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第三話:新たなる種付けおじさん

 公園で舞い散る木の葉が色褪せる頃、公園のベンチに一人のスーツ姿の男と、ズタ袋を被った種付けおじさんが並んで座っていた。

 種付けおじさんと同じ程度に老けている男が広げている新聞には、女性が種付けおじさんに襲われ、病院に搬送されたという記事が小さく載っていた。


「―――とまぁ、今話したのが事件の全容になります」


 そう言ってトーマは隣にいる男性の顔色を伺う。

 男は新聞を畳み、朗らかな顔をして応える。


「成る程。そういう悪い子なら中絶させないよう、ちゃんと病院に連絡しとかないとね」


 この男は”豊岡”(とよおか)、役所の≪種付けおじさん対応課≫に勤めており、女性が襲われた事件があった為に事実確認として足を運んできたのであった。


「それにしても、ひきこもりの子を襲った帰りに別の悪い子に出会うだなんて、何か変なフェロモンを出してるんじゃない?」


 豊岡が茶化すように言うが、トーマは困ったように頭を掻く。


「止めてくださいよ。確かに遺伝子改造で汗や体臭をある程度コントロールできますけど、そんなもの出せませんって」


 そう、種付けおじさんは文字通り体を細胞レベルで手を加えられており、それによって様々な恩恵を得ている。

 ほとんど風呂にも入らない生活であるにも関わらず、異臭を撒き散らさないのはそういった背景があるからだ。


「種付けおじさんのそういうところ、羨ましいね。病気もほとんどしないし、下半身も自由自在だからえっちなお店も楽しみ放題ってね」

「それなら豊岡さんも種付けおじさんになってみたらどうです?」


 今度はトーマが茶化すように言い、豊岡が苦々しい顔をして首を振る。


「人権をなくしてまでなるもんじゃないよ」


 そう言って用事を済んだ豊岡はベンチから立ち上がり、思い出したかのように言う。


「そうそう、明日新しい種付けおじさんが来るから」

「それは……元からですか? それとも後から?」

「後からだね。罪状は放火、じゃあ後よろしく」


 そう言って立ち去る豊岡の背中を見ながら、トーマは小さく溜息をつく。


「よぉ、どうした兄弟?」


 トーマの後ろから、別の種付けおじさんが声をかける。

 スーツのデザインは彼と同じではあるものの、その顔には所々が赤黒く変色した木の皮によるマスクで顔が隠されていた。


十吾トーゴか。実は新しい犯罪者が出て、その種付けおじさんが明日来るらしい」

「犯罪者ねぇ。昔は違反者もまとめて犯罪者だってのに、どうしてわざわざややこしく言葉を分けたのやら」

「さぁな。人権ある人らの考えなんてサッパリだよ」

「あいつらそんな難しいこと考えてねぇお。違反者って言葉で線引きしないと、自分も種付けおじさんになるような犯罪者と同じだって見られるからだお」


 トーマとトーゴが話している間に、また新しい種付けおじさんがやってきた。

 二人のスーツよりも更に上等な白い生地が使われており、皮製のマスクで顔が隠されていた。


「ゴトー……お前、アホそうな顔してるのにそういう所は詳しいよな」

「ツラならお前も同じだお……って言いたいところだけど、最近は一般人の顔の方が見分けつかなくなってきた」

「遺伝子調整で顔も体も整えられるからなぁ。肥満って言葉も今じゃ知らない子供ばっかりだろう」


 そう、種付けおじさんによって産まされた赤子は種付けおじさんにされるのだが、それ以外にも種付けおじさんは増えていく。

 それが犯罪者の種付けおじさん化だ。


 種付けおじさんは悪人を裁くが、警察や司法が何もしていないわけではない。

 彼らも課せられた仕事を全うしており、それによって違反者と犯罪者に対処している。


 重罪を犯した者は人権を剥奪され、後天的な種付けおじさんにさせられる。

 もちろん、後天的に種付けおじさんにさせられる場合には危険が付きまとう。

 そのせいで、後十ゴトーは呂律がうまく回らずおかしな口調になってしまった。


「それで、今度やってくる新人は何やらかしたんだお?」

「放火らしい。仲良くやれそうか?」

「ふん、その程度か。あと十年はシャバで揉まれてこいってんだお」


 放火犯が来るというのに何ともなさげに言うゴトーを見て、トーゴは呆れた顔を向ける。


「流石は一週間で五十人以上の女を襲った奴だ。生まれながら種付けおじさんの俺とトーマでも真似できねぇよ」


 トーマは困ったように、そしてゴトーは全く気にもせず豪快に笑った。



 翌日の日が昇り始めたばかりの公園に、新しい種付けおじさんがやってきた。

 国が廃棄した……ということにされている青色のジャージに、雑巾を繋げたかのような顔を隠すマスクをしている。


「よぉ、これからよろしくな新入り……って中々若そうな奴だな」


 トーゴが気さくに話しかけて肩を組む。

 顔はマスクのせいで分からないが、種付けおじさんを長くやっていれば身体つきを見るだけで大体の年齢が分かるものだ。


「ウッス……」


 トーゴとは反面、新しくやってきた若き種付けおじさんの気分が最低なのが分かるほどであった。

 それでも自分達を見て露骨な嫌悪感を示さないことに、トーマは安堵した。


「我々は君に罰を与えたりしない、ただ生きる術を教えるだけだ。君の過去についても詮索したりしない、安心してほしい」


 トーマが安心させようと落ち着いた声で語りかけるも、新人は俯いたままであった。


「生きる術……誰か襲ってこいとか、そういうのッスか?」


 つい先日まで一般人だった新人なのだ、種付けおじさんの生態なぞ知るはずもない。

 だからトーマもトーゴもその発言を気にしていなかった。


「いいや、違う。取り敢えず上は脱いでくれ」

「は……えっ?」


 出来るだけ優しい声でトーマが語りかけるが、新人は困惑するだけであった。

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