及川 vs 杉本 挑発
なんだ。
なんなんだ。
何が起きてる。
なんだこいつは。
さっきのはほんとに私の声なのか。
怒りと恥ずかしさで杉本の顔は真っ赤になった。
「ふぉいふぉまをまえら!こいてぅをたたっだす!」
(おい、おまえらこいつを叩き出せ!)
杉本は片手で鼻を押さえリング脇にいる練習生を指差しながら大声で怒鳴った。
練習生筆頭の杉本に言われたのだから行かねばならないと頭では理解していても。あまりに急な出来事に足がすくんで誰も動けない。
それでも緊急事態だと理解した練習生達は少しずつじりじりと及川を取り囲んでいった。
及川はそんな事は気にもかけない。
周囲をぐるっと見渡すと起き上がった血だらけで杉本を見て
「あれ、もしかして選手お前だけ?」
と、まるで全員でかかってこいといわんばかりに問いかけた。
杉本は歯軋りして及川を睨みつけた。
“くっ”
だめだ。
ここにいる連中全員でかかってもこいつに勝てねえ。
杉本は今までの喧嘩の経験から力の差をすぐに理解した。
及川はつかつかと杉本に近づいていった。
二人の顔がまた息がかかるほど十分に近づくと
「リング上がれよ。教えてやるよ、プロレス」
と、杉本の目を見ながらと言った。
及川の顔は笑顔だったがその眼差しは恐ろしいほど真剣な熱を放ち、そして何もかも吸い込んでしまいそうなほど透明で、杉本には及川がまるで数メートルの巨人に見えた。




