196.いぢめてないよぉ?(191)
本日2/2話目です。
更新再開、昨夜から合わせて4話目です。
ルトーリィ殿下の元側近の名はクーエカ・ソドイル。伯爵家三男として幼少期からルトーリィ殿下、サボウル殿下と過ごしてきた所謂幼なじみだ。ルトーリィ殿下は幼少時から「皇位を継ぐのはサボウル。自分は一家臣として仕える身」と公言していたと言う。
「つまり、クーエカさんはルトーリィ殿下が心配だってこと?」
アスタロトが首を捻る。
「だが、ルトーリィ殿下の意向はどうなのだ?」
「それこそ本人に確かめないと、私達が勝手に決められることじゃないよね」
ルトーリィ殿下とジョシュアは程なく大神殿に赴任する予定で、元側近のことは今まで聞いたことがない。彼等との温度差を感じるのだが。
ふむ、これは第三者を混ぜて当事者同士でしっかりと意思確認を行った方が後々問題にならなくて良いと思うが。
『青龍、ルトーリィ殿下を連れてきてくれるか』
『承知!』
ルトーリィ殿下が到着するまで、クーエカの意思がしっかりと伝わるように、彼等の話の要点を明確にしておこう。
「クーエカ殿はサボウル殿下の側近を辞しても構わない、と双方が思っている、であってるか?」
クーエカもサボウル殿下、サボウル殿下の側近も首肯する。
「で、クーエカ殿はルトーリィ殿下について大神殿に行きたい」
「待って。それはルトーリィ殿下の傍に居たい?大神殿に行きたい?」
どっち?とアスタロトが突っ込む。
「え、ト、殿下のお傍に居たいです」
クーエカはどもりながらも即答した。大神殿に拘りは無さそうだ。
「そうか。では、やはりルトーリィ殿下本人に話を聞かねばなるまい」
「もし、放っといて!とか拒否されたら、どうする?」
とのアスタロトの発言に、クーエカは泣きそうな顔になった。
それは言われたときに考えても良いだろうに、今、訊くか?と呆れた目を向けると、え、いじめてないよぉ?と彼は悪びれた様子もなく呟いた。
ルトーリィ殿下本人と話をしないと何も解決しなさそうだ。と思っていたら、ズダダダダ…と本人が会場の方から走ってきた。クーエカの陰っていた鳶色の瞳が俄に輝き出す。
「青龍に呼びに行かせた」
と言うとアスタロトは、グッジョブ!と親指を立てた。
少し息を乱して、ルトーリィ殿下が訊ねる。
「一体何があったのですか?!」
「今からあるんじゃないかなぁ、たぶん」
事実だが、言い方!
「ロト、混乱させるんじゃない」
「…何があるのですか?」
ルトーリィ殿下はサボウル殿下、側近、クーエカを順に見て、再度アスタロトと俺に困惑気味に問い掛ける。
「君の元側近のクーエカ殿について。
彼としては君の傍に居たいと望んでいるようだが、貴殿が彼に指示した『サボウル殿下に仕えて欲しい』というのは、どの様な意図がある?」
俺の問いに、ルトーリィ殿下はパチパチっと瞬きをして
「意図?」
と首を傾げる。イトくんそっくりだ。
「クーエカは政務に携わりたいのではなかったのか?」
ルトーリィ殿下の発言にクーエカは、え?と心外な表情になる。
「いや、だって、昔『書類仕事なら僕に任せて!』って言ってたし、実際俺がやるより上手く纏めてるし、だったら俺に付いてくるよりウルの側近として辣腕を振るった方が、ほら、適材適所って言うだろう、お前だったらやっていけるって、だから、そんな情けない顔するなよぉ」
クーエカはさっきより更に泣きそうな顔になったのを見て、ルトーリィ殿下が焦る。…いぢめてないよぉ?とのアスタロトの小さい筈の呟きが、やけに耳に残るなぁ。
結局、直ぐにではないがクーエカもルトーリィ殿下の傍に侍る為に大神殿に籍を移す、ということでこの場で話がついた。
「幼なじみとは言え、お互いに会話による意思疎通、確認は怠らないように」
との俺の当たり前すぎる忠告に、ルトーリィ殿下とクーエカは
「「はい…」」
と叱られた子どものように項垂れた。
「余計な気遣いをさせてしまい、申し訳ございませんでした」
サボウル殿下と側近が頭を下げる。
「まぁ、拗れて大事にならなくて良かったと思うべきかな。うん、早めに対応したのは良かった」
とアスタロトが賞賛を送ると、サボウル殿下は頬を赤らめてはにかんだ。お、イトくんそっくりだ。
※※※※※
一年のうちで昼の時間が最も長い日。
日が長くなった分、外で遊ぶ時間も長くなり、晩飯を食べている最中からイトくんは夢の中へ船を漕いで行きそうだ。
「君が子ども達に配った虫取り網と虫篭を身に付けて、外を走り回っているからなぁ」
「先生達には少しばかり不評なんだよねぇ」
麦わら帽子を被った腕白小僧達がそれぞれの興味の赴くままに散らばるから、見守るのが大変だと。じーぴーえすでも身に付けさせようかな?とアスタロトは対策を考えているようだ。
昼寝もしているが、今は夜明けも早く起床も早い。夜の就寝が早くなるのも致し方ないな。




