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聖者のお務め  作者: まちどり
19/197

19.ベッドは誰が(17)


 地図を見てアスタロトが提案してくる。

「明日、明るい時間に飛んで、この地図と実際の地形を見比べてみたい。それで」

「あぁ、一緒に空から見てみよう」

 実際に見ることが出来るのであればその方が理解が深まる。

「怖くない?」


 やはり高所恐怖症だと思われていたか。

「別に高い所が怖い訳じゃない」

 俺は身体を起こしてアスタロトと目を合わせた。

「ロトが飛んで行ったきり帰ってこないような気がして嫌だったんだ」

 彼はこてんと小首をかしげて

「一緒に飛べば問題無い?」

 かわいい。自然と俺の口元がほころぶ。

「問題無い。明日、晴れると良いな」

 彼の顔にぱあっと笑みが広がる。

「馬さん達の水問題が解決したら、バッグ持っていろんな所に行ける?」

「そのバッグの中身を詳しく調べたり、教会や洞窟の調査等をやって、ここで安心して生活出来るようにするのが先だと思うが」

 一体、何処に行きたいというのだ?


「ガンダロフはちゃんと先のことを考えているんだね」

 アスタロトは地図の方に目を向けてほぅ、と息を吐く。

「私はガンダロフと美味しいもの食べたいな、くらいしか今は思ってなかったなぁ」


 『ガンダロフと』彼の中では俺と一緒に行くのは既に決定事項ということか?しかも『美味しいもの食べたいな』って自分の好きなことを俺と一緒に楽しみたいってことか?!なんて嬉しいことをさらっと言ってくれるんだこの人は!嬉しすぎて叫びそうになる!


「そういうところが頼りになるし有難いな……大丈夫?」


 俺は両手で顔を覆って彼から背けていた。顔のみならず、身体全体が熱い。まずは落ち着け俺。彼の今の言葉は『出来れば良いな』くらいの感じでしかないぞ。だから落ち着いて話をしよう。俺は両手を下ろして彼の方へ向いた。


「はぁ~……ふぅ。大丈夫……あぁ、美味い物を探しに行くのは楽しみだ。落ち着いたら行ってみよう」

「うん、ありがとう。楽しみ~」


 後のことは空から見て地図と照らし合わせながら考えることにした。



 今朝起きた部屋に今後は寝泊まりするのだろうと思っていたら、アスタロトは隣の部屋で寝るという。だが


「ロトに大きいふかふかのベッドを使って欲しい。用意したのはロト本人なのだから」

「ガンダロフに安心して眠ってもらいたくて用意したの。だからガンダロフが使うのが筋ってものだと思う。私は隣の部屋に準備したし」

「では、俺が隣の部屋を使う」

「何で?」

「この部屋は広すぎて一人では落ち着かない」


 アスタロトは『ん?』と何かに気付いたような表情を浮かべて

「ベッドが大きすぎるから、私と一緒に寝たい、とか?」

 なんてとんでもないことを言い出すんだ?!

「は?え?えぇ?いや、あ、いやじゃなくて、その、そういう意味ではなくて、えぇ?──」

 顔と身体が一気に熱くなる。一緒に寝るって添い寝のことか?彼の言い方は親が愚図る子どもに言っている感じにも受けとれるのだが。

「──ぁ、ロトが良ければ?あぁだが俺が持たないかも」

 おそらくは些細なことで理性が吹っ飛ぶ。

「私はどちらでも。あ、でも寝相が悪くて迷惑かけるかも」

「いや、それは無い」

 昼寝の時は微動だにしてなかったぞ。


「あのね、ガンダロフ」

 彼はふぅっ、と一息吐いて俺をじっと見据える。

「貴方が私のことを大事に大切に思ってもらっているのと同じように、私も貴方のことを大事に大切に扱いたい。少なくとも身体は私より貴方の方が弱いから、日々健やかに過ごして欲しいと思ってる。だから貴方が大きいベッドを使うということは譲れない」


 一気に畳み込まれる。今、彼は、お互いを『大事に大切に』思っている、と言ったのか。俺のこと『日々健やかに過ごして欲しい』って。


「そ、それは、俺のことを、す、好きって、言ってる?」

 動揺のあまり、どもってしまった。顔も全身も火照ってクラクラするが、ちゃんと答えて欲しくて俯きたくなるのを我慢する。


「恋愛とか情愛とかはわからないけど」

 彼も、顔を真っ赤にしながら、でもしっかり答えてくれた。

「好き」


 うおぉ~~~~~~!嬉しぃ~~~~~!!


 俺は歓喜のあまりか頭がクラクラして両手で顔を覆ってしゃがんでしまった。あぁ~嬉しい!嬉し過ぎて顔がにやけるのが止まらない!惚れている相手からの『好き』がここまで破滅的に威力のあるものだったとは!うわぁ~嬉しぃ~~!




 俺が一人嬉しさに浸っている間に、アスタロトは湯浴みに行ってた。甘い香りが微かに漂う。はぁ~。今のは夢だったのだろうか。いや、確かに『好き』って、あぁ~~~、思い出す度に顔がにやける。いかん、落ち着こう、俺。


 ソファに座る。そういえば昨日初めて会った時も『落ち着いてお話しましょう』と魔法でソファを出してくれた。優しい。誰にでも優しいのだろうか?きっとそうなのだろうな。もしあの場所に他の誰かがいたらその人にも同じ対応をとるのだろう。俺以外の誰かにも優しい、つまり俺とそいつらは彼の中では同等ということか。

 ……そうだな、俺がやったようなことは他の奴でも出来るようなことだし。思い返せば、意識の無いときにキスしまくったり、感極まって抱き締めること数知れず。よく嫌われずにいるもんだ。彼への熱い想いがまるで埋み火のように、いつも身体の奥で燃え上がる時を待っている……そのまま燃え尽きてしまえたら、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか?

 『ずっと一緒にいる』のであれば、せめて彼が傷付かないように、彼の負担にならないようにという心積もりだけはあるのだが。




「お風呂、先に頂きました……具合悪い?」

 いつの間にかアスタロトが一人掛けソファに座っていた。甘い香りが漂う。俺は顔を上げて答える。

「いや、自分の至らなさに落胆していた」

 彼は少し思案顔で

「ガンダロフが至らないというところは私にはさっぱりわからない」

と言うと俺の隣に座り、水を二つ用意してそれぞれの前に置く。


 俺は身体を起こして彼の方を向く。既に寝間着に着替えて後は寝るだけというところか。湯浴み直後だというのに湿気た感じが無いのは、魔法で何かやったのか。


 アスタロトはいつもと変わらず淡々と話す。

「この世界に来たのって、おそらく昨日の夕方か夜の早い時間だと思うの。まだ1日とちょっとしか経ってない。それでこれだけの快適空間で過ごしているのだから凄いよね」

「それは、君が頑張った成果であって、俺は何も」

 唐突に彼は人差し指を俺の唇に当てた。湯上がりの温かさと指の腹の柔らかい感触が直に伝わり甘い香りと相まって頭頂部が軽く痺れたような感覚に襲われる。指は直ぐに離れたが、俺はその唇に残った余韻を味わうのに意識が持っていかれて動くことが出来なかった。


「ガンダロフも一緒に頑張ったでしょ?私だけだったら今頃ここは穴だらけだよ。もしくは火の海か」

 アスタロトの柔らかい声が心地良い。

「私が暴走しないように抑えてくれてた。ガンダロフが傍にいるから、考える前に壊してお終い、なんてことにはならなかった。これは断言できる。ついさっきも『バッグ持っていろんな所に行ける?』とか、ガンダロフ呆れてたでしょ?本来の私はかなり衝動的だと思う。たぶん」


 あぁ、俺は彼の役に立っていたんだな。だが

「それはたま々俺が傍にいたってだけで。他の誰かだったとしても…同じように」

「ならない」

 彼は短い言葉で静かに断言した。


「『私』を形作ったのは、ガンダロフだよ?呼び戻してくれたんだよね、その……キスで」


 まだわだかまりがあるのか、彼の頬が赤く染まる。湯上がり直後より茹だっているようだ。だが『私』を形作った、というのはどういうことだ?


 読了、ありがとうございます。

 <(_ _)>

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