わが逃走
トーストにバターひと切れと、ベーコンエッグとミルク、それから、ハッシュブラウン。
並べられた食事を大方食べ終えた後で、最後まで残ったこの、一枚のハッシュブラウンを食べようか迷っていたところ、小鳥のさえずりが窓の外の方から聞こえてきた。
障子を開けると、真っ白の朝日が部屋中にこんもり広がった。しかし外に小鳥はいなくて、たった二羽、白鳥が飛んでいるだけだった。
鳥の群れが女の形になって飛んでいるのを、一度でも良いから見てみたい。皮肉や、シリアスではない。いや、シリアス、これは淡望である。
結局、一枚残ったそれは食べなかった。制服に身を包む。今日もネクタイは曲がっている。
気分が優れないからと、母親に頼んで車で高校へ送ってもらった。空は良い曇天であった。
異物感。私の、この学校内での、私自身への印象である。異様の存在が、この学校に紛れているという、恐怖。
顔を必死に取り繕っていて、一見するとパーツは揃っている。意外の好青年と見え、しかしよく観察してみると、この男、何かがおかしい。しかし、それの違和感の正体は何かわからない。
得体の知れぬ人型の化物。
気味の悪さ。
この男は笑っていない。
目が笑っていない。
数学の授業は先生の計らいで自由席になるので、様々いるクラスメイトの動きを見て、私もそれを真似て席を立ち、この学校で唯一気の許せる友人の元へと移動する。
友人の目に私がどう映るか、聞いてみたことがある。
「心療内科に行け」
その目は、同情や、提案、冗談でなく、心配であった。
いや、そう見えただけか。
下校の時間になって、母親の車に乗った。
私は考えすぎだとよく言われる。
今日、友人にも言われた。
私からすれば、考えることで、こうしてやっとのこと生き永らえているのだ。
考えなければ、私は何度も死んでいる。
死神は、いつも側に居る(この表現が比喩ではなく、幻覚症状があるという風に汲まれてしまって、運営に通報されるなど、色々面倒の起きないように、これをしたためておく)。
いや、死神は私なのか。
私は誰なのか。
逆。
誰が私なのか。
わからない、わからない。
いや、わかった。
一人納得して、また、生き永らえている。
家の玄関を開け、自室に戻り、明日は休日だからと布団に潜る。
まだ、私は辛いのか。
また、考え始めた。
日を跨いで、私はやっと眠りについた。