「タッチな」
杉本の掌底が及川の盤面を捉えバチーンという轟音とともに及川の鼻が折れ、鮮血がほとばしった。
及川に一撃入れながらそのまま通り過ぎて及川の背後まできた杉本は、及川のすぐ後ろのロープに抱くようにしがみつき止まった。
及川と杉本が、一、二歩の距離で背中合わせの状態になっている。
鼻から血を滴らせながら、その場から一歩も動かない及川。
ロープにしがみついたまま、息を切らしリングの外の宙を見つめる杉本。
くそっ!
何やってんだ私は。
このイカレ野郎にアックスボンバー一発ぶちかましてやるつもりだったのに殴っちまった。
...まあいい。
なんかちょっと、スッキリしちまったわ。
後は煮るなり焼くなりどうとでもしやがれ。
背を見せたままの杉本は、背後から蹴られようが殴られようがもうどうでもよかった。
「っつー」
と言いながら及川が首を左右にコキコキと音を鳴らして振る。
「なんだよ、いいもん持ってんじゃん」
血だらけの顔で振り返りにやりと笑う。
すぐ前を向き直った及川の目が、こちらを見ている由鬼那を捉えた。
及川は由鬼那を見据えて杉本を振り返らないままポンと左手で背後のロープに捕まっている杉本の尻を軽く叩いた。
「タッチな」
杉本にそう言うと、自分の顔の血を手や腕で拭いながら及川は由鬼那の方へかろやかに歩き出した。
及川はうれしそうに笑っていた。




