118.パベルグ殿下?(113)
次に、指揮役の騎士に案内させて元司祭補佐パベルグに会いに行く。その騎士が言うには、昨日案内役だったこの国の騎士団団長は現在不審者を王城に招き入れた咎で牢屋に入れられ、今は副団長の自分が代役を務めている、と途次説明した。
「我々を案内したら、貴殿も牢屋行きか?」
聖騎士ダングが少し申し訳無さ気に言うと
「まぁ、仕方ありません、無用な争いは避けたいですし」
と副団長は苦笑した。
「正しい判断だと思うぞ。それより、そのような無謀な命令を下しているのは一体誰だ?」
俺の質問に何故かアスタロトが答える。
「最終的にはパベルグさんでしょ?押しの強い臣下に言われて。で、それを今から確認しに行くんだよね?」
「確認するのはそれだけではないがな」
はぁ、全く朝から面倒なことだ。
副団長が付随していたからか陛下の執務室には穏便に通された。そして室内では事務官らしき人が三人と、その奥の大きな机に積まれた書類に元司祭補佐パベルグが顔色を無くして埋もれてた。
「おはようございます。えと、王籍復活、おめでとう?殿下って呼ぶ?」
とアスタロトが声を掛けるとパベルグは太い眉を寄せて挨拶を返す。
「おはよーございます、アスタロト様、ガンダロフ様。『殿下』呼びは勘弁してください」
感情の無い、棒読みの台詞だな。かなり疲れているのだろう、まだ朝のうちだというのに。
「おはよう。忙しい所申し訳ないのだが」
だがそれに気を回す時間的余裕は俺達には無い。
「俺達は『暗殺未遂容疑』で拘束されそうだったのだが、これはどういうことだ?ペムベル陛下が手荒に扱われた形跡があったのとどのような関係がある?」
俺の質問に、パベルグは驚きの表情を浮かべ
「は?暗殺未遂容疑?ペムベルが?!」
と立ち上がる。事務官らしき人達も手を止めて驚きの表情を見せる。
「つまり、パベルグさんは、知らない。ということは、私達の捕縛は誰から命令されたの?」
とアスタロトは首を傾げつつ副団長に尋ねる。するとパベルグは更に困惑したように
「誰だその国を滅ぼしかねない命令を下したのは?!」
と副団長にきつく問い質す。流石に昨日一日付き合えばアスタロトがどれだけの要注意人物かというのがわかるようだ。アスタロトは国を滅ぼしかねないって大袈裟な、と呟いていたが。副団長は震えながら答える。
「プルセム・ゴハ侯爵でございます」
「彼奴か!」
その名前を聞いたパベルグは顔を真っ赤にしてドンッ!と机を叩く。纏めてあった書類の山が二つほどバララッと崩れた。
「彼奴は相変わらず好き勝手して自分のことしか考えておらん!」
先程からアスタロトの眉間に皺が寄ってる。癖にならなければ良いが。
「問題のある人物が絡んでいるのはわかった」
俺はなるべく落ち着いた声でパベルグに提案する。
「であれば早急に騎士団長を復帰させるなり、件の人物に対する策を講じた方が良いのではないか?」
此処で怒鳴っても問題は解決しないぞ。
「パベルグさん」
アスタロトはパベルグに呼び掛けて
「ペムベル陛下は、大丈夫。だから、パベルグさんは無理しない程度に頑張って」
と彼に近付き肩に手を置く。するとふわっと淡い光がパベルグを包み込み、険しい顔をしていたのが呆気にとられたような表情に変わり徐々に穏やかになっていく。アスタロトの優しさがパベルグに染み渡ったようだ。だが朝から力の使いすぎだ。
アスタロトがパベルグの肩から手を外すと、少しでも彼の疲れが癒えるようにと俺はその手を両手で包み込む。うむ、暖かい。
「ありがとうございます、アスタロト様、ガンダロフ様。言い遅れましたが、今朝の祭事はとても素晴らしいものでした。朝日と共に暖かな祝福の光をいただき心が晴れ渡っていきました。本当にお疲れ様でした」
もうすっかり落ち着いた表情でパベルグがお礼を言う。
「俺達は国に対しては口を出したり手を出したりするつもりは無い。ペムベル陛下に対しては手は尽くす。が、目覚めたいと思うかどうかは本人次第だ」
俺はアスタロトの手を揉みながら答える。
「はい、わかっております。お疲れの所、御面倒をお掛けしまして本当に申し訳ございません」
パベルグもこれまで以上に大変だろうが、ペムベルの為にも無理しないで欲しいものだ。頭を下げたパベルグを見てアスタロトが大丈夫だね、と呟いた。
また明朝来るから、と執務室のベランダから退室する。機嫌を損ねると危ないと思われているのか、もう誰も何も言わなかった。
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