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聖者のお務め  作者: まちどり
168/197

168.教育施設の場所(163)




 難無く熟しているように見えるが、大きな力を使っていることに変わりはない。自覚が無くとも疲労は溜まっているはずだ。南方砂漠緑化の作業は午前中に一区画だけで、昼時には大神殿に戻ることにした。


「「お帰りなさい、アスタロト様、ガンダロフ様」」

 転移門ゲートの先、大神殿奥の宮大司教寝室のソファセットで、レアンとベルシームが大きなお椀で昼飯を食べていた。

「ただいま。美味しそうだね」

 アスタロトが何を食べているのかなと覗き込む。

「何故此処で食事を?」

 俺が尋ねると、二人は先程まで隠し資料室で作業に熱中していて、見かねたタマエが差し入れたのだという。アスタロトが物欲しそうに見ていたからか、青龍と朱雀が「ご用意致します」と急いで退室した。


「幾つかの絵画を各宿舎の玄関ホールと貴賓室に飾ることにしたんですよ」

 なるべく人の目のある場所に展示したい、ということらしい。が、どれも素晴らしくて選ぶのに難儀している、と。

「そんなの、それぞれ甲乙付け難い程素晴らしいのだから、気に入った物、目に付いた物を季節に合わせて順に何カ月か毎に掛け替えれば良くない?」

 アスタロトの提案にレアンとベルシームは、その手があったか!と目を大きく見開いた。


 青龍と朱雀が大きなお椀に盛られた昼食を持ってきた。

「だご汁か」

と俺が手に取ると、

「これ、タマエさんが『ひっつみ汁』って言ってました」

と青龍が応える。…何が違う?その疑問に、アスタロトが答える。

「『だご汁』はくまもと、『ひっつみ汁』はいわて、小麦粉を練った生地を寝かせるのが『だご』で、練って直ぐに千切って入れるのが『ひっつみ』、だったかな?」

 くまもと、いわては地名か?地域によって呼び名が違う、と。

「でも、どちらも家庭で味付けとか具材とか様々なんだよね~。これも味噌・醤油が無いから塩味だけど、とても美味しそう」

と彼は目を細めて、いただきま~すっ!と手を合わせて食べ始めた


 アスタロトがうっとりしつつ器用に箸を使うのを、そんな色香漂う様を無防備に見せないで欲しいと思いながら、俺も湯気を立てているひっつみ汁の汁をすする。

 透明感のある琥珀色のスープは煮込まれた具材の旨みも溶け込み見た目では予想できない程複雑で奥深い味わいがあり、その旨みが染み込む練った小麦粉の具材はもちもちと弾力がありながら柔らかく珍しい食感だ。

 俺はレアンとベルシームが気を緩めて満腹感、充足感を堪能しているのに無言で同意しつつ、ゆっくりと味わった。


 丁度二人がそろっているから、とアスタロトが話し出す。

「学校、どの辺に建てようか?」

 人材育成の為に新たに建設する学校の校舎を私が魔法で建てる!とのアスタロトの我が侭に、では世界随一となる教育施設を、と周囲が盛り上がってしまい規模が大きくなりつつある。が、場所が、無い。山を切り開いて作るつもりだが、乱伐するのは宜しくない。学校の責任者トップとしては元貴族のベルシームに任命したので、そのうち地図広げて一緒に考えることになっていた。


「そんなに大きな物を作るのか?」

 俺はお代わりしたひっつみ汁をすすりながら質問する。

「それに『学校』といってもいろいろな種類があるが」

 アスタロトはうさぎりんごをシャリシャリと食みながら、ん~、と考え込む。

 デザートのりんごがうさぎのように切り分けてあるのはアーリエルさんのリクエストだったそうで、だが彼女は既に満腹で「1個しか食べられない」と残りを名残惜しそうに見詰めていらっしゃったとか。

 レアンとベルシームもうさぎりんごをシャリシャリと食みながらアスタロトの言葉を待つ。


 アスタロトはゴックンと口の中の物を飲み込み考えを述べる。

「依り代さんの国の子ども達って、教育を受ける義務があってね。満7歳から15歳迄授業料は無し。でもその前後にも保育、教育機関が充実していて、それを手本に調えていきたいと思ってる」

「教育を受ける義務」

「授業料は無しということは、国の政策か」

「まさかそれは平民も、ということか?」

 依り代さんの世界が此処とも俺が元いた世界とも異なるのは重々承知していたが、とても想像が追いつかない。


「教育期間が長いのと授業料無料というのは、実現は難しいのでは」

 人と金を何処で賄う?

「やってやれないことは無いよ。そのための力、だからね」

 まぁ、やれることからゆっくりと、ね。とアスタロトは微笑む。彼にしてみればそれが当たり前の世界の記憶を持っているのだから、道筋は見えているのだろう、たぶん。


 食器を片付けてもらって、テーブルの上に大神殿~『聖都』周辺地図を広げる。

「候補は、此処」

とアスタロトが指差した先は、『聖都』から大神殿へと至る馬車道の中間地点。


 『聖都』と大神殿はかなりの高低差があり、直線距離でいえば割と近い。道幅は馬車がすれ違っても余裕があるくらいには広く作られているが、それでも傾斜がきつい箇所も所々ある。

 彼の考えでは、馬車道の中継地点を充実させる意味でも中間地点に施設を置くことは良いかと。そのうち大神殿の方に態々いかなくてもある程度は事足りるように整備したいという思惑もあるのだとか。


「山の木々の中にちょこちょこっといろんな施設がある感じ」

「大規模に伐採を行う必要は無い、ということか?」

 乱伐は土砂崩れを誘発するから、避けたいところだ。

「ううん、大規模になるかはわかんないけど、なるべく木を残したい」


 アスタロトが地図を見詰めながらちる。

「本当はね、身近に農業体験が出来る環境にしたいのだけど。自分達が口にする物がどのように作られているのかを知るのは大事なことだから」

 食べることは生きることだ、とアスタロトは何処かで言っていたか。

「益々土地が足りませんね」

 レアンが顔を蹙めるがアスタロトは、まぁ、なるようになるさ!と口角を上げた。


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