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聖者のお務め  作者: まちどり
159/197

159.『家族』(154)




 今日の晩飯と寝所は北の住居だ。大神殿は麒麟、青龍、朱雀、玄武に任せ、イトくんとその守り役の白虎を連れて行く。俺がイトくんのことを『殿下』呼びするとイトくんの表情が少し陰るので、一週間後の皇帝陛下との面会時まで『イトくん』呼びとすることにした。ちなみに俺達のことは『ロト様』『ガン様』と呼んでもらっている。


「だご汁、美味いな」

「おいちいでしゅ!」

「イトくんが頑張って捏ねてくれたからだね~」

 晩飯は山鳥鍋だ。アスタロトがイトくんを誘って小麦粉を捏ねて一口大に千切って入れただごが、もっちりとした食感でとても美味い!

「そうだな。イトくんが頑張ったからだな」

「はいっ!がんばりました!」


 イトくんが食後のデザートで苺ジャムを載せたヨーグルトを食べ満足げにおなかを摩るのを見て、アスタロトが呟く。

「なんか、『家族』って感じで良いなぁ」

「「家族?」」

 俺とイトくんがアスタロトを見て復唱する。

「うん。本当は白虎やユキチ達とも一緒に食べたいのだけどねぇ」

と続けると

「私達は部下ですから」

と傍に控えていたユキチ達は苦笑した。彼等に食事は必要無い。とはいえ、アスタロトが作るお菓子は大好物だから、今度俺も一緒に労りと感謝を込めて摘まめるお菓子を作ってみよう。



 *****



 外を見廻っている白虎に代わって、アスタロトと俺でイトくんを風呂に入れる。

「やっぱり、大きいお風呂を作ろう」

「大浴場か?」

 大きいとはいえ猫脚の湯船では、さすがに三人仲良く一緒に浸かるのは無理だ。イトくんを一人で入浴させられないので、二人で見守りながらイトくんをじゃぶじゃぶさせている。

「教会をそのまま改築して、男風呂と女風呂と」

「温泉宿みたいだな」

「管理が大変?」

「それ以前に、此処は僻地だから客は来ないだろうな」


 ぬれタオルに空気を包んでお湯の中に沈めてプクプクプクと細かいあぶくが出てくるのをキャッキャッと楽しんでいるイトくんを、びしょびしょになるのも構わずアスタロトも共に楽しんでいる。確かに大浴場であれば、服が濡れる等の心配は無くなるなぁ。そんなことを休憩用の椅子に腰掛けて考えていると、ふ、とアスタロトと目が合う。お互いに微笑みを交わすと彼はまたイトくんに向き合った。…『家族』か…。



 *****



 俺達の使う主寝室の隣、ペムベルが使っていた部屋をそのままイトくんに使う。ユキチ達は何も言わずとも抜け目なく完璧に準備をしていた。流石だな。


 白虎が戻ってきたので、成猫大の獣型でイトくんと共にベッドに入れる。暖かい縫いぐるみ状態だなぁ。

 俺とアスタロトはベッドの傍に持ってきた椅子に腰掛けて

「絵本は良い物が見つからなかったけど、これはアーリエルさんのお勧め」

と、アスタロトはイトくんに大神殿から持ってきた本を読み聞かせる。



 ♢♢♢♢♢



 町の青年が領主の一人娘と恋仲になった。

 領主は海の宮殿にあるという秘宝を持ってくれば娘を嫁にやるという。

 青年は浜辺で困っていた娘を助け、娘はお礼にと海の宮殿に忍び込み秘宝を持ち出した。「次の満月の時までに返してくださいね」と約束して娘は秘宝を青年に渡し、青年は秘宝を手に入れた……。



 ♢♢♢♢♢



「寝ちゃったねぇ」

 イトくんは割と直ぐに、くぅくぅと寝息を立てていた。

「今日もたくさん動いて、疲れたのだろう」 

「続きは、部屋に戻ってから読む?」

「…いや、明日またイトくんが寝る前に読み聞かせて欲しい」

 イトくんと一緒にアスタロトの語りを聞く。その時間が今からとても楽しみだ。

 俺は「後はよろしく」と白虎に声を掛けて、俺達は退室した。




 さて、ここからは大人の時間だ。交互に入浴した後、水やお茶を飲みながら談話室で麒麟とユキチとアストを交えて報告、連絡、相談をし、明日からの行動指針を定める。


 初めに麒麟の報告だ。

「ダイザー帝国は只今中央部の粛正中、その後に各地へと粛正の波が押し寄せることになりますが、国土が広くすべてを終えるには一ヶ月程はかかるかと」

「一ヶ月か。まだまだ落ち着かないな」

 大人の一ヶ月と子どものそれは感じ方が全く違う。

「早く腰を据えて暮らせるように整えてあげたいのだけどね」

「いっそ、俺達で引き取って面倒を見ると提案したいところだが」

 こればかりは俺達だけでは決められない。アスタロトはふるるっと首を振る。

「それは最終手段。イトくんの気持ちが第一だし、その次が親御さんの気持ち。立場云々はその後」

とアスタロトは俺の眉間に寄った皺を伸ばすように指の腹で優しく撫でて

「ここまで深く関わったのだから、イトくんには幸せでいて欲しい。我が侭なお願いだけど」

 その当人の心が感じるままに。『幸せ』の押し付けすら自由の妨げだと認識して居るのだろうな。あぁ、ロトらしい。

「優しい我が侭だな」

 俺は眉間を撫でていた彼の手を取って、指先にチュッと口付けた。甘酸っぱい香りが辺りを漂い、麒麟とユキチとアストがうっとりと俺達を見詰めていた。


 報告を中断させる意図は無いので、続きを促す。

 北方地区は変化無し。

 南方地区、オリマ王国では、王家の借金肩代わりの件を受け入れる方向で概ね決定だそうだ。

「明日の日没前に訪問する旨を既に伝えてあります」

「地形を大幅に変えるから立ち入るのは危険だって、理解させなきゃだね」

「程々にな」


 そして東方地区は。

「ジョウガ王国で動きがあります」


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