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職業、種付けおじさん  作者: gulu


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第十四話:夢の交わり

とはいえ、種付けおじさんと一般人が一緒に行動するなど問題しかない。

なので文明の利器を頼る事にした。


『もしもし、ちゃんと聞こえてますか?』

『ああ、聞こえてるし見えてるよ』


 星見はハンドフリーで会話できるデバイスを装着してトーマと会話し、トーマは物陰から彼女を監視しながらついていく。


 知らない者が見れば迷わずに通報するくらいに怪しい行動だが、そこは種付けおじさんの領域である暗闇である。


長年種付けおじさんをしてきた事で人の視線に敏感になった感覚、更にゴトー特製のスーツのお陰で滅多なことでは通報される事はなかった。


『フフ、なんだか不思議な感じですね。それに刺激的です』

『女の子は危険な男に惹かれるって聞いた事があるが、私は種付けおじさんだよ……』


 溜息交じりのトーマの言葉に、星見はクスクスと笑い上機嫌であった。


『それじゃあ、買い物が終わるまで何を話しましょうか』

『私は女の子に振れる話題なんか一つもないよ』

『なら、お互いに自分の事を話しましょうか』


 そうしてトーマと星見は語り合う。


『実は私、アイドルになったの最近なんです。社長が勧誘してきた時の熱意が凄くて、つい頷いちゃって』

『私には刎頚の交わりとも言える仲間がいる。トーゴとはもう二十年以上も一緒に暮らしているんだ』


 星見が店内に入り、トーマはそれを影から見守る。

 そこでも二人はまだ語り合う。


『もうすぐで新人アイドル限定の大会があるんです。もしもこれに優勝したら、年末の紅白出場権が貰えるんですよ』

『最初はトーゴの方が失敗ばかりしていたけど、あっちの方が頭が良くてね。食料や物資の調達、他にも色々な知識を教えてくれたから助かったよ』


 そして大量の荷物を抱えた星見が物陰に向かうと、いつの間にか現れたトーマがそれを持ち、事務所への帰路へつく。


『最近、新しい後輩が入ってきたんです。自信がなさそうでオドオドしてるんですけど、踊りと歌を完コピしていて、社長もその才能を認めてました』

『ゴトーは服を、イクトはスマホやインフラを。そしてつい先日来たヨシトは料理が得意でね。本当に、後輩の皆に助けられてる毎日だよ』


 あまりにも違う生活、まるで遠くの異国の話のような感覚だが、星見とトーマはそのかけ離れた世界の話が御伽噺のようで楽しかった。


 とはいえ、そんな夢のような時間にも終わりは来る。

 事務所のビルに到着し、星見が裏口の扉を開けるのだが、トーマは立ち止まっている。


「あの……荷物を中に入れないと」

「いや、私が入れるのはここまでだ」


 その扉の先は彼女の世界だ、間違ってもトーマの住まう世界ではない。

 確かに種付けおじさんが彼女達の世界に手を伸ばすことはある。

 しかし、それはあくまで悪人を辱める場合に限る。


 それ以外の理由で日の当たる場所に出てきてしまえば、警察という無能な羊という皮を被った狼がやってくる。

 だから、ここで終わりなのだ。


「まだ、お礼も……」

「いいんだ」


 そう言ってトーマは静かに微笑む。

 その顔が、まるで今にも消えかけてしまいそうな幻のようだと星見は感じた。

 目の前にいるのに、自分の前にはどうしようもない隔たりがあるように。


 ここが、夢の覚める分岐点なのだ。


 星見の後ろから近づいてくる足音が聞こえてくる。

 トーマは慌てて逃げようとするが、預かった荷物を放り出すわけにもいかず、とにかく地面に整理して置く。

 だがビルから出てきたのは予想外の人物だった。


「あっ、透先輩。買い物なら後輩のぼくに任せてくれればいいのに! 先輩の命令なら毎朝お味噌汁は作れないけど、コロッケパンならいくらでも……買っ……て……」


 突然の乱入者が、トーマの顔を見て固まる。

 マスクを被っているとはいえ、いきなり種付けおじさんと出会えばこうなるのも仕方がない。


 だが、その乱入者たる女の子が驚き戸惑い震えているのはもっと別の理由であった。


「あ……ぁ……種付け……おじさん?」


 その女の子が信じられないものを見るかのような顔をしてトーマを指差す。

 トーマはしばらく思案したあと、ようやくその女の子が驚いている理由が分かった。


「確かキミは、数日前に引きこもりだったあの子か」


 マスク越しではあるが、トーマは嬉しそうに顔を歪める。

 その子がここにいるということは、引きこもりから卒業できたという事だ。


 種付けおじさんとしての本業が、こうして役立っているのを実際に見ることができてトーマは満足そうな顔をしているが、それとは対照的に女の子の顔は蒼白となっていた。


「えっと、夢(む~)ちゃん?」


 星見が心配そうにしながら夢ちゃんと呼んだ女の子の肩に触れる。

 それがスイッチだったかのように、夢ちゃんと呼ばれた女の子が物凄い勢いで震え、悲鳴をあげた。


「ひいぃぃん! ぼく、もう引きこもりやめたよ!? なのにどうして種付けおじさんがいるの!? なんで、なんで、なんでだよぉぉおおおおおお―――」


 そう言って夢ちゃんと呼ばれた女の子は気絶してしまった。


 以前、トーマは彼女に「だが憶えておけ、お前がまた堕落したとき、俺は再びお前の前に現れる。それは、お前が俺を求めているということなのだと!」と飛び切りの脅しをかけた。


 それにより、彼女は再び現れた種付けおじさんを見て、今度こそ徹底的に辱められるのだと思ってしまったのだ。


倒れてしまった彼女を見て、星見が困った顔をしてトーマを見る。


「あの……すみません、この子を運ぶの手伝ってもらえないでしょうか」


 間接的に自分のせいだと悟ったトーマは、とてつもなく申し訳ない顔をして彼女をビルの中へと運んでいった。

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