及川 vs 杉本 ほとばしる鮮血
歯ぁへし折られたい奴からかかって来ンかい!
〜中学時代、八人の武装したレディースに囲まれた杉本が放った啖呵〜
※1
息のかかるほどの距離で二人は睨み合った。
下から見上げる杉本。
上から見下ろす及川。
杉本の顔は完全にヤンキーのそれで、一方の及川は顔色ひとつ変えず冷ややかだった。
身長差は三十cm以上あった。
お互い全く動じていない。
杉本は及川の目を見据えた。
このでかい女は不躾に他所様の敷居を勝手に跨いだくせに何の反省の弁もないどころか、悪びれてすらいない。
その態度に無性に腹が立った。
杉本が軽く啖呵を切った。
「おねーちゃん、かわいいね。入門希望?」
学年で言えば杉本がひとつ上だったが、杉本と及川の年齢は半年しか変わらなかった。
二人とも幼い顔つきだった。
及川は整った顔立ちをしていた。
かわいくもありきれいでもある。
杉本も顔立ちは悪くなかったが、長年の不良暮らしが染み付いた一見してワルだとわかる顔をしていた。
杉本は及川の整った顔立ちやメリハリのある体つきが気に食わなかった。
が、なによりも身長が高い事が癪に触った。
杉本は思った事が素直に顔に出てしまうたちだった。
怒りだけでなく、嫉妬や羨望まで素直に顔に出す杉本の様子を見て、かわいらしいなと及川は思った。
黙って杉本を見下ろしながら思わず口に笑みを浮かべた。
「あ?何笑ってんだてめえ!」
言うのと同時に杉本の右手がぬっと出て及川の左の乳房を鷲掴みにした。
「このデケエチチひねりちぎんぞゴラァ!」
そう言って杉本は及川の目を睨みつけながら思い切り力を込めてその乳房を握り押しつぶすように締め上げた。
今まではこれで大抵の女は怯んだ。
この後手を払おうとして脇が開く。
そこに膝蹴りを入れれば終わる。
そういう算段だった。
今まではこれでたいてい相手は膝をついてきた。
しかし今回はいつものように行かなかった。
杉本が及川の乳房を掴んだ右手に力を加えた瞬間、及川が頭を杉本の鼻めがけて振り下ろした。
予備動作が全くわからないほどノーモーションの速い動きだった。
「きゃんっ!」
及川の頭が杉本の鼻にめり込み杉本の鼻は一瞬で砕けた。
両の鼻の穴から鮮血を放ちながら杉本は後方に吹き飛んだ。
飛び散る鮮血とともに体が吹き飛ぶ中、激しい痛みが顔面に広がり意識が吹き飛びそうになった。
咄嗟に両手を顔にやったため受け身が取れず背中からばたんと音を立てて床に倒れ込み、後ろに一回転した。
鼻から噴き出る止まらない血が両手から腕に伝わり、そのまま両肘からぼたぼたと足元の床へ滴り落ちた。
背中にも顔にも強い痛みが走っていた。
杉本にとってそれは大した事ではなかった。
そんな事よりも今自分の口から出た、今までに一度だって出した事のないはずの、子犬のような自分の悲鳴が恥ずかしくてたまらなかった。
※1
その日杉本は奥歯が二本、肋骨二本、右鎖骨が折られ全身打撲で動けなくなり、担架で救急車に乗せられた。




