第5話 ‘彼‘
それは、信号無視をした一台のトラックが引き起こした。
私はそれに気がつかず、そのまま楽しく歩いていた。
が、一瞬でお父さんが気がついて、私を横断歩道の外、つまりは一般に人が普通に行きかう歩道。
自転車も時にそこを使うことがある。
そこへ抱きかかえて投げた。
私は、そのあと振り向いたが、そこに父母の姿はなかった…。
10、いや100mは引きずられ、血脂がそこらにつけられ、その先に、先ほどのトラックがあった。
壁に追突し、運転席がグチャグチャにつぶれていた。
…何、これ…
と、横断歩道、さっき父母と仲良く手をつないで…そう、さっきまで、ここで私は笑ってた…。
なんで!?どうして!?
私は走った。
どこまで?
そんなの、測れない。
とりあえず、トラックまで必死で走った。
そして、ようやくたどり着く。
だが…、その時、そのトラックの積んでいたものが、もしも荷物、家具なのであれば…。
ドーンッ!
大きな音と共に大きな光がトラックから放たれた。
これは、運命?
それとも、偶然?
トラックが突っ込んだのは、ましてやクリスマスにでもなれば、飾りが多いだろうというクリスマスツリーであった…。
トラックが積んでたのは、まぎれもなく石油。
つまり、石油タンクを積んでいたのだ。
その爆風に、私は転がり、1,2mあたり体を動かされた。
その時、ほぼ背中を上に向けていた体制であった。
多分、いや私はその時、こう叫んでいただろう…。
‘お父さん、お母さん…!!!‘
と…。
そして、さっきまで、お父さんたちは、こう言っただろう…。
‘メリークリスマス、咲‘
と…!!!
私は、悲しみ、苦しみ、そして怒った。
そして、たどり着いたのは…、やはり絶望であった。
私は必死に泣いた。
お父さん、お母さん!!!
と叫びながら。
この後、トラックの運転手は、奇跡的に生きていたらしい…。
が、爆風を諸に食らっていた背中は、焼きこげていた。
そして、父や母は、全身火傷、心肺停止、出血多量…いや、簡単に言おう、 死んでしまった。
いや、殺されたんだ。
トラックの運転手が信号無視をしたのは、飲酒運転であったことを、そのころまだ生きていたお祖母ちゃんに聞かされた。
憎んだ。
だが…父は…母は…戻ってきてくれなかった…。
学校も、冬休みが終わり、新学期が始まる頃には、また顔色が戻ってきた。
無論、両親の死の時の顔ではない。
心配無用。
こういい切りたかったからだ。
…けれど…、助けてほしい、気が付いてほしい、この悲しみを…と思った。
「咲〜先に行くね?」
「うん」
冬休みが終わって、今は春。
桜も満開から役目を終え、散りゆく桜に心を躍らせ、ワクワクした一年生が入ってくる時期…。
私はある一人の子に告白をされた。
「お…俺と、付き合ってください!」
初めての告白だった…。
だが、答えはNO。
彼は、私の ごめんなさい を聞くと、去って行った。
それを見送りながら、私は一つ、溜息を吐く。
「それが本当の気持ち?」
と、私の何を見てそう言ったのか、近くにあった少し高い桜の木に上って遊んでいたのか、その子は言う。
「何の…こと?」
「いや、元気最近ないな〜と思ってさ」
と、私の前まで、桜の木から下りて来る。
…、元気がない?
「え、そんなこと…」
「…嘘だね、それ」
と、彼は言う。
私の瞳を見透かすような鋭い言い方であった。
だが、それを聞いて、私は
「何も知らないくせに、勝手なことを言わないで!」
と、怒鳴ってしまう。
…、彼はそれを聞くと、首を横に振る。
だが、それに続けて私はさらに、
「と、言うか貴方誰!?もしかして新種のストーカー!?さっきのも、盗み聞きしてたっての?」
「あ、そうだね、自己紹介…。僕は、柳 美琴…君と同じクラスなんだけど…知らない?」
柳…あ、たしか最近いじめの的になっているっていう…。
「いじめられっ子に、私の素性なんて、到底理解できないわ」
きつくそう言う私。
このときは、少し狂っていたのかも
「じゃあ、いじめられっ子の素性も理解できないだろうね」
と、軽く返す彼。
生意気な…
「じゃあ、言ってみなさいよ!私以上に今を不幸に生きているというのならね!!!」
私は、完全に頭に血が上っていた…。
今思えば、聞かなければよかったと後悔もしている…だって、彼は…
「いいよ」
なんて、最初は冗談染みた顔だったのが、急に真面目に変わっていた。
続けて
「両親は事故死」
私と同じ。
それだけ?
いいや、まだ残っているのだ・・・。
不幸すぎる、彼の素性が…。
「そして、その後僕は一人暮らしを始めたんだ、だからって、ちゃんとした家でもないけどね」
…彼が言うには、ダンボールハウスを、川岸に作ってあるらしく、よく荒らされているらしい。
私には、おばあちゃんやおじいちゃんがいる。
家もある。
じゃあ彼は?
「祖父ちゃんは、僕が働いた金でたばこや酒を、祖母ちゃんは、他界してしまった。それで、祖父ちゃんに金を集られている」
集られている?実の孫に金を集る御祖父ちゃんなど存在するはずもない…。
が、彼はこうも言った。
「祖父ちゃんは、僕が金のないことを知ると、ダンボールハウスにあるすべての道具をうっぱらって、それを金にする。」
おかしな話だ。
「そして、ない場合は、僕の帰りを待ち、帰るとすぐに川に投げ捨てられたよ、ダンボールハウスごとね。」
そもそも祖父ちゃんとはどのような人物なのか、と言われると、ちゃんとした家を持っている人。
そして、家に入れてはもらえない。
…。
「証拠として、僕の家にでも来る?」
その必要はないと、私は首を横に振った。
それはなぜか?
それは、彼が話している途中に見えた、深く刃物で切られ、バンソウコウでも貼っていてもおかしくない傷が、服の内側、つまり皮膚についているのが、見えたからだ。
軽傷?
いいや、重傷だ。
5,6cmいや服を脱げば、もっとひどい傷があるのだろう…。
「でも、学校に来るのは…」
「無許可…かな…先生にお願いしたら、祖父ちゃんに‘殺される‘し」
と、彼は平気で殺されると思っているのか?
答えるのならYesだ。
そして、彼はその場を去る…。
が、私は彼を止めた。
「やっぱり…見に行くよ」
そう言って、放課後、私は彼の真相を確かめに行くこととなった。




