表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖者のお務め  作者: まちどり
153/197

153.今更な話しだ。(148)

 本日、二話更新してます。これは二/二話目です。


 殺気立つ殿下達に構わずリラベット侯爵は喚き続ける。

「ソフィールはタリアに嵌められたのだ!タレッグル、貴様もだ!ソフィールは出産前まで元気だったのに!出産のどさくさにその女が毒を飲ませて殺したのだ!貴様等がソフィールを」

「黙れぇっ!何も知らぬのは貴様だ!!」

 ガッ!とタレッグル陛下がリラベット侯爵を怒りの形相で殴り、勢いでリラベットが倒れる。


「父様…思い込みの激しい方だとは存じておりましたが、本気でそんなことを信じておりましたの?」

 デボラ皇妃殿下が痛ましいものを見る目つきで父親を眺める。

「ソフィール様が望んでタレッグル陛下と婚約したという話、有名でしてよ。元の婚約者であるクーイド王国の公爵令息と姉君の第一王女が恋仲になったので、お互いの婚約者を交換した、と」


「そんなの、建前に過ぎんっ!」

 倒れたままで、リラベット侯爵はそれでも大声を張り上げる。

「貴様がソフィールを望んだから!だから交代させたのだろう!」


『クーイド王国のミフニッド公爵夫妻は大恋愛の末に結婚、今でも仲睦まじいことでとても有名』

 剣が間髪入れずに解説する。即座に言えるほどにはソフィール姉夫婦はおしどり夫婦として有名なのだろう。


 一発殴って少し落ち着いたのか、タレッグル陛下は握り締めたままの拳を擦りながらリラベット侯爵を冷たく見下ろす。

「当時、まだ顔も見ていない婚約者を変えられたとて、素養に問題がなければ特に思うことはなかったのだよ、儂の方は」

 ふぅ、と息を吐いて陛下は言葉を連ねる。

「だが、ソフィールは「誰にも負けない権力が欲しい」と言った。小国の王女では帝国貴族の圧に耐えられないかもしれないから、とな。圧、とは貴様のことだったのだな、ブルイア・リラベット」

 そして傍で待機していた帝国騎士達に「連れて行け」と命じる。


「畜生!私のソフィールを返せ!このっ!許さんぞぉ!」

 騎士達に引っ立てられ連れられていく間にもリラベット侯爵は喚き散らしていた。アスタロトが、元気だね、と感心する。だが、その元気も何時まで保つのだろうか。

「楽に死なせはせんぞ」

と陛下は開いた手の平を見つめながら呟いた。




「終わり?」

とアスタロトが小首を傾げる。

「劇であれば、そのような感じだが」

『映画だったらエピローグやってお終い』

 えぴろーぐ、とは?抑も映画、とは?

 画面の中ではダイザー皇族ご一行が、解散!とばかりに自分の役目を務めようと散っていく。

「未だに目覚めない人がいるって」

「気になるなら明日にでも様子を見に行くか」

 恐らくダイザー皇家の者達もこれからそれぞれ休息を取るだろうから、新たな動きがあるとすれば明日以降だ。

「それよりも、全く出なかったな」

「チラリともなかったね」

「彼等にしてみれば、既に過去の人物の過去の出来事だ。今更蒸し返されても困惑しかなかろう」

「じゃあ、初めに言ってたとおり、前の持ち主に返そう」

 そう言って、アスタロトはマジックポーチから小さな白い天鵞絨ビロードの巾着袋とカードを取り出した。


 巾着袋の中身は大きなスターサファイアのイヤリングだ。深い青の中に金色の筋が三本入っている丸い石を金の金具であしらうそれを、袋の上に置いて眺める。春分の日前夜に画面で観た、祭事を執り行うルゥさんとアーリエルさんの耳朶の下で、ゆらゆらと揺れる様を見ていた。


 レキュム殿下から預かった細工箱を開けた際に、二重底になっていた奥の隙間に、このイヤリングとカードが収められていた。

 カードの文面は

『ユーリアへ 私の愛を君に捧ぐ ルシアノン』

 ユーリアはタレッグル陛下の第三皇妃で双子の母親、ルシアノンはタレッグル陛下の弟でユーリアの元婚約者。イヤリングが神殿に籍を移してからの入手だとしたら、時期的に不貞を疑われるようなことを実際やっていたのかもしれない。このことについてアスタロトは、ユーリアとルシアノンが誰をどう思っていたかなど本人達だけの秘密だ、とそれ以上探るようなことはしなかった。それこそ、今更な話だ。


「カードは…燃やすか」

「箱と中身の所有者を私が決めるって了承してもらったから、罪悪感、無し!」


 無問題もうまんたい!との掛け声と共に、アスタロトはカードを摘まんだまま燃やした。彼の指先から立ち上がった炎は直ぐにカードを焼き尽くし、少しの煤が空中に紛れて、跡形もなく消えた。



 ※※※※※



 寝入る前の記憶が曖昧なのはお互いを激しく求め合う所為なのだろうか。いやこれは『寝入る』ではなく『気絶』では?それはともかく。


 喉を潤してから剣にその後の経過を尋ねる。

『ゾマとノイット殿下の護衛を尋問してた』

 ゾマというのは、ノイット殿下の世話役だったか。

「麒麟が転移門ゲートを用いたのか。何か特筆することは?」

『ゾマがノイット殿下の費用を横領してた』

「予想通りだな。皇帝陛下と皇妃殿下のどちらも目を掛けていないから、バレないとでも思っていたのだろう。ノイット殿下について、陛下達は何か言っていたか?」


『どうしようって悩んでた』

「何をどうしたいか、まずはそれを決めてもらわないと。俺達が口を挟むのは未だに筋違いのような気がする」

『ますたーは、どう言うかな?』

 ロトは『イトくん』の味方だ。だから

「ノイット殿下のお気に召すままに、とでも言いそうだな」

 出来れば皆が納得いく形で解決するのが最善だ。


 …俺は素から『男性』だからか気にすることは無いが、アスタロトは俺達の間に子が成せないことについて何かしら思うところがあるのだろうか。

 彼の綺麗な寝顔を見ながら、そんな考えがふと胸をよぎった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ