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第一話:日常の裏に潜むもの

 一家が集う夕食の匂いが漂う住宅街。

 ある家庭は両親が外食に出かけており、家にはひきこもりになった少女だけがいた。


「ひいいいいぃん、なんで卒業するのぉ!」


 ひきこもりになった当初はトイレに行くことすら怖がっていた少女だったが、いまや立派なひきこもりアイドルオタクになっていた。

 そんな少女が複数のモニターでアイドルのライブ映像を流しながらも、手元のスマホでSNSに投稿された衝撃ニュースにショックを受けて、悲鳴をあげていた。


「うぅ……いいもん、いいもん……ぼくにはまだ推せるアイドルが沢山いるもん」


 涙目になりながらも少女は新しい逃避先に逃げ込もうとする。

 少女が元気になったことは両親も喜んだが、ずっと部屋に閉じ篭っていることには変わりない。


 ずっとこのままだろうか、どうすればいいのか?

 両親は医者に診せようとしたが少女は頑なに部屋から出ず、役所に頼ってみてもどうにもならなかった。

 だが、ある課だけがそれを何とかしてみせると言ってみせた。

 不安になりながらも、両親はその役員に言われた通りに外食に出かけ、家には少女だけが取り残された。


ガシャン!


「ひっ!」


 一階から大きな何かの割れる音がし、少女は驚き体をすくめる。

 そして何かが二階にある自分の部屋の近くに来た気配を感じた。


「パ、パパ……? 帰って来たの?」


 おずおずと閉じられた扉に言葉を投げかけるも、返答はなかった。

 気になった少女はドアノブに手を伸ばそうとしたが、すぐに扉の側から離れた。


「し、知ってる! これホラーでよくあるやつだ!」


 もちろんこれはホラーではない。

 しかし、もしも扉の向こう側にいるのが空き巣だった場合は扉を開けるのは逆に危険である。


 誰にもバレないよう家に侵入したのに、もしも目撃されてしまったらどうなる?

 その瞬間に空き巣は強盗になり、少女は大変な目に遭うことだろう。


「けい、警察に……でも何もなかったら怒られるし……そ、そーだ! 卒業サヨナラ記念でライブ映像見直さないと!」


 扉一枚隔てた脅威から逃避するように少女はパソコンの方へと向かう。

 ふと窓に目を向けると、そこに存在するはずのないものが見えた。


 手だ。

 それも成人男性よりも大きく、厳つく、そして汚らわしい手が窓に張り付いていた。


 少女が言葉を失い立ち止まっている間に、その手は窓を叩き割る。


「ああああああ、うわああああああああ!!」


 少女は半狂乱になりながら叫ぶが、それを全く意に介せず大きな手は窓の鍵を開ける。

 窓が開けられ、そして次に少女の部屋に入ってきたものを見て少女は更に取り乱して逃げようとする。


 それもそうだろう、スーツを着た男が土足で自分の部屋に入ってきた程度ではここまで取り乱さない。

 なにせその侵入してきたものは二メートルを越す巨躯だけではなく、頭からボロボロのズタ袋を被っているのだから。


「どうも、ひきこもりのお嬢さん」


 侵入してきたものはうやうやしく挨拶をするも、まるで獲物を前にした肉食獣のように、侵入してきたものは少女へ近づいていく。

 そして顔を隠していたズタ袋を引っ張り上げ、素顔を晒して正体を明かす。


「やぁ、種付けおじさんだよ」


 均整のとれていない輪郭、左右対称とは言いがたい顔の部位、一目見れば自分達とは違う存在を見て、少女は発狂した


「ひいいいいいいいぃ!」


 誰もが小さな子供の頃にさんざん聞かされたもの。

 悪いことをしたら種付けおじさんがやってくる。

 それが今、目の前にいるのだ。


「なんでなんで!?」


 少女は泣き叫びながら背にした扉から逃げようとする。

 しかしカギを開けようとしても何かに押さえつけられたかのように回らない。


「なんで? 病院にも行かずにずっと家にひきこもって親に負担ばっかりかけてる悪い奴がいるからおじさんがお仕置きにきたんだよぉ」


 下卑た表情を浮かべながら、種付けおじさんが少女の衣服に手をかける。

 そして成人男性を凌駕する腕力で上着を引き千切ったのだが、あまりにも勢いがあったせいで少女は近くにあったベッドまで飛ばされてしまった。


「だれか! だれか助けてよぉ! だれかああああああああ!!」


 種付けおじさんは衣服を窓際に投げ捨てて、哀れに助けを求めて泣き叫ぶ半裸の少女に覆いかぶさった。


「無駄だ。お隣がうるさいからって、わざわざ首を突っ込んでくる時代はもう終わってるんだよぉ!」


 種付けおじさんが自分の獲物であるとマーキングするように少女の顔を舐める。

 少女は必死に逃れようともがくが、種付けおじさんはびくともしない。


「ごべんなざい、ごべんざない! 良い子になりまず! パパとママの言う事聞ぎまず! だがら助げでぐだざい!!」

「ほぉ~。これからは良い子になるって? だから許してほしい?」


 種付けおじさんの手が止まる。

 少女は助かる為に必死に首を縦に振る。


「手遅れだ。種付けおじさんに襲われたくなかったら、最初っから良い子であるべきだったんだよ」


 種付けおじさんが少女の下着すら剥ぎ取った。


「やだやだやだ! やああああああだああああああ!!」


 少女の抵抗も空しくベッドに押さえ込まれ一切の自由が奪われる。

 今この時、少女の世界に、種付けおじさんが侵略してきた。

 さぁいよいよその魔の手が少女という果実を掴もうと手を伸ばし……止まった。


 少女は気付かなかった、地面の振動を。

 種付けおじさんは気付いた、最も厄介な騎兵隊が駆けつけたことを。


 ドゴン!

 大きなハンマーが鍵ごと扉を破壊し、援軍がなだれ込んできた。


「警察だ! 種付けおじさんを確認、射殺する!」


 複数の警察官が銃口を向けてくるのに対し、種付けおじさんは窓を背にして少女を人質にした。


「チッ、運が良かったな。だが憶えておけ、お前がまた堕落したとき、俺は再びお前の前に現れる。それは、お前が俺を求めているということなのだと!」


 少女に語りかけた種付けおじさんは、ぶっきらぼうに少女を警察官に突き飛ばす。

 警察官の一人は突き飛ばされた少女を受け止め、残りの警察官がそれを守るように銃口を向けながら前に出る。


 しかしその隙に種付けおじさんは窓際にあった自分のスーツや下着を抱え、そのまま窓から外に脱出した。

 警察官が無線を使い、種付けおじさんの逃げた方向を伝える。


 夜はまだ、これからである。

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