21.産まれてた(19)
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暖かくて触り心地抱き心地の良い何かが腕の中に収まっている。気持ちいぃ……。もぞもぞと動いてて、あぁ、何処にも行かないで、俺の─────。
急に暖かいモノが無くなって若干の喪失感と共に目が覚めた。腕の中に確かにあったのに?まだ仄かに暖かさが残っている。……俺、アスタロトを抱いて寝てた?昨晩は結局同じベッドで寝たとはいえ、かなり離れていたはず、だが。
身体を起こして周りを見回す。ベッドの真ん中から少しアスタロトの方に寄ってる?
「おはよ?」
「あぁ……おはよう」
アスタロトの朝の挨拶でやっと現状認識が出来てきた。腕の中に収まってたのは……
「具合、良くない?」
もう起きてベッドから出ていたアスタロトが心配してゆっくりと近付く。
「いや、大丈夫だ。それよりも、その、済まなかった」
抱きしめて眠ったのであれば、相当寝苦しかったはずだ。
「?抱き枕のこと?」
「抱き枕?」
「首、締めるのは勘弁してね」
え?
「なにっ?首っ?だだ大丈夫なのか?痣になってたりしてないか?」
と急いで抱き寄せて、異常が無いか確認する。彼は首と周囲を触られて気持ち悪かったのか
「大丈夫、大丈夫、死んでないから」
と首に纏わり付く俺の手を引っ剥がした。
「で、夢見でも悪かったの?」
とアスタロトは俺の方を向いて、予想外に顔の距離が近くてびっくりしたのか直ぐ俯いた。髪の間からちらちらと覗く耳や首筋が赤く染まっている。
「あぁ、その前に」
俺は寝起きで動きの鈍い身体を、転ばないようにとベッドから降りて少し離れたところでアスタロトに向き合うと、ガバッと蹲って
「抱き枕にしてしまい申し訳ございませんでした!!」
確かにあの状態は『抱き枕』だ。『アスタロトとずっと一緒にいる。その為にはなるべく彼の負担にならないよう、心掛けよう』と決意したというのにこの為体……情けなさ過ぎないか、俺。
アスタロトは感心した様子で
「ガンダロフの世界でもあったんだね、『土下座』……別に怒ってないよ。暖かくて……気持ち良かったし。それ、見てると心苦しくなるから、起きて、ね?」
彼は俺の肩に手を置いて囁く。彼の手から暖かさが伝わってきて、甘い香りが漂う。俺は上半身を起こして彼と目を合わせた。
「君は、何というか…寛容なのだな」
いつもの柔らかい笑顔。薄暗い中、彼自身が仄かに光を纏っているのか、赤みの差した頬や澄み切った新月の星空のようなキラキラした黒い瞳がはっきり見える。それが少し艶めいてきて、俺の姿を映している、と気付いたら凄く恥ずかしさを感じて彼を真面に見られなくなった。うわぁ~~!俺、あのキラキラの中に入ってた!ドキドキと鼓動が煩い。
「さて、と」
アスタロトは立ち上がってうーんと伸びをする。
「いろいろ聞きたいところだけど、まずは朝ごはんだ」
彼のいつもの態度に、いつも救われている。
※※※※※
アスタロトが朝の支度をしている間、俺は外の見廻りと馬達の様子見をする。
「剣、今日もよろしくな」
剣はほわほわと淡く光った。
外は少しピリッと冷たい空気。朝の清々しい気配が満ちている。あの教会以外は。
「何処かに転移門かそれに類するものがあると思うのだが」
或いは道具類か。何時か襲われるのでは、と気を張り続けるよりは、こちらから出向く方が気持ちの上では楽だな。……まさか既に敵方全滅、なんてことは無いだろうな……。
外周部は異常は見当たらない。大草原となった裏庭では、馬達が寛いでいる。……ふぅ。疲れがとれていないのか、黒毛が二重に見える。ん?尻尾の振りが違う?あ、歩き出した。小さい方は元気に跳ねてるなぁ。
「産まれた?いつの間に…」
厩舎に行くと、敷き藁が羊水やら後産の跡やらでぐちゃぐちゃになってた。
「これだけで済んだのか。安産だったのだな」
昨日、栗毛はあれだけはしゃいだのだから、当然お腹の仔馬にも影響はあっただろう。仔馬、自分も外ではしゃぎたくて急いで出てきたんじゃないか?
一通り片付けて、住居に向かう。厨房側の扉が開いてアスタロトが出てきた。馬達の姿を認めた辺りで動きが止まる。
「──────────────────────────の空き地を草原にし、ヤギを放し飼いにして県民の憩いの場としたらどうか、と提案されてた教授がいたっけ。長閑だなぁ。馬さん親子三頭仲睦まじいのがほっこりする」
「それはそうなんだが、現状認識としてはどうなんだ?」
「厩舎のお掃除、お疲れ様。既に産まれてたの、びっくりだね」
アスタロトはびっくりしているようには聞こえない口調で言った。傍まで来た俺を魔法で身綺麗にして、また三頭を見る。
「遠目では問題無さそうに見えるけど」
「あぁ、俺が厩舎に行った時には既に外であんな感じだった。厩舎も出産の形跡はあるが思ったほど汚れてはいない。排泄は外の少し離れたところでやっているようだな。まずは親子共に元気そうで何よりだ」
馬達の様子を見るのは朝ごはんの後だ。
「同じ材料でいろいろ作れるものだなぁ」
外周部は馬達以外は変わりなしと報告。スープということに変わりは無いが、うどんという麺が入っている。味の印象が若干変わったのは、さっき裏庭で積んでいた草の影響か。うん、美味い。
「いろいろは作ってないし、作れないよ。材料の切り方が若干違うくらいで味の変化に乏しいし」
「ロトは美食家なのだな。その、はし、と言ったか?器用に使うもんだ」
2本の細長い棒で具材を器用に摘まむ。どう扱っているのか、見てもよくわからない。
「美食家?美味しいものは好きだけど、依り代さんの世界ではたぶん普通だよ。あ、でも同じ世界でもコンビニや自販機がある地域と無い地域では違うのかな?依り代さんのいた国は80年近く戦争が無くて、身の回りが平和だから」
「平和、か。人を殺す必要が無いのであれば、その方が良い」
戦士と言えど、人を殺しておいて何も思わない訳じゃない。
「それに、戦争になれば食事を味わう余裕は無いし、戦争が続けば食事すらままならない。平民ならなおさらだ」
スープを啜る。美味い。アスタロトがしんみりと呟く。
「みんなで美味しいもの食べていられたらお腹が空くことも無くて、いがみ合うことも少なくなるような気がするのに」
『美味いものを食べる』ということがどれだけ贅沢なことか。そしてその贅沢な時間を俺の愛しいかわいい人と共に過ごすということがどれだけ幸せなことか。出来ればずっと笑顔で語り合っていたい、というのは欲張りすぎか。思案顔のアスタロトを見て、そう思った。
※※※※※
♪お馬はみんな~ぱっぱか走る、ぱっぱか走る、ぱっぱか走るっ♪
とアスタロトが口ずさんだら、本当にぱっぱかと走ってきた。賢いなぁ。
「栗毛ちゃん、黒毛ちゃん、おめでとう。お仔、無事に産まれて良かったね、お疲れ様。調子は良さそうだけど、具合悪いところは無い?」
栗毛はアスタロトにヒンヒンと嬉しそうに報告?した。黒毛はフンスッとなんだか誇らしげな感じだ。
「これからもいろいろ大変だけど、たぶん、大丈夫。元気にごはんが食べていけたら、大抵のことは乗り越えられる」
アスタロトは栗毛に「触れるよ~」と首筋から横腹を経て太腿の方まで、違和感がないかと丁寧に撫でて容態を診ている。栗毛は大人しくじっとされるがまま。
仔馬はその様子を大人しく見てる…訳は無く、栗毛とアスタロトに構ってもらいたくて、邪魔にならないようにと牽制する俺と黒毛の隙を突こうとぐるぐる回る。
「お腹の傷が癒えるまでは、昨日みたいに跳ね回ったりしないでね」
アスタロトは栗毛に釘を刺していた。
「こいつ、物怖じしないな。さすがお前達の仔だ」
黒毛は自慢気にフンフン鼻を鳴らす。自分達の仔を褒められるのは、馬でも嬉しいらしい。
「さ、仔馬ちゃん、お待たせ」
仔馬がピタッと動きを止めた隙に、アスタロトが腰を落として仔馬と目線を合わせる。
「はじめましてだね。産まれてくれてありがとう」
いざ注目されるとばつが悪くなったのか、それとも彼に目を合わせられたのがびっくりしたのか、後ずさりして何故か俺の後ろに隠れようとする。
「え、私、ガンダロフより怖い?」
いや、そんな訳は無い。こんな綺麗でかわいい人が怖いなんて。それに俺のことは壁と同じ扱いだぞ。
読了、ありがとうございます。
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短編『剣ちゃんは喋らない。』
https://ncode.syosetu.com/n7503ih/
を投稿しました。この連載の1~20話を剣視点でまとめてみました。ご一読いただけると幸いです。




