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蒼き乙女よ熱く翔べ  作者: oikawa
第一章 及川ナナ
9/11

及川 vs 由鬼那 ドラゴンスクリュー ready

杉本の飛翔からのラリアットに、由鬼那の心が震えた。


技はきれいには決まらなかった。


しかし、渾身の一撃だった。


魂が籠もっていた。


杉本優花の魂。


全日本女狼會の女としての魂。


そして何よりも


杉本の女子プロレスラーとしての今後の方向性が見えた。


行ける。


こいつはもう、一人前だ。



そして由鬼那は、及川の動きも見逃してはいなかった。


由鬼那は歩いてくる及川を見た。



こいつ、受けやがった。


目の前で杉本ががみ込んだ瞬間


ジャンピングアックスボンバーが来ると理解したはずだ。


こいつならなんなりと対処できただろう。



しかしそれでは技が映えない。


杉本の技は美しかった。


美しかったゆえにそれ以上に美しく受ける。



結果として、杉本の大跳躍が及川の読みを大きく上回った結果、顔面に杉本の掌底を喰らって受け切るのは失敗したが、素人の動きじゃない。



最初は杉本の不良時代の連れか何かがリングに上がってジャレてるのかと思ったら、こいつは全然素人なんかじゃなかった。



プロだ。


しかも、相当やる。



由鬼那は及川に感謝した。


"お前のおかげで杉本が覚醒した"


"礼を言う"



しかし、どこの誰だろうと、そしてプロであるならなおさら他所様のリングに勝手にあがるんじゃねえ。



ただの素人じゃないなら杉本がリングに上げたりはしない。


こいつは道場破りだ。


勝手に上がり込んだに決まっている。



ここで仕留めておかないと日本女狼會の沽券に関わる。



仕留める。



ここで由鬼那は、冷静になった。


そして、自分の身体の状態、右足を骨折している事を思い出した。



足はだいぶ良くなっている。


予定だと来週にはギブスが取れる。


骨はあらかたくっついているだろう。



本来ならここは足がしっかり治るまで待ってその上で及川とやりたいところだ。



しかし、そんな状況じゃない。



藤井と昨日、復帰戦のスケジュールを話し合ったばかりだったが諦めよう。


藤井も納得してくれるに違いない。



日本女狼會がコケにされるという事は、藤井美羽がコケにされるという事だ。



そんな事は断じて許さない。



今の状態なら、一度だけなら、あの技が使えるはずだ。


右足は捨てる。


そして代わりにこいつの足を一本もぎ取る。



こいつの戦意を一撃で刈り取るにはそれしかない。



由鬼那はほんの少し両膝を曲げ腰を落とした。


片足が折れているとは思えないほど自然体でスキのない構えだった。



そんな由鬼那を見ても動じることなくずんずんと歩き、及川は由鬼那の目の前まで来た。



口元を真っ赤な血で染めた及川がすっと右手を伸ばし、手のひらを広げた。


その動きに応じて由鬼那が左手を伸ばしお互いの指が絡まり合い、ぎゅっと握る。



"強い"



最初に指先が触れ合った瞬間にお互いの頭の中に同じ言葉が浮かんだ。



二人の目が大きく見開き、獣の炎が宿る。



二人の頭には同じ感覚があった。


強い奴との戦いは最高の刺激を与えてくれる。


そう、刺激だ。


生命体としての女の本性が腹の奥底でうずいた。



刺激をよこせ。


刺激こそが全てに優先する。



しっかりと互いの目を見据えながらそして同時にその目は相手の各部の動きをつぶさに観察していた。



肩の動きで力を入れようとするタイミングを知り、胸や腹の上下運動によってわかる呼吸から心の状態を読み解き、大腿筋や膝の曲げ伸ばしからその相手固有のリズムを探り


相手の目線やつま先の方向から次の動きを察する。



ほんの数秒、手のひらを合わせただけで


互いがどれほどの高みにいるかを二人ともが理解した。



そして、理解した後、二人の目が半開きになった。



考えてはいけない。


心を無にする。



この後に起こる駆け引きは、考えて技を繰り出した方が負ける。



先の先、後の先、どちらを取るにせよ無心になった方が相手の先を制する。



どちらともなく、反対側の手を差し出し合い、どちらも指先を見ていないのに、互いの指先がまるで意思を持った蛇のようにすうっと伸び、そして結びあった。



一瞬、空気が止まる。



ゆびがしっかりと絡まった状態で、及川が両手を外に広げていく。


と同時に手を引きつけながら右足で由鬼那の腹に牽制の膝蹴りを入れた。



その及川の膝蹴りのスキを由鬼那は見逃さなかった。


及川が膝蹴りを始める、そのほんの一瞬早くに動き出したのだ。



膝蹴りが腹に届くまでの間の刹那に、


及川が外に広げた二人の両手を、互いの指が絡まったまま弧を描くようにそのまますっと下まで回したかと思うと、さっと両手首の関節を内側に曲げながら及川の指のホールドをほどきお互いの手が離れた。


ここで及川の膝蹴りが由鬼那の腹にめり込んだ。


それを動じることなく受け止めた由鬼那は自分の両腕で及川の右足をふんわりと、しかし完全に掴んだ。


完璧にドラゴンスクリューの体制になった。

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