181.ダイザー皇家の色(177)
イトくんの話はひとまず終了し、後は他の事柄についての話す間はレキュム殿下、ラドリオ殿下、イトくんは別室で遊びながら過ごしてもらうことにした。
「南方砂漠について、ダイザー帝国の商隊が脇を通る程度であまり関わりは無いのだが」
それでも「原因不明の天変地異が発生しているようだ」との報告があったのだという。
「もしかしたら其方等が関わっているのではと推測しておったのだ」
ダイザー皇家の間諜要員からの報告か。俺達は、現在進行形で砂漠を緑地に、出来れば砂漠になる以前の形状に変えるべくいろいろと試行錯誤を行っていることを説明した。
すると
「周辺国からの横槍が入るのではないのですか?周辺国の王侯貴族階級の者達は、砂漠になる前のあの場所に端を発する者が多いので」
とデボラ皇妃殿下が疑問を呈する。
特にオリマ王国は砂漠になる前は山の麓迄の広い領土を誇る大国だったらしく、先々代の王兄が秘宝探索に乗り出し帰ってこなかった話は有名なのだとか。
「基本、話し合いで解決したい所だけど、有象無象が無茶苦茶無理難題我が侭放題言ってくるって事?どうしようガンダロフ。私腹芸とか出来ないけど」
アスタロトのその言葉の内容だけ聞くと不安感満載のようだが、表情も口調も淡々としていて
「それを此処でそのまま言っている時点で周知しているようなものだから、今更気にする必要は無いな」
そのうち彼が何かしらやらかすのだろうと思うと、俺が不安を感じる。自分の気持ちを落ち着かせる為に彼の頭を撫で、黒髪のさらさらした気持ちの良い手触りを感じて気を紛らわす。
「差し障りが無ければ是非詳細を話して欲しい」
タレッグル陛下が頼もしげな笑顔を向けるが、本音は「旨そうな話には一枚噛ませろ」というところか。
はぁ、と短く息を漏らして、俺はオリマ王国との遣り取りを簡単に説明する。オリマ王国でも治癒を施しており、その対価の一つとして『砂漠緑化事業への人員派遣』を依頼していることを話す。
「現状は魔法による整地の真っ最中で危険なので、立ち入らないように戒飭した。尤も砂漠の外周に沿って設置した高い土壁がそのまま障壁となり高い空を飛べる者でなければ中に入ることは不可能だが」
「では、人が入れるようになった頃に、領地の返還を求める可能性はあるな」
陛下が真面目な顔で指摘する。するとアスタロトが
「返して欲しいって言うんだったら、返すよ」
と事も無げに言う。陛下達は、えっ?!と目を見開く。即答で『返す』と言った事に驚いたのか。
「勿論、無償じゃ無い。生き物が住めるような状態にした対価は払ってもらうし、払えない、払わない、それでも自分の領地だって言い張るのであれば、その人の分だけ砂漠に戻す」
「それはまた、何というか、過激ですね」
サボウル殿下が呆れているが、俺もそう思う。が、彼の性格ならば、見せしめとして捏ねまくった者の土地を砂漠に還す事は、躊躇無く行うだろうな。
南方砂漠については、人が立ち入ることが出来る目処が立った時点で連絡を入れることになった。
「実は相談があるのだが」
唐突に、陛下が話題を変える。
「この度サボウルが立太子する運びとなった」
喜ばしい話だが、緊張を孕んだ真面目な顔だ。
「「おめでとうございます!」」
ともかく、俺とアスタロトが声を揃えて祝福するとサボウル殿下は、ありがとうございます、と、はにかむ。
「立太子の儀はまだ先なのだが、ノイットと、出来れば其方等も出席してもらえないだろうか」
「それは当然!」
「ノイット殿下も、お兄様のハレの舞台を間近で見てお祝いしたいでしょうし、俺達にも声を掛けていただき光栄です」
陛下のお誘いに俺達は即答で参加表明する。が、俺達が参列するのに何か緊張する要素があるのか?アスタロトは
「何か特別やって欲しいことがあるとか?お花を降らせるとか」
と薄い桃色の花片のようなものをヒラヒラと振らせてみる。相変わらず器用だな。
おぉ~、綺麗…とそれぞれの口から感嘆の声が漏れる。
「儀式が滞りなく終了した暁には是非ともお願いしたい」
と陛下は満面の笑みを浮かべた。けど直ぐに真顔になり
「もう一つ、こちらの相談事の方がある意味力を貸して欲しいのだが」
何だろう?
「ルトーリィの処遇についてだ」
と陛下はルトーリィ殿下をチラリと見る。
同い年とはいえ、サボウル殿下の母は正妃、ルトーリィ殿下の母は側妃で、政務、所謂事務仕事もサボウル殿下の方が出来が良いということで、サボウル殿下の立太子が決まったのだという。
それに伴いルトーリィ殿下もいずれ臣籍降下してサボウル殿下を支える立場になる予定だった。
「何かしら不都合でもあるのだろうか?」
二人とも仲が良さそうだが?
「元々大神殿に籍を移すのはルトーリィだった」
陛下は『参った!』って感じで肩を落とす。
「それは神官としてではなく聖騎士として、だろうか?いやそれ以前に、今の所ノイット殿下一人で充分ではないか?」
俺がそう言うとタレッグル陛下、デボラ皇妃殿下、サボウル殿下、ルトーリィ殿下が少しばつが悪そうにそれぞれに目を合わせる。そして陛下が言いにくそうに口を開く。
「髪と瞳の色が問題でな」
「「髪と瞳」」
ルトーリィ殿下の色はどちらも焦げ茶色。
「ルゥさん、偉大なる大司教ルドラ様と同じだから?」
ルゥさんも髪と瞳の色は焦げ茶色だ。
だが、アスタロトの問いに陛下は小さく首を横に振る。
「問題なのはレキュム、ラドリオ、ノイットの方だ」
レキュム殿下ラドリオ殿下は赤い髪に翠の瞳、イトくんは黒い髪に濃い藍色の瞳だ。
「何れもダイザー皇家特有の色なのだ」
なんでもダイザー王国建国の祖、初代の王様が双子と同じ色、赤い髪に翠の瞳で、初代王様を支えた王弟がイトくんと同じ色、黒い髪に濃い藍色の瞳だということで、その色を持つ者はなるべく国外には出したくないらしい。




