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聖者のお務め  作者: まちどり
182/197

182.ルトーリィ殿下の立ち位置(178)


「私とガンダロフも髪の色は黒いからあまり気にしてなかったけど、言われてみればイトくん以外で黒髪って見たことないかも」

とアスタロトがちょこんと小首を傾げると、彼の絹のような長い黒髪がさらりと揺れる。

「君の髪のように全ての光を吸い込むような漆黒で、だが艶やかでしなやかで香り立つような気品を纏う黒髪は前にいたところでも見たことはないがな」


 俺がアスタロトの頬に垂れる髪を耳に掛けると、そうなの?と彼が不思議そうに見返す。嬉しいのか恥ずかしいのか頬にほんのりと赤みが差して、かわいい。


 んん゛っと咳をして気を取り直した陛下が説明を続ける。

「髪色は染料で変えることは可能だが、瞳の色は変えられない。其方等の黒い瞳は儂は見たことも聞いたこともないし、ノイットの限りなく黒に近い深く濃い藍色の瞳も、黒騎士と呼ばれた建国の祖の王弟だけしか話にも聞いたことはない」


 ♪オーチィ チョ~ルヌィエ~…♪


 アスタロトがいつものように何気なく口遊むが、小さい声とはいえそんな情感を込めて艶っぽく歌われたら、言葉の意味が解らなくても身体の奥が熱く猛りそうだ。俺は手でそっと彼の口を覆った。

 チラリと俺の顔を盗み見るが、何もせず沈黙したので、覆った時と同じようにそっと手を下ろした。舐められたら、いろいろ困る。


 陛下が、何もなかった何も見なかった体で口を開く。

「しかしノイットに関しては今回其方等が成人まで面倒を見るというのはある意味此方の要望が叶う形になる。

 レキュムとラドリオも自分の色が持つ意味を解っており、国外に縁を持つ等は考えてはいないだろう」


「では、何が問題になっているのだろうか?」

 俺の問いに陛下はルトーリィ殿下に視線を投げ、それを受けた殿下が小さく頷く。

「ご覧の通りサボウルと私は仲はとても良く、物心ついた頃から私は将来帝位を継ぐサボウルを支えると公言しているのですが、周囲はどちらが皇太子になるかで勝手に派閥を作っているのです」


「周囲の暴走か。でも、大神殿に籍を移すと昔から決めていたのであれば、実施するのはまだ先でもさっさと周知しておけば良かったのでは?」

 俺の疑問に陛下がすかさず答える。

「公表するのは兄弟姉妹の立太子告知と同日か、当人が12歳になってからだ。これは皇太子暗殺の標的を分散させる意味合いもあるのでな。

 ノイットが皇家特有の色を持たなければ、ノイットを送ることになったかもしれぬが、元は大神殿との連携を取る為の移籍だ、巧く立ち回れる人材でなければ意味が無い」

 ということは、ルトーリィ殿下は大神殿でルゥさんと同様の立ち位置を求められていたのだろうか。


「今日の話の内容如何で決めるつもりだったのだ。其方等が大神殿、イルシャ教会とは関係が無いのであれば、此方の予定通りルトーリィを大神殿に移籍することで良いか?」

 陛下は顎に手をやり最後の方は独り言での確認のように呟く。


「ルトーリィ殿下とサボウル殿下はどう思っているの?」

 当事者の気持ちが第一でしょ?とアスタロトが話を振ると、殿下達がお互いを見合って、話し出す。


「私としてはルトが行きたい所、いたい場所に行くのが良いと思う。確かに寂しいし心細いけれど、ルトだったら何処に行ったとしても大丈夫、ずっと、信じている」

「俺も、ウルの傍で支えていけたらと思っていたけど、離れていてもウルの為に出来ることはたくさんあるから…頑張る」


 お互いに信頼し合っているのだな。立場が変わっても物理的な距離があろうとも、揺らぐ気配は無さそうだ。

「そう言えば、ルトーリィ殿下は辺境にいたと聞いていたが、物理的に離れなければならない事情があったのだろうか。であれば、大神殿に身を寄せるのは良手だと思う。山を隔てた遠い距離だが、俺達と共にすれば移動時間はあまり掛からないからな」

 隣でアスタロトも首肯する。


「うむ、ノイットを擁する其方等を介して速やかに連絡が取れるのは好都合だ」

と陛下は頷く。だが皇妃殿下は

「此方に都合の良い状況で喜ばしいのですけど、それでは釣り合いが取れませぬ」

と渋い顔をしている。借りを作るだけ作って、後で無理難題をふっかけられたら堪らないということか。


「それについては、南方砂漠の整地と緑化が終わった頃に知恵を貸して欲しい」

「「知恵?」」

「先程指摘されたとおり、周辺国との衝突は必須だろう。今の所オリマ王国は牽制できる材料はあるのだが、他の国々がどの様に対応するのかは予測出来ていない」

「最悪、強大な武力でドッカン!」

 物騒な合いの手を入れるな!

「それは本当に最終手段だ。俺達がいなくなっても大きな問題が起こらないように、禍根を遺さないように出来る限り立ち回りたい」


 陛下は、ふむ、と少し考え込んで

「うむ、了解した。その時は出来る限りではあるが、ダイザー皇家としても帝国としても力を貸そう」

と、若干腹黒さの見える笑みを浮かべた。


 ♪黒い~よ~~、熱情で~~、燃え上~がる~~、その煌めき~…♪「…なんで顔覆って俯いちゃうの?綺麗な黒い瞳を見せて欲しいなぁ」

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