表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
回帰  作者: 朝霧篠雨
1/12

告白

 告白します。私は高校に入って、初めて恋心を抱きました。たまたま、廊下をすれ違った時に、その女子生徒に一目惚れをしました。それから、隣のクラスであることを知って、私の学校は毎年クラス替えをするのですが、三年に上がった時、その一目惚れをした女生徒と同じクラスになりました。授業の時にプリントを後ろに回すのですが、その作業の合間に、チラッと一瞬見て、一人、ドキドキしておりました。隣の席になった時は呼吸の音を必死に潜めたり、さり気なく咳払いをして気を引こうと奮闘したりしておりました。目が合った時などは、変に気取って、肘を机について顎をさすってみたり、今思えば、随分とキザなことをしておりました。


 進級から一か月も経てば、クラス内での“グループ”がある程度決まってきました。二年次に仲の良かったクラスメイト達で固まるようになって、席替えもしてしまったので、私と彼女との関わりは、一切、なくなっていました。私は、女友達はおらず、男らでたむろしておりましたが、彼女は、男子と女子とが四人ずつの所謂、“陽キャ”と若者言葉で呼ばれる人たちのグループに属しておりました。その“陽キャ”の中でも、一際目立つ男子生徒がおりまして、ここでは、Aとさせていただきます。。彼は誰とでも打ち解けられる性格のようで、先生方とも仲が良かったように見えます。しかしまあ、言葉遣いはお下品で、勉強もできなかったようですが、スポーツは中々にできておりましたので、抜けている面も相まってクラスメイト、老若男女問わず愛されている風に見えました。休み時間になると彼、彼女らはそのグループで固まって、騒ぐまでいかずとも、多少煩さを感じる程度の声で話して、笑いあっていました。関わりがなくなってしまったこともあって、居ても立っても居られなくなった私は、どこに救いを求めたのか、一年次から同クラスであった私の友人であるKに、数学の時間は自由席であることを利用して、「あの子さ、今スマホいじってる人、どう思う?」などと婉曲(今思えば、愚かな聞き方で、わかりやすかったのでしょう。)させて聞いてみると、Kは意を汲み取ったらしく、「やめとけ」と軽く笑って、しかし、本気らしいような感じで言ったのでした。なぜか聞いてみると、「一年の時、同じ部活だったんだけどさ、一個上の先輩と付き合って、ソッコーで一緒にやめてった。で、今は別れたとかなんとか。どこがいいのかよく解らない」と、二人だけに聞こえるような小さな声で言うのでした。Kはチラリと彼女の方を見て、「どこがいいんだ?」と鼻で笑いまして、私は無性に腹が立ちました。それからのこと、彼女への純粋な好意がこじれてしまって、嫌でも捨てられなくって尾を引きずるようになってしまったのも、今思えば、この時のこれが原因なのかもしれません。


 それからまた一か月経った日の朝のことです。私がいつも通り学校に行くと、いつも登校が遅いMが既におりました。男子というのはある程度グループの垣根を越えて、他の男子と交流するもので、私と、Aにも交流があって、偶に話す程度の仲にはなっておりました。会話し始めて少し経った頃合いで、突然、

「昨日さ、ヤッたわ」

と、Aが静かな朝の教室内で言い放ちまして、私も、高校生でしたから、意味は分かっておりましたので、

「誰と?」

と返しました。

「誰だと思う?」

とA。彼には照れなど、ありませんでした。

「わかんないよ」

と、私は少し吹き出すようにして、彼に抱いた感情を悟られぬようにしました。

「誰だと思う?」

Aがう一度聞き返してきましたので、今度は、誰?と質問すると、

「教えなーい」

とおどけられました。

その時は、何だよ、などと笑いながら言って、その場をやり過ごしておりましたが、内心、彼の“ノリ”に酷く疲れておりました。ガラガラと教室の扉が開く音がして、目をやってみると、入ってきたのは、彼女でした。私は、その頃もまだ淡い気持ちを抱いていましたので、彼女を意識せざるを得ませんでした。というのも、彼と彼女は、朝登校してくると、いつも二人で会話しているので、この時は自分にも話が回ってくるかもしれないという期待がありました。

しかし、その日の二人は一言も話しませんでした。

嫌な考えが頭によぎってしまって、疑いというのは減ることを知りませんから、その考えは増幅して止みませんでした。彼と彼女がその日は言葉を交えなかったのも合わさって、確信はないのにも関わらず、一人考え込んでしまいました。


 結局、次の日には、普通に会話していたので、真偽はわからず仕舞いのままで現在に至りますが、そのことから三か月ほど経った今でも、私は、有耶無耶の気持ちで、彼女への気持ちを捨てられずにいるのです。これが辛くって、敵わない。

Kとは仲良くやっております。このことは話さぬままですが、この間、二人でネット上に転がっている心理テストなどをやって、私の回答は「考えすぎ」などと出る始末。対するKは「生き辛そうだね」などとわざとらしく罵倒し、私もまた下品になって罵倒を返しております。それが、笑えるのです。しかし、ふとした瞬間にフラッシュバック染みた調子で脳内で「生き辛そうだね」とKが笑うのが再生されます。

その度に、生き辛いのは、みな一緒だ。そう考えて、それを、乱用される薬のような服用の仕方をして、一人平静を努めております。


 恥ずかしいこと恥ずかしいこと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ