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回帰  作者: 朝霧篠雨
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思い出

 なぜ生きているのか、それが甚だ疑問に感じる時があって、そういう時は“生活の営み”みたいなものがすべて無意味なものに感じてしまいます。

 あなたは?

 私は、いっそ死んでしまいたいと思うことがあります。

 しかし、死ぬも面倒に思えて、それで、生きています。

 明日には何か変わるのやもと思って、日々を過ごしていますが、いつまで続くのか。

 疑問。

 それが苦しいのです。

 街に繰り出すと、何やら世間という名の人間達に圧し潰されて仕舞そうになるのです。

 死。

 それも、やはり莫迦。

 私は、ただ己の怠惰の肉体を引き摺って生きるしかないのです。

 時に思います。

 私は、ただのナルシズムやニヒリズムを呈して、それで、自慰にも似た思想、思考に陥って、一人で満足しているのではないか、と。

 ならば、いつかこれを恥じて生きていくことが出来たなら、それは、幸せなことだと思うのです。

 ええ、そうです。

 私は、幸せ。

 何より重要な生活上の要素。

 しかし、私は、それが苦しい、そうなってしまうのが、いやに怖い。

 そう、正解は、幸せを追い求める人たちを見ていると、なんだか自分がちっぽけ、いや、醜い、卑しい人間、いや、それ以下、狂人や廃人に思えて、苦しいのです。

 肩身狭さ。

 私は、幸せが怖いだけなのではないか。

 幸せは、私にも訪れたことが、確かに何度もあります。

 その度に私は有頂天に達し、幸福の味を噛み締めていました。

 しかし、ふとした時に思うのです。

 これは、幸せである。

 あれだけ欲していた正常のものである。

 それに満足するのが最上の至福であって、これによって私は真っ当に生きていく理由を得た、と。

 そうして、そう考える自分がいやになってしまって、今に至るのです。

 いや、私は、狂ったフリをして、そうして、悦楽に浸っているだけで、ただの莫迦なのかもしれません。

 それもいい。

 それも、いい。




 鳥が一羽飛んでいました。斜陽も過ぎ去って、瞑色の空の中を、一羽、飛んでおりました。

家の二階のベランダで斜陽を眺めておりまして、その時に発見しました。

ぴょうん、ぴょうん、と、小気味よく滑空をしながら飛んでおりました。小鳥でした。

その後を追うように、少しばかり体の小さな、同じ種類の鳥が飛んでゆきます。

その姿を見て、ふとある思い出が蘇りました。


 私が幼い頃、よく眠れなかったので、母に夜のドライブへ連れて行ってもらいました。

私の家は地方の都市とも呼べぬようなよくある市街にありましたが、その日はわざわざ隣町へ行きまして、当時好物であったハンバーガーを食べさせてもらいました。近所にも店舗はありましたが、母は、街へと車を走らせました。


 記憶の断片をジグソーパズルのように組み上げますと、母がその日泣いていて、それも、父の暴力によって泣いておりまして、私は父の声がうるさくて眠れなかったことが思い出されます。

今となっては、確かに私の記憶の奥底に深く刻みこまれて、風呂場のカビの様に、脳裏に厭にこびりついて、そして、今でも時々、事あるごとに思い出されるのです。

トラウマ、という言葉を浮かべてみて、ああ、全くその通りだと思って、忘れようと思って飲酒してみたり、女性と共に快楽を求めあったりしたのですが、やはり、全部だめ。

その度に私は、遊びを知らないのだ、いや、その資格がないのだ、と一人、床に就くのです。


 私は、不幸なのか、いいえ。では、幸福なのか。いいえ。


 辺りが暗くなって、街灯が灯りだしたのに気付いて、私は、ベランダを後にして自室へと戻って、眠りにつきました。

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