104.『支配欲』(99)
「あとね、キラキラのことだけど。私もたまにキラキラさせてるでしょ?どちらもたぶん本質的には同じモノかなって」
「同じモノ?あのキラキラは普通の人も持っているモノだと?」
だがアスタロトのキラキラは自身が他の者に与えるモノで、リコロさんが言っていたキラキラは普通の人から出てきたモノ、だよな?
「うん。あれはね、気持ち?」
「気持ち」
「私が萎びた大地や弱った人達に「元気になぁれ!」って気持ちを込めると、キラキラする。で、この前そのキラキラを掴んだときに『楽しい!』ってなったから、気持ちだと思う」
そういえば、『楽しい』を無理強いしているんじゃないかと気にしていたな。
「うん、ごめん、自分でも感覚的すぎて上手く説明出来ない」
いやそれはいつものことだ。しかし『気持ち』とは…この世界ではあのようなキラキラで発現するモノなのか?
「剣、わかるのであれば俺に理解できるように説明して欲しいのだが」
剣は理解出来ていると思うのだが
『えぇ~っとぉ~』
剣のことだから無理なら『無理』とはっきり言うはずだが、何故言い淀む?アスタロトも焦って問い質す。
「待って剣ちゃんも理解不能だったりする?!」
『うんとね、なんとなくもやぁ~っとしてて、どう説明したら良いのかなぁ……。気持ち、というか、欲?』
「「欲?!」」
『うん。自他に関係無く誰かに対して願いを叶えて欲しいっていう、要望』
「欲、と聞くと崇高なものが一気に世俗に塗れたモノに感じるのだが、生き物の本能とか本質のようなものに近いのだろうな」
と俺は苦笑した。んん?以前、同じように思ったことがあったな。確か魔法の話で、俺は平民出身で魔法には縁が無く理解できないと言ったら、根本から丁寧に説明してもらって…。
「ということは、私がこれだけいろいろな魔法を使えるのって、私が我が儘大王だから?」
あの時の『だから魔法使いには我が強い者が多い』との説明は今、完璧に納得した。アスタロトは俺の知っている魔法使いの誰よりも桁違いに強いから。
「…そうだな」
「え、全く否定しないの?」
意外そうな少し傷付いたような顔でアスタロトは俺を見返す。否定する要素はあまり無いのだが何処に傷付いた?
「あ、あぁ、昔、魔法使いの知り合いが言っていたのだが。魔力の量や質というのは『支配欲』に応じて変化するのだ、と」
「『支配欲?』…支配力じゃなくて?」
剣とアスタロトが当時の俺と同じ疑問を訊いてくる。
「そう、『力』ではなく『欲』だと。俺も聞いた当初は不思議に思ったのだが、対象物に対して思い通りに動かしたいという強い思い、つまり『支配』したいという『欲』の強さが重要なのだと言っていたな。それに力が伴うかどうかはその後の段階での話で、結局は『支配欲』が決め手になるのだと」
俺はその話をした魔法使いのことを思い出す。自分の信念を曲げられず敵方に回った大魔法使い。彼ならば然もありなんと思っていたから裏切られたとの思いは無い。最後に一閃浴びせたかったがそれも叶わず…戦闘力を比べれば仕方の無いことか。願わくば彼には本懐を遂げて欲しい。
俺がしんみりしていると剣がキラキラについて補足説明した。
『そういえば季節の節目の祭事って、ルゥさんの記憶ではアーリエルさんだけがキラキラしてたの。で、魔神になる前はキラキラが無かった』
そして何かを思い出したのか、剣がほわっと光る。
『あ、キラキラとは違うのだけど、アーリエルさんとルゥさんに『祈りの言葉』を考えてってお願いしてたでしょ?それでちょっと、揉めちゃってたんだよね』
「「えっ?!」」
俺とアスタロトは剣を凝視する。
「そういう事は早めに報告して欲しかったのだが」
俺が文句を言うと、アスタロトが気付いたように
「あ、じゃあ、アーリエルさんとルゥさんがぎこちない感じだったのって、その所為?」
と先程の晩餐を思い出す。
「俺達の依頼が一因だったとは」
俺もアスタロトも、やってしまったかぁ、という顔でお互いを見合う。
『それは切っ掛けに過ぎなくて、お祈りの中身で意見の相違があったらしくて。ほら、ルゥさんは魔神になる前から聖職者だったから』
聖職者。高位になる程厄介な奴しかいなかった。
「世界平和を祈れとか、無理強いしたのか?だが、祈りというのは気持ちの発露のようなものなのだろう?強いられても意味は無さそうだが」
アスタロトも同意して頷いた。だが剣は
『う~ん、微妙に違うような。ルゥさんは些細なことでも、日々何かしら思うことはあるだろう?って感じなのだけど、アーリエルさんはもうずっとルゥさんに会いたいとしか思ってなかったから、何を思えば良いかわからないって』
その言葉を聞いたアスタロトは暫し固まり、うぅ~~~わあぁ~~~っ!!と呻きながら頭を抱えた。
「それって私、もの凄くやらかしてない?!」
彼がこれ程後悔する姿は初めて見るが、あの状況では致し方ないのでは?ルゥさんも頑張って宥めていたとしたら。
「それであの目付きか。まぁ、そりゃあ敵視されるかもなぁ、うむ」
「ルゥさん、なんか、ごめんなさい…」
俺はアスタロトの抱え込んだままの頭を優しく撫でる。まぁ、間が悪かったということだな。
『報告、遅れてごめんね。でもルゥさん達、やっぱり、なんか、おかしい』
剣は何処に違和感を覚えるのか、俺は冷静に問う。
「剣が感じる違和感はどのようなものだ?」
『ルゥさんが閉じ込められる前は、アーリエルさんはルゥさんが苦笑するくらい小さなことでもいろいろとお祈りしてたの。ご飯美味しくてありがとうとか、お花が綺麗に咲いて欲しいなとか、ルゥさんといつも一緒にいられて嬉しいとか。
対してルゥさんは、主が言ったみたいに祈りというのは気持ちの発露のようなものなのだから、何も浮かばない時は手を合わせるだけでも良いんだよって言ってた』
「それは…確かに違和感を覚える」
ルゥさんが捉えられる前と後で、かなりの差異がある。60年という月日が流れたとはいえ、アーリエルさんもルゥさんも何故そんなに変わってしまったのか。
読了、ありがとうございます。
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