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聖者のお務め  作者: まちどり
166/197

166.タケシとレアンとイトくん(161)




 首筋から胸元から、しっとりと吸い付くような柔肌に舌を唇を這わせて、形を輪郭を突起を窪みを覚えるように丁寧になぞる。花の蜜と柑橘の酸味が合わさった甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐり、思考が鈍ったように彼を味わうことしか考えられない。


 快感の波に抗うように、ぁ、と小さな声を漏らして彼の身体がヒクッと応えて動くのを俺の身体全体で押さえ込む。彼の普段より熱を孕んだ白磁の肌がゆっくりじっくり赤く染まっていく。


「んっ、…は…ぁん、ガン、ダロフ」

 呼ばれて顔を上げると、彼の潤んだ瞳と目が合った。顔どころか全身を火照らせ、困惑と羞恥に耐えるようにふるふると震えていて。


「アスタロト」

 俺の、俺だけの、かわいい人。


 彼の肌に想いの痕を付けて、舌と吐息を絡ませ、身体に楔を穿ち、熱を放つ。何度も。何度も。


 …後で倍返しにされるとわかっていても、そんなことは最中に思い出せる訳は無いだろう?!



 *****



『注意力散漫、身が入っていない』

 剣から注意を受けた時は気を引き締めるが、いつの間にかアスタロトのことを何故あんな執拗に舐め回したのだろうかと考えながら素振りをする。


 昨日、岩塩を舐めた時に薄らと彼を感じた。たぶん彼の力のようなモノだろう。涙を舐めた時のように悲しい気持ちにはならなかったが。ペムベル陛下達がそれを舐めたその時はあまり深く考えてはいなかったのに、後から「あぁ、彼等も舐めたのか」と思い返して、もやっとした。なんだこの『もやっ』とは。


 それで昨夜は、そんな不可解な苛立ちをアスタロトにつけてしまって、少し落ち込んでしまった。まぁ、直後に倍以上に返されたが。


 アスタロトはあの岩塩を売り物にするのだろう。何せ『砂漠の秘宝』だ。そうと知らなくても、美味い。かなり高い価値があるのはわかっている。…彼に関するモノを俺だけのモノにしておきたい、と思うのは俺が狭量な人間だからだなぁ…。




 汗を流して食堂へと向かう。イトくんの居室の前を通ると、扉が開きイトくんと白虎が出てきた。

「ガン様!おはようございます!」

「おはようございます、ガンダロフ様」

「おはよう、イトくん、白虎」

 そのまま連れ立って食堂に行く。が、子どもの足に合わせると、かなり遅いなぁ。話をするのにも隣にいるのに距離を感じる。


「済まないが、抱き上げても宜しいか?」

と許可を得てイトくんを抱き上げる。白虎も子猫大になりイトくんの腕の中だ。

「うわぁ~。たかぁい」

 イトくんは上機嫌でキョロキョロと周囲を見回す。かわいい。ロトとはまた別種のかわいさだ。ロトが「イトくんは、癒し!」と言っていたのが理解できる。




 食堂ではアスタロトがレアンと話をしていた。

「おはようございます、ガンダロフ様、白虎殿。と、坊ちゃま」

「おはよう。早いんだな、レアン」

「おはようございます、レアン殿」

「おはよう、ございます」

 白虎はさっと人型に戻り、イトくんの食事用の椅子を持ってきたり食器を用意したりと食事の準備を始めた。そのテーブル端で、タケシがおそらくアスタロトがおやつにと焼いたパンケーキの欠片を小さいフォークで串刺しにして、食べやすいように少し薄めたメープルシロップに浸しながらニマニマと食べている。


「おはよう、イトくん」

 アスタロトが挨拶するが、イトくんはピカピカの笑顔で挨拶した直後、得体の知れないモノがいる!とタケシを凝視しているのを見て

「そういえば紹介がまだだったかな、タケシ」

と声を掛けると、タケシはモグモグしながら俺達の方を見る。

「こちらのお子様はダイザー帝国第四皇子、ノイット・フレア・ダイザーの、イトくん4歳。で、こっちは元魔神教信徒迷える子羊の、レアン」

で、合ってる?とロトは俺に目で確認する。が、レアンの紹介、雑だなぁ。


「そういえば、レアンの本名は、オルレアン、だったか」

と俺はレアンに話を振ると、え!第四皇子?!とイトくんをまじまじと見詰めていたレアンは、はっ!と我に返って答える。

「は、はい。ラズルド王国ブロース伯爵が長男、オルレアン・ブロース、でした。が、今は、レアン、です」

「まよえるこひつじ?」

 イトくんが小首を傾げる。かわいい。だが、そこは気にしないで欲しかったな。そしてその呟きにどう返すかとレアンは悩んでいるのか、あ~…とか唸るだけで言葉が出ない。


「で、この小人さんは、タケシ。外の大きな木の分身だよ」

で、合ってる?と彼はタケシに目で確認すると、タケシはピョコンと立ち上がって口いっぱいに頬張っていたのを咀嚼して呑み込み、腰を落として右腕をシュタッと伸ばして語り出す。

「へいっお控えなすって。お初にお目に掛かりやす、手前、人言うところの『聖樹(大きな木)』の生まれでござんす。名は、タケシと申しやす。以後、隅から隅までズズいとお見知り置きいただくよう存じやす」


 ほぇ~~、と意味不明すぎて元からまん丸い深い藍色の瞳を更に丸くして、イトくんはタケシに尋ねる。

「…おいしい?」

「うん、タケシの口の周りはメープルシロップまみれだし、お腹の中はパンケーキが詰まっているから」

「ちょっと待てタケシは食べ物じゃないぞ」

 恰好はアレだが真面目に自己紹介をしたタケシが青い顔で縮こまってプルプル震えていた。


「それに、イトくんはタケシが食べている物に興味を持ったのだろう?」

と俺がイトくんを見ると、イトくんはコクコクと首肯した。アスタロトは僅かに口角を上げると、うん、わかってたけどね、とつぶやいた。



 *****



 転移門ゲートを使ってアスタロトと俺、白虎とイトくん、レアンの五人で大神殿に行く。そのまま白虎とイトくんは託児所になっている孤児院へ、レアンは事務所へと向かった。大神殿の方は集塵機ズ(ジョーイとジョニー)、アスト達を初めとした眷属達に任せて、アスタロトと俺は南方砂漠の塩の城へと白虎以外の聖獣達を連れて転移する。



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