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聖者のお務め  作者: まちどり
174/197

174.それを被るのか?(170)

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『ソニアが布団被ったまま出てこないって』

 剣が今日の孤児院担当のタマエからの報告を伝える。

「昨日、君が言ったことが原因だろう?」

と俺がアスタロトを見据えると、彼が小さく口遊む。

 ♪おとなの怪談、か~たる~…♪

 何怖いこと言ったんだ?

『なんとかして欲しい、って』

 アスタロトは不満げに眉をしかめるが、相手は五歳児だぞ、本当に一体何を言ったんだ?!




「おはよう、来たよ~」

 朝、いつもの時間に孤児院にアスタロトと一緒に小さな白虎を肩に乗せたイトくんを連れて行くと、院長先生が

「お待ちしておりました」

と丁寧に出迎えた。

 アスタロトはソニアの様子を見る為、イトくんに俺と白虎と一緒に外で遊びながら待っているように促す。が、イトくんは「気になるから」と言うので、俺達もアスタロトと一緒にソニアの所に付いていった。


「ソーニャちゃん、昨日のことで拗ねてるの?」

「拗ねている、というよりは落ち込んでいる…絶望している感じがします」

「絶望?『お姫様』の真実に?」

「それもあるのでしょうけど」

 院長先生の先導でアスタロトとの会話を聞きながらソニアがいる部屋へとイトくんと手をつないで廊下を歩いていく。だから五歳児相手に一体何を言ったんだ?すると、扉の前に十歳位の少女が佇んでいて、院長先生を気遣わしげに見詰めていた。


「マリアベル、今日の清掃は此処ではなくて応接室をお願いした筈ですよ」

 院長先生がその少女に注意すると、少女は

「でも」

と言いかけて院長先生の隣にいたアスタロトを見て、固まった。


「ん?初めましてだよね。おはよう。私はアスタロト。イトくんの保護者です」

 アスタロトが挨拶すると、ボボボボボッ!と顔が真っ赤になる。年若いと言えども麗人に微笑まれたのだから当然の反応だな。

「おはよう、初めまして。俺はガンダロフ。同じくイトくんの保護者だ」

「おはよう、マリアちゃん」

 俺とイトくんが挨拶するが、マリアベルはアスタロトを凝視したまま動かない。


「マリアベル、挨拶しなさい」

 院長先生がマリアベルの肩にポンと手を置くと、金縛りが解けたように、はっ!と院長先生を見て

「あ、あああああの、えと」

「あ い さ つ」

 院長先生の表情はにこやかなのに圧が凄い。


「お、おはようございます。マリアベル、です」

と少女マリアベルは、ペコリとお辞儀した。はい、良く出来ました。とアスタロトが口角を僅かに上げる。


「で、マリアちゃんが此処にいるのは、もしかしてソーニャちゃんが引き籠もっていることについて、何か知ってるとか?」

 口喧嘩でもしたかな?とアスタロトが腰を落としてマリアベルと目線を合わせると、はわわわわ…とマリアベルは蹌踉よろけてしまった。


「アスタロト様、その…」

 院長先生がマリアベルを支えながら言いにくそうに続ける。

「…気後れしているようで、失礼な態度を取ってしまい、申し訳ございません」

「人見知りかな?うん、別に謝ることじゃないから、大丈夫だよ」

と彼が笑い掛けると、マリアベルは両手で顔を覆って俯いてしまった。見慣れている俺でも、ロトの優しい笑顔は攻撃力高いぞ。


「アスタロト」

 だが、このままでは話が進まない。呼び掛けると彼は、どうしたの?と目で問い掛けながら立ち上がる。

「マリアベルは、君の綺麗な顔立ちに目を奪われてしまっているのだろう」

 イトくんも隣でうんうんと頷く。


 事情を理解したのかどうか、アスタロトは

「成る程。じゃ、お面でも被る?」

 ♪ヤーヤーヤ、ヤーヤーヤ、ティアッ♪

と歌いながら、ギョロ目で団子っ鼻の穴を膨らませ、口を横に突き出した赤ら顔の男のお面を出した。それを被るのか?周囲を笑いの渦に巻き込みたいとか?だが

「いえいえそんな勿体ない!」

と院長先生から速攻で被るのを阻止された。…「勿体ない」とは。


 アスタロトからお面を受け取って、被ってイトくんに見せる。

「きゃはははっ!おもしろ~いっ!」

 イトくんには好評だ。わたしもかぶる~、と言うので、被せてあげた。うむ、剽軽ひょうきんな表情が面白楽しい気持ちにさせる。


 隣ではアスタロトがマリアベルから何があったのかを聞き出している。


「ソーニャちゃん、元気が無くって。いつもなら「わたしは『お姫様』に、なる!」って偉そうなのに」

 アスタロトが、心が折れた感じ?と呟く。本当にどんな話をしたのだ?


「今朝、ベッドから出てこないから具合悪いのかなっていろいろ声掛けてたんだけど、「大人は変態だから」とか訳分かんないこと言い出したから、つい…」


 マリアベルは勇気を出すように、ん、と気合いを入れて

「「ソーニャちゃんも大人になったら、変態だね」って…。そしたら、ソーニャちゃん、布団に潜り込んでずっと泣いてるの」

 売り言葉に買い言葉、とアスタロトが漏らす。おそらくマリアベルにしてみればいつもの口喧嘩と変わらないつもりだったのだろう。マリアベルは泣きそうな顔で俯いてスカートを握り締めている。


 アスタロトが

「言ってしまったことに後悔しているけど、どう繕えば良いのかわからないのかな」

と問うと、マリアベルはコクッと頷いた。


「うん。元は私の「大人は全員変態」って言ったのが原因だから、誤解が無くなるようにお話ししてくる」

とアスタロトが扉の方に目を向けると

「へんたいって、なぁに?院長先生も?」

 イトくん、その訊き方は、俺とアスタロトは確認しなくても変態だね!って言われている気がするぞ!いや、俺達のことは変態だろうと何だろうとどう思われていても、まぁ、ロトが不愉快に感じなければどうでも良い。が!院長先生は常識人!立派な大人!。院長先生の微笑みが引き攣っているのを目の端に捉えて、俺は顔を手で覆って、はあぁ~~、と大きく深く息を吐いた。


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