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聖者のお務め  作者: まちどり
175/197

175.なかなかに残酷な事実(171)

 本日(3/13)二話目です。

 ♪書けたら上げる、約束げんまん♪


 ん~~~、と考えるように小さく長く唸って、アスタロトは説明を始めた。


「『変態』っていうのはね、元の言葉は『姿形とか状態とかが変わること』を指す言葉なの。例えば、蝶々。卵から芋虫になって、蛹になって成虫になる。だけど人に対して使う場合は、狭義では『倒錯した異常な性的嗜好を持つ者』を指す言葉だよ」

 いきなり難解な言葉がポンポンと出てきた。なんだその『倒錯した異常な性的嗜好』というのは。イトくんとマリアベルは理解できていないのだろう、呆けた顔をしている。


「人間、性的成熟した大人は、生き物の本能として『子どもを作りたい』という欲求がある。でも、誰彼構わず、という訳では無くて、大体は好きな人、恋しい人と一緒にヤりたいなって思うものなの。私はガンダロフしかそういう興味を持たない」

と俺を見る。新月の星空のような黒い瞳の奥に熱いモノがゆらゆらと揺れる。

「あぁ、俺もロトだけだ」

 俺の、俺だけの、かわいい人。


 アスタロトは、ふっ、と視線を扉に向ける。その眼差しにもう熱さは感じられない。

「院長先生や他の先生達も、誰彼構わず、ではなく特定な誰かがいても心に秘めていて誰かに迷惑を掛けていはいないから、世間一般で言う『変態』とは違う」


 アスタロトの素っ気ない態度に

「では何故昨日のお話しでは『大人は変態』と捉えられる言い方をされたのですか?」

と院長先生が咎めるような目を向ける。


 だが彼は変わらず淡々と

「でも、その場にいる大人の誰もが否定しなかったよねぇ。まぁ、私が言ったのは『王子様の多くは変態だ』ってことじゃなかったっけ?」

と確認すると、

「えぇ、まぁ、それはほぼ事実ですから」

 だから否定のしようが無い、と院長先生は目を逸らす。『お姫様』『王子様』に夢見る年頃の子どもにとっては、なかなかに残酷な事実だ。


「『王子様』が『お姫様』を求めるのは世継ぎ、つまり子どもを作る為で、それって、『お姫様』は『王子様』の変態的嗜好に付き合わされるってことだよ。

 それにね、大人は子どもにとって脅威になるから、せめて初めて会う大人には警戒心を持って欲しいな、って思ってね」


 そしてアスタロトは少し目を伏せて「本音を言えば、孤児院ここに子どもとして暮らしている間はそんなこと考えずにいて欲しいのだけど」と小さく呟き、その言葉に院長先生が少し目を潤ませて首肯する。


「だからさっきのマリアちゃんの態度はある意味正解だと思う」

 あれは警戒したのではないのだが。…院長先生が残念な子を見る微妙な表情になった。


 カチャリと扉が開いて、ソニアが顔を覗かせた。

「…院長先生は、変態じゃない?」

 話が聞こえていたのだな。扉からは少し距離があるが、アスタロトは腰を落として目線をソニアと同じ高さにする。

「私から見れば、とても優しい子ども思いの良識ある大人だね」

「先生達も、変態じゃない?」

「他の先生達も、院長先生と同じだよ」


「じゃあ、わたし、わたしが大人になっても、変態にならない?」

「それはソーニャちゃん次第かな。先のことは誰にもわからない。けどソーニャちゃんが自分のことを、変態にならないって思っていれば、たぶん大丈夫」


 アスタロトが絶対に大丈夫、と言わなかったからまた不安になったのか、ソニアは俯く。

「大事なのは、ソーニャちゃんがソーニャちゃん自身を大事にして、理想の自分になれるように頑張ることだよ」

「理想の自分…」

「毎日を丁寧に生きること。その積み重ねが、未来だよ。まずは、顔を洗ってお着替えして、御飯食べよう。お腹が空いたままでは、気持ちが落ち込むばかりだ」


 ソニアはゆっくりと顔を上げる。まだ不安なのか少し瞳が揺れてはいるが、アスタロトが大丈夫、と微笑みかけるとぶわわわわっと顔を真っ赤にして

「お、おお、おきがえしてくりゅ!」

と引っ込んで部屋の奥へパタパタパタ…と足音が遠ざかっていった。


「元気になったようだな」

 一仕事終えたとばかりに、俺は低い位置にあるアスタロトの頭を撫でて労る。彼がよいしょと立ち上がると

「ありがとうございました」

と院長先生が頭を下げ、少し遅れてマリアベルが同じように頭を下げる。


「マリアちゃん」

 アスタロトが声を掛けると、まだ慣れないのか顔が赤くなって目が泳いでいる。だが

「モヤモヤするんだったら、さっさと謝った方が良いよ」

と忠告すると、はっ!と彼を見て

「は、はい!」

と元気良く返事をして、部屋の中に入っていった。

「あらあらノックもせずに」

と院長先生は呆れていたが、その眼差しは優しく暖かい。


「片付いたようならば、俺達も行くか」

と俺はアスタロトを促し、院長先生と白虎にイトくんを任せて俺達は孤児院をあとにした。



 *****



 南方砂漠の緑化に向けての探索・回収(サルベージ)の全地域での作業が一段落した。


 アスタロトが遠くを眺めながら今後の予定を話す。

「元の地形が大体判ってきたから、それに沿って成形しよう。でも今のままではあまりにも乾燥しすぎているから、大雨を降らせたい」

「雨を広範囲に降らせるのか。どれだけの量が必要になるのだろう」

 俺は見渡す限りの干涸らびた砂地を睨む。


「雲を持ってくる」

「何処から?」

「あっち」

 アスタロトが指差したのは、南。


「南の海の湿った空気を、砂漠の上に送り込む。一区画で水浸しになるのにどの位の量が必要なのかはわからない。けど、百回くらいやればあとどれ位って目処が立つんじゃないかな」


「百回くらい。気の長い話だな」

 俺が呆れたように言うと

「別に短い期間でやらなきゃ駄目だってことではないから、気長にね」

とアスタロトは穏やかに微笑む。

「そうだな」

 彼が望むことが出来ない訳が無い。彼の力は世界を創り出す力だ。俺は彼が心行くまで付き合うまでだ。


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