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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

blood Siblings 改訂版

作者: 月山凛太郎

「あなたがよく出来た子で本当に助かるわ。ありがとうね。愛してるわ。」

「お前は一人でもちゃんとしているから安心して留守番を任せられる。」

「あなたが私の子で良かった。」

 それらは全部私が優秀だから向けられた言葉であり、愛だ。つまり私が優秀でなくなってしまえば、私はただのお荷物になってしまう。失望され邪険にされ、捨てられてしまうかもしれない。それが怖くて仕方がなかった。毎晩眠い目をこすり勉強をする。分からない問題なんてあってはならない。失望されたくない。しばらく水分を補給していない乾いた唇を噛み、眠気を殺した。こんなに頑張ってても寝坊したら意味がない。絶対に寝坊しない方法。それは寝ないこと。だから私は絶対に寝ないように努力した。でもそれがバレたら優秀じゃないって思われるかもしれない。私は肌のお手入れにも気を使った。学校でも先生が監視しているような気がして偽りの優しい私を作った。彼女は優しく、誰にも平等。成績優秀、品行方正、八方美人。それを妬んだ人たちに噂をされた。

「可愛こぶっちゃって気持ち悪い。」

「自分の意思を持たないロボットみたい。」

「自身ありげなあの態度が気に食わない、ムカつく。」

だったら一体どうしたらいいというのか。私はただ、親に愛されていたいだけなの。

「あの子、〇〇くんのこと振ったらしいよ。」

「一体何様のつもりで!?」

「私、〇〇くんのことが好きだってあの子に相談したのに。」

「ひどいよね。」

あなたが好いていたから振ったんじゃない。奪うような真似はしたくなくて。それなのに何故文句を言われなければならないの?ひどいのはあなたよ。意味が分からないわ。

それから嫌がらせを受けるようになった。最初は小さな事。小言を言われたりだとか、物を奪われたりだとかそんなこと。だから気にしないようにしていた。でもこれは段々とエスカレートしていっていじめになった。だけど私は親にも先生にも絶対に相談しなかった。そのうち非情なことを平気でやってきた。暴力、人権の侵害、性的ないじめ。彼女たちは男に声をかけ私を襲わせようとした。学生のうちに妊娠なんてしてしまったら優秀ではいられない。だから私は男たちにお願いをした。放課後ならいつでも相手をするから避妊は絶対にしてほしい、と。その男はいじめられている私を少し不憫に思ったのだろう。承諾してくれた。良かった。これでまだ優秀でいられる。親はまったく気づかなかった。驚くほど私の成績と体裁にしか興味がなかった。痛い、苦しい、辛い。いつの間にかそれらから自分を守るように、感覚が麻痺し始めた。何も感じなくなってきて初めて、究極の優秀な人間になれた気がした。親の気を引くためじゃない。いつの間にか私が努力をすることに理由なんていらなくなった。私が努力をするのは当たり前なんだ。いつの間にかそうして、自分を守ろうとしたいた。


 ホームレスの父親が連れる一人の子供、それが俺だった。金持ちだった父は詐欺契約に巻き込まれ、財産を失ってしまった。しかも犯人と母親はグルで、俺と父親だけが過酷な状況に捨て置かれた。父の財布に入っていたポケットマネー以外のお金は全部母が管理しているらしかった。何もなくなった父親は騙された事を恨んで、母を道端で殺した。いっつも「この子を売れば金になる」とうるさかった母がやっと死んだ。僕は嬉しくて笑った。ごめんなさい。死んでくれてありがとう。お父さん、殺してくれてありがとう。父は僕の頭を撫でると「ごめんな。」と言い、自殺した。僕の手には財布が握らされていた。ありがとう、お父さん。最後まで僕をかばってくれたのはお父さんだけだ。俺は財布を握ったまま警察に駆け込んだ。

『お父さんが・・・!お父さんがぁぁ!!』

泣きながら駆け込むと、警察の人達が優しく対応してくれる。事情を話して一人になったことを念をおして言う。警察官の一人が俺の耳元で言った。

「君さえよければうちで引き取ろうか?」

見るからに生活が豊かそうで贅沢が出来そう。俺は頷いた。その人にはこっそりと犯人を教えて手柄を受け取ってもらった。その人は体裁も良くなるだろうしお礼はそれくらいで十分だろう。そうしてすっきりとした気持ちで引き取ってもらった。父になる人は仕事で成果を上げる事に熱中していて、母になる人は<友達>だという男の人と遊んでばかりだった。もう一人、お姉ちゃんになる人がいる。その人はヘラヘラと笑ってばかりのいい子ちゃんだった。いかにも俺の嫌いなタイプ。この人とはあんまり関わらないようにしよう。そう決めていた。けれど、そいつはとても目につく奴だった。親に可愛がられて羨ましい。なんでそんなに優等生なんだろう。品行方正すぎてうざい。次第に妬みから憎悪に変わっていった。そして、それと同時に羨ましくてしょうがなくなった。俺もあんな風になったら愛してもらえるのかな。


 ぴちゃぴちゃ。水音を立てて私は歩く。これは雨ではない。お母さん達の血。自宅の中のフローリングは木の香りなど感じず、とても鉄くさい。そこには跡形もないような母と父、祖母と祖父が寝ていた。あと、もう一人。知らない人。たぶん私の家族を殺した人。不思議と怖くも、悲しくもなかった。ふと思う。昨年から弟になったあの子は何処にいるだろう。赤い足跡は風呂場の方へ続いていた。


 ぴちゃぴちゃ。足音が聞こえる。お姉ちゃんが帰ってきたのだろう。あのリビングを見てどう思うのだろう。それとも自分も殺されてしまうと思って怖くて震えるだろうか。きっと温室育ちの彼女は逃げ出すんだろう。僕のことなんて眼中にもないはずだ。しばらく耳を澄ませてみても何も聞こえない。逃げてもいないし、動いていない。真っ先に逃げると思ってたのに。姉の様子を確認しながら、風呂場で息を殺す。すると再び、ぴちゃぴちゃと音が聞こえた。どうやらこちらに向かってきているみたいだ。ゆっくり、ゆっくり近付いてきた足音は風呂場の前で止まった。

「開けても、いい?」

その声はまるで感情が見えなかった。興味が掻き立てられる。

『うん。』

僕の返事を受けてゆっくりとドアが開く。「大丈夫だった?拓斗くん。」

僕は思わず目を見開いた。姉の目は見たことないくらい、どこまでも真っ黒だった。吸い込まれそうなほどの暗闇。怖いというわけではない。ただ、目が離せないのに、とても気持ち悪く感じた。姉が「拓斗くん?」と様子を確認するように呼びかける。心配そうな表情で姉が瞬きをすると一気に身体の力が抜けてその場に崩れ落ちた。気持ち悪さが限界を越え、僕はその場で嘔吐した。まるで毒を吐き出すように沢山出し、目尻に涙を浮かべる。喉がとても痛い。でも、本当に体の毒が全部抜けたかのように身体が軽かった。

「大丈夫?」

姉が再び問いかけた。その目はキラキラ輝くビー玉のように澄んでいた。そこで初めて恐怖を感じた。自分の家族が全員死んだのに、何でこんな表情が出来るんだ。

「拓斗くんが生きてて良かった。さ、逃げよう?」


 姉はすごく愛されていた。父母から愛されて期待されるのはどんなに幸せなのだろう。僕は姉が羨ましかった。それと同時に妬ましかった。本当の家族に当たり前のように愛される姉。姉はいつも笑顔だった。うざったいくらいに。それに姉はとても良い子だった。父母の言う事は当たり前のように聞くし、学校での成績は常に学年トップ。絵に書いたような良い子。僕もあんな風になったら愛されるのかな。そう思って何度も努力した。でも僕は要領が悪いみたい。それに不器用で馬鹿だった。どうしたって姉のようにはなれないみたいだ。それなら愛されることを諦めろとでも言うのだろうか。何故僕は愛されないのだろうか。


 弟が出来た。とても小さくてかわいい子。彼はどこか闇を抱えているようだった。彼は時々、私を睨むような目付きをする。それと同時に羨ましがるような表情をする。愛に飢えた子オオカミ。彼はとても不器用だった。けれど、私が何かを施すと悔しそうな顔をするのだ。何もしてあげられない。ならば、彼が嫌がることは私からは絶対にしないと誓おう。せめてものお姉ちゃんの役割だ。頼ってきたのなら振り払わずに支えてあげよう。

 父母は私を愛していたつもりなのかもしれない。けれど、私は愛など微塵も感じなかった。期待に押し潰されそうで辛かった。逆らったら何をされるのか怖かった。努力しなければならない。呆れられぬように。怒られぬように。たとえ限界を迎えたとしても、死なない限りは大丈夫。努力して努力して私は穴のない人間になりたい。そうすればきっと何一つ欠けることなく幸せを感じられるはずだから。


 父母が死んで二年くらいは施設にいた。姉が大学に入って数ヶ月経つと施設を出た。姉は特待生制度のある大学に行った。お金が免除されるから、らしい。勿論姉は特待生で優等生だった。バイトを掛け持ちしたりして、僕を養ってくれた。前までは嫉妬心で姉をよく見れていなかったけど、姉はすごく優しくて僕はすぐに絆されてしまった。お昼にはお弁当をわざわざ早起きして作ってくれるし、僕を一番に優先してくれる。僕の求めていた愛を、お姉ちゃんがくれたんだ。

 あの日のお姉ちゃんは怖かった。感情のない暗闇に吸い込まれそうになった。悲しみのない瞳に恐れを感じた。人間みのないような姉の言動はちょくちょく見える。怖い。けれど僕はそんな姉に惹かれていた。僕からしたら他の人間より何百倍も接しやすいのだ。お姉ちゃんは時々僕の勉強をみてくれる。そこらの先生より何億倍も分かりやすく丁寧に教えてくれるので、僕の成績はぐんぐん伸びたくらいだ。前は僕のことを出来損ないの不良と言っていた先生が手のひらを返したのもなかなか面白かったな。何かずるをしたに違いないとか言う先生もいる。そんな奴には"お姉ちゃんに教えてもらった"という魔法の言葉があるのだ。お姉ちゃんの母校でお姉ちゃんの優秀さを知らない人はいない。いざという時は私の名前を使えばいい、とお姉ちゃん自身も僕に言った。ズルじゃない、生き抜く術をお姉ちゃんは僕に教えてくれた。お姉ちゃんと生きるのが僕の幸せ。お姉ちゃんだけは僕を受け入れてくれるから。ありがとう、お姉ちゃん。___だよ。


 弟、拓斗くんはとても良い子だ。悪いことはちゃんと分かるししっかり教えればなんでもこなせる器用な子だった。今まで出来ていなかったのはきっと周りの大人の出来の悪さのせいだな、そう思った。抱くべきではない感情が生まれる。可哀想。哀れむのは好まれないことが多い。惨めだと思うのだろう。実際のところ、私もそうだった気もする。だけど、やっぱり可哀想なのだ。周りの大人なんかのせいで、子供の未知の可能性を潰しかけていただなんて。それに、拓斗くんは愛に飢えているのだ。私が愛を注げばきっと今より真っ直ぐに育ってくれる。努力することには慣れている。これまで結果だって出てきた。私は拓斗くんを支えたい。私達は一旦施設に預けられた。バイトを掛け持ちして、少しお金を借りてやっと拓斗くん一人を養えるくらいのお金が貯まった。拓斗くんの学費は元よりうちでは払っていない。元親の彼氏さんが払っているらしかった。学費の心配は無いだろう。あとは私の学費だ。学費が浮いた方が贅沢させてあげられるだろう。試験が難しいが、私は特待生制度のある大学を受験することを決めた。特待生になりさえすればタダで勉強が出来るのだ。受験の必要経費はおばさんが払ってくれることになった。口座にいくらか送ってくれる。お金が貯まるまでは母の口座でやり繰りした。元から母に管理を任されていたので慣れていた。拓斗くんはあまり我儘を言わないので、生活は予想より潤っていた。拓斗くんが高校に上がる頃に私は大学を受験した。結果、特待生に選ばれた。今まで通り上手くいった。拓斗くんは純粋に私をお祝いしてくれた。それがなんだかすっごく嬉しいことのように感じて慣れない手つきで頭を撫でたりもした。きっと私は拓斗くんがいなかったら、あの日に死んでいただろう。皆と一緒に。あの腐れ外道と一緒に。心底拓斗くんがいてくれて良かったと思う。拓斗くんにあの頃の棘はなく、私を本当のお姉ちゃんのように慕ってくれるようになった。こんなのも悪くないな、と思ってしまう辺り私は本当に拓斗くんを愛しているようだ。誤算だったな。弟という存在がこんなに可愛くて、拓斗くんが自分の中でとても大きな存在になってしまうなんて。それに、拓斗くんは本当の私を知っても不思議と態度を変えることはなかった。拓斗くんは私の心の支えだ。ありがとう、拓斗くん。___だよ。


 ごめんなさい。私はあなたたちが死んでくれてとても嬉しかった。あなたたちが死ぬことで初めて嬉しいと感じた。あなたたちが褒めてくれた時もこんなに胸が高鳴ることはなかった。手を合わせながら心の中で両親だった人たちにそう告げる。隣にいる拓人くんは何を思いながら手を合わせているのだろう。あいつらの子供でいた時間も短かったし、そこまで思い入れもないだろう。私は目を開けると拓人くんに言った。

『お墓参りなんてつまらないでしょう?無理についてくることないよ。』

その言葉を受けて拓人くんは首を横に振った。

「お姉ちゃん一人だと危ないよ。お姉ちゃん一人で行って何かあったら怖い。」

その言葉にはどんな意味があるのだろう。私がいなくなると生活出来なくなるってことなのかな。まぁ、どうでもいい。拓人くんがいることによって虫除けになっているのも事実だ。高校生になった拓人くんは私のお世話のおかげで優秀でかっこいい男の子になった。本当の姉弟ではないから容姿も違うし、一緒に出かける時は彼氏だと誤解されることも少なくないのだ。そのおかげか、最近は変な男に絡まれることもなくなってきた。その点においては感謝しているけど・・・。最近の拓人くんはどこか変なのよね。偶に、本当に偶になんだけど・・・恋をしているような目で見てくる。気の所為だといいんだけど。確かに拓人くんにここまで尽くしてあげたし、そんなことが起きても不思議ではないけど。普通に困る。拓人くんが独り立ち出来るまでは面倒を見ようと思っていたけど、これじゃあずっと私の傍にいるなんて言い出しても不思議ではない。いい虫除けにはなっても実際に結婚とか出来るわけではないんだからしっかり独り立ちさせるべきだよね。その方がお互いのためだと思う。

「お姉ちゃん、それ車に積むんでしょ?貸して。」

『ああ、うん。ありがとう。』

拓人くんが車の荷台に荷物を積むのを見守りながらこっそりと溜息をつく。懐いてくれたのはいいけど、これからどうやって独り立ちさせれば良いのやら・・・。


「た、拓人くん!これ、受け取ってください!!」

そう言われて差し出されたのは手紙。お姉ちゃんからはもらったことのない手紙。

『ありがとう。家で読ませてもらうね。』

そう言って笑顔を向けると頬を赤らめた女の子は一礼を残し、踵を返した。何かを見るでもなく一点を見つめながら姉の笑顔を思い出す。

(今日のテスト、百点取れたけど・・・、お姉ちゃんは喜んでくれるかな・・・?)

姉が褒めてくれるのを想像してつい口元が緩む。こうしてはいられない、そう思い持っていた鞄を揺らして走り出した。

 家に着くと姉がリビングで講義の宿題に取り組んでいた。

『お姉ちゃん!ただいま!見て!テスト百点取れた!』

そう言ってテストを掲げて見せる。姉はぱぁっと笑顔になり想像していたように喜び、頭を撫でて褒めてくれた。

「よく頑張ったね!そうだ!今日の夜ご飯はハンバーグ食べよっか!拓人くん好きだもんね?」

すごく笑顔、可愛い。頑張って良かったと思えるのもお姉ちゃんがいてくれるから。きっと僕一人だったら嬉いだなんて感じなかっただろう。心底お姉ちゃんがいてくれて良かったと思う。

『お姉ちゃんのおかげだよ。この前教えてもらったの、ほんとに分かりやすかったから。ありがとう。』

そう言って微笑むと姉は一瞬驚いたような表情を見せてから、にこりと微笑む。そんな大人な表情がとても美しくて、また目を奪われてしまう。

 お姉ちゃんが言ったとおり、夕食は僕の大好きなハンバーグだった。落ち着いた味付けのそれはお姉ちゃんの性格を表しているようで、大好きなのだ。

「拓人くん、学校楽しい?」

一日一回この質問をされる。僕は笑って答えた。

『うん、楽しいよ。今日はラブレターをもらったんだ。』

そう言って俯くとお姉ちゃんは心配そうに僕を見つめた。

「嬉しくないの・・・?」

『全く嬉しくないって言ったら嘘になるかな。でも、僕には好きな人がいるんだ。その人からもらえないんじゃ意味ないような気がする。絶対もらえないと思うけどね。』

姉は僕の手を握って言った。

「そんなことないよなんて無神経なことは言えないけど、拓人くんはとっても素敵な男の子だよ。もうちょっと自信を持ってもいいんじゃないかな?」

そう、姉は絶対に無神経に応援をしたり、励ましたりはしない。こういうのを冷たいと感じる人もいるかもしれないけど、実際はこういうのが優しさなんじゃないかなと思う。

『ありがとう。お姉ちゃんにそう言ってもらえると、すごく嬉しい。』

そう言って精一杯微笑んで見せる。

『(はぁ、やっぱりお姉ちゃん・・・)』


 4月が終わろうとしているある日のこと。なんだか胸騒ぎがして早足で家を目指した。家に着くと胸騒ぎを増幅させる、異様な匂いを感じた。鉄臭い、これは血の匂いだ。俺がなにも考えずに入っていったって無力だろう。そう思って窓からちらりと覗いてみる。そこには赤い血が広がっていた。姉はまだ帰ってくるには早すぎる時間だし、無事なのだろう。そうなると、この血の主は母か父なのだろう。不思議と怖くはないし寧ろなんだかワクワクした。犯人はまだいるだろうか。そっと覗いてみると、そこにはおそらく母と父だったであろうぐちゃぐちゃの汚物をグサグサと包丁で何度も何度も刺す狂った表情の男がいた。殺すことが楽しそうでとても魅力的に感じた。僕の母も自分の手で殺せたらどんなに楽しかっただろうか。気持ちが高揚し、思わず本能のままに男に近寄った。彼は尚も気付くことはなく、刺し続けていた。僕の手にはなんの凶器もないのに何で殺そうか。そう思ったと同時に僕は男の背中を強く押した。その拍子に男の手の中のあった包丁が手放される。それはくるりと回ってフローリングに向かって落ちていく。男は何かよく分からないことを喋りながら包丁と同じようにして赤い血溜まりに向かっていった。たまたまを装ってしまえば、僕は悪くないだろう。男は血に着こうとした包丁の刃先に倒れていった。ああ、犯人は逮捕されることはなくなってしまった。ごめんなさい、お姉さん。あんなに愛されていたんだから、きっとすごく悲しいはず。でも僕はとっても嬉しいんだ。あんなに妬ましかったお姉さんの幸せを僕自身の手で壊すことが出来たから。僕は飛び散って付着した血を気にも留めず、姉から隠れるようにお風呂場へ向かったのだった。


 なんだか嫌な匂いがする。家に着いてすぐにそう思った私はリビングが面している庭に向かった。庭の窓は不用心に開いていて、そこから私は部屋の中を覗き見た。そこは赤に塗れていて、それが血だということにすぐ気がついた。弟は無事だろうか。母と父は愚かな人たちだったからきっと死んでいるよね。鉄臭い。弟を探したら一先ず警察に連絡しないと。玄関の方に戻りドアを開けると信じられないくらい臭くて不快感を倍増させる。弟を探す前に、一回は親の亡骸を見ておかないと親不孝だよね。リビングに向かうと開いたドアから廊下に向けても少し血が見える。足跡のようだけど、弟だろうか。そんなことを頭の片隅で考えながら、リビングに足を踏み入れた。ぴちゃぴちゃ、と不快な音が静まり返った我が家に響く。両親はもはや顔の原型を留めてなんてなかった。それがなんだか、奇妙なくらいにしっくりくる。私という存在にとって、貴方達はそれ程の存在だったということ。当たり前な気がして、嬉しかった。さて、弟を探しに行かないと。足跡を辿って。


男はただがむしゃらに走っていた。やっと刑務所から出られた。警察にチクったあの生意気なガキにたっぷりと復讐をしてやらねぇと気が済むわけがねぇ。あのクソアマがヘマしやがったおかげで俺はあんな仕打ちを受けたんだ。その息子にきちんと罪を償ってもらわねぇとなぁ。あのガキは今裕福な家庭に引き取られ呑気に暮らしているらしい。なんとも腹立たしい。俺は仲間に聞いた住所に向かう。「魔法の粉」を持って。これがあれば俺は無敵になれるらしい。家の前に着くと俺は手に握っていた白い粉を口へ無造作に放り込んだ。ああ、最高だ。今なら何にでもなれるし、なんだって出来る。あいつの家族をひとり残らず殺してやろう。きっと子供には悲しすぎることだろう。窓は不用心に開いていて確信した。呑気な馬鹿親に引き取られたんだと。窓から覗くとそこには話もしておらず、スマホをいじっている男女がいる。こいつらがあいつの新しい親か。殺すのなんてとっても簡単に思える。持ってきた鞄から包丁を取り出した。庭の窓は全開。入るにはうってつけだった。忍び足で入っていっても気づかれない。俺はまず簡単そうな女の方から殺すことにして近づいた。こんなに近づいても気づかれない。俺はドクンと心臓が大きく鼓動したと同時に女の胸を包丁で貫いた。ショックと痛みのあまり声も出ないようだ。次に男に近づいた。一瞬気づいた素振りを見せるが何事もなかったかのようにまたスマホに目を向ける。これはとんだ馬鹿だ。そして男の胸を貫いた。そして帰ろうとした時、胸がひどく痛んだ。頭もなんだか痛くて、でも・・・。なんだか気持ちよかった。意識が朦朧としている中でただただ血しぶきを見つめた。振り上げては振り下ろす包丁と、それを所持する自らの手を見ていた。赤く、赤く染まっていく。気持ちいい。そう思うほどに意識はだんだん離れていった。最後に見たのは鏡に映る見慣れた少年の顔と、ゴミのようになった自らが殺めた命だった。

「タスケテクレ、オレガワルカッタカラ。タノム、シニタクナイ。ナンデモスルカラ・・・」

視界が揺らいで、俺は意識を手放した。

 人の愛はそれぞれですが、それを愛と呼べるのかと改めて問われると即答できないような愛のかたちもありますよね。私はそういう部分にすごく惹かれます。エゴというのも素敵ですが、愛というのも解けない謎のようで面白くないですか?愛に形なんかないから、いろんな愛が近年どんどん増えてきているように感じます。それが常識から外れていようがそれは愛なのでしょうか?と思うことがあります。感情のままに書いた作品にストーリーをいくつか足したものです。姉弟がダブル主人公です視点変更多くてとてもすみませんでした。

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