として使ったつもりだから」

 『対価』か。彼はどれだけの力をルゥさんに与えたのだろうか。

「はい。私共でわかることであれば、何なりとお答えいたします」

 ルゥさんはにっこりと笑顔で応じた。


「では初めに、ルゥさんとアーリエルさんが力を得た時の事をお話していただいても、よろしいでしょうか?」


 アスタロトは淡々と言葉を綴る。が、何故かルゥさんとアーリエルさんの顔がほんのり赤くなる。何か無意識に変な事言ったかな?とアスタロトが目で訊いてくるが、俺にも解らない。今の発言に曲解するような要素は無いと思うが。俺は

「お二方が魔神と聖女になった経緯を聞いて、自分達とどのような相違があるかを調べたいのです」

と補足した。


「相違、ですか……では…はい。私が『魔神』としての力を得た時の事をお話しいたします…」

とルゥさんは直ぐに平素に戻ると、静かに語り始めた。


「私は、元はルドラ・ダイザーというダイザー王国の第二王子でした。王座に興味は無かっ」

「ちょっと待ってください。申し訳ないのだけど」


 アスタロトがルゥさんの言葉を遮る。ルゥさんは少し不満げに顔を顰めて口を噤つぐんだが、彼は構わず続けて言う。

「ルゥさんが教会の偉い人で殺されて力を与えられて所謂いわゆる魔神になった、ってことですよね」

 いや待てそれは当てずっぽうってやつではないのか?!しかもすごく大雑把過ぎる!

「私が知りたいのは、お二人がどのような状態、状況で力を得たか、ということです」


 アスタロトは表情を変えず淡々と言葉を連ねる。それは「ルゥさん達の過去は興味無いから、要点だけ話せ」と言っているように聞こえるのだが。これはさすがに失礼じゃないかと、俺は頭に手をやって、はぁ~と小さく溜息を吐いた。


 しかしルゥさんは「何故知っているのだ?」とばかりに驚きの表情をほんのわずかだけれど浮かべ

「そうですか…失礼いたしました」

と否定しなかった。……はったりじゃないのか、これ……。


 改めてルゥさんは静かに語り出す。




 死んだはずのルゥさんは白っぽい空間にいて、白く光る玉に懺悔を行っているといつの間にかアーリエルさんが傍にいた。玉から人型になった御使いとの会話で、二人が御使いの仕事を手伝う為にここに呼ばれたこと、アーリエルさんが瀕死でルゥさんは死亡した事を知る。


「御使いは、私の中に力が在るのがわかるか?と問い、その、力の在処ありかをその手で示されたのです」


 ルゥさんが無表情ながらもほんのりと顔を赤らめて少し伏し目がちに語る。

「何処?」

 アスタロトが言葉短く質問していく。

「その…私の身体の奥に」

「指差し確認みたいな感じ?あぁ、でも身体の奥だよね……」


 アスタロトは上手く理解できないのか、腕と脚を組んで、んーっと唸っていると、ルゥさんは

「いえ、こう手を当てられまして」

とおへその辺りに自身の手の平を当てて

「その時に身体の奥から力が溢れ出して身体の隅々まで駆け巡り…満たしていきました」


 アスタロトは腕と脚を組んだまま

「ルゥさんの中にあった力……私もペンダントに潜んでいたルゥさんに力を注いだのだけど、その質に違いはある?」


 アスタロトの質問内容が想定外だったのか、ルゥさんは少し間を置いて

「似ている感じはありました。なんとなく違いはあるが全くの別物ではないというか」

 アスタロトはまだ上手く理解出来ないようで、うーん……と唸って、質問を重ねる。

「例えば、私の力が『お茶』だとして。ルゥさんの中の力は『お湯』?それとも産地の違う茶葉で入れた『お茶』?」


 アスタロトの質問にルゥさんは、はっ、と何か気付いて、しかしゆっくりと確かめるように考え込んでから

「違う茶葉のお茶、ですね。お湯というのは同じでも、温度と味が違う感じです」


 ん~、と唸りつつ、ようやく理解するに至ったのか、

「うん、ありがとう。あ、……」

 だが、不自然に言葉を切る。


 アスタロトは情報を整理しているのか、顎に手を当てて押し黙ったまま動かない。沈黙が場を支配する。と思いきや、彼は

「…あぁ、それで、力は直ぐに使えた?」

 ふっ、と顔を上げてほぼ無表情でルゥさんを見て質問を続けた。


 ルゥさんは少し考えるように顎に手を当てて

「いいえ、御使いにアーリィを癒すようにと言われたのですが、どうすれば良いのかわからず、御使いに導いてもらいました。こう…」

と自分の右手の甲に左手の平を重ねて

「アーリィの背中に当てると、私の中の力がすぅっと彼女に染み込む感じがして、それで傷が癒えるようにと願いを込めて力を送りましたら…痛みが和らいだ、と」

 アーリエルさんと目を合わせて頷く。


「痛みが和らいだ、だけ?」

 アスタロトは質問を重ねていく。今度はルゥさんに代わってアーリエルさんがおっとりと答える。

「はい。御使い様に紋様を刻まれた事は、その、苦行のようなものでしたから…」


「苦行って」

 アスタロトは『苦行』との表現に言葉が続かないようで、痛々しい感じで眉をひそめる。しかし

「紋様が刻まれた、という自覚があったのか?」

と俺が尋ねるとアーリエルさんとルゥさんは揃って眉をひそめる。ルゥさんが

「私が力を自覚した直後に、御使いは彼女の背中に紋様を刻んだのです」

と少し冷ややかに答えた。


 それは俺とアスタロトの時と随分違うな、と思わず二人で顔を見合わせて、俺が説明する。


「俺の背中に紋様があるとわかったのは、昨日の朝方、夢の中でこの世界の監理者の分身体がそう言ったからだ。ロトに触れられた時には自覚はあったが、今のような平素は何も感じられないし、大体いつ刻まれたのか全く見当もつかない」


 アスタロトも隣でうんうんと頷く。アーリエルさんは信じられないという感じで目を見開いている。続いてアスタロトが言葉を連ねる。


「私もガンダロフに紋様があるって知って見せてもらったのは昨日だし。見たところアーリエルさんとガンダロフの紋様は全くの別物で、機能としては『魔神の力を取り込んで自身の力と成す』というのは同じなのだけどね。それで出来れば痛みを取り除きたいと思ったけどどうすれば良いのかさっぱり解らなくて」


「それで私共に力を得た時の事を詳しくお訊きになられていたのですね」

とルゥさんは納得したように頷いた。

「うん。私も何の疑問も違和感も無く初めから魔法を使ってたから」

 確かに出会った当初から使い慣れたモノのようにいろんなことをポンポンとやってたなぁ。



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