魔王城
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前半はアストロン、後半はフリージア視点です。
目が覚めて最初に気になったことはアッキーのことだった。
魔王との戦いで、僕は、無様にも意識を失ってしまったのに、こうして生きている。
アッキーがいないと、魔王に連れていかれたと聞いて、僕は我を忘れて城を飛び出そうとした。
十数人がかりで止められたけど。
それからライがやってきて僕にアッキーの秘密について話してくれた。
アッキーが本当は聖女フリージアで、今までの聖女フリージアこそが勇者アキレアだと。
「フリージアなら、あだ名は何が良いかな?」
「フリーとか、ジアとかですかね。」
「まあそこは本人と要相談だね。」
そんなことを言う僕にライが怪訝な目を向けてくる。
「なに?」
「いや……とりあえずアッキーが女の子だからってすぐに結婚を迫るとか、それ以上を迫るとかしないでくださいね?」
「うーん。それは半分、今のアッキーの状況次第かな?」
そう言うとライは危ないものを見るような目で僕を見た。僕だってアッキーに酷いことはしたくないよ。だけど
「僕から逃げたうえに、魔王とどっか行っちゃうなんて、ちょっとくらい怒っても良いんじゃないかな?」
アッキーが一度死んだ僕を回復してくれたのは知っている。
それで聖女だということが露見して、皆を騙したと言われ魔女なんて呼ばれてしまったことも。
だけどそれは、僕がアッキーを手放す理由にもならないし、アッキーのことが好きな他の男についていったのを許す理由にも……ちょっとしかならないと思うんだよね?
「まあ、魔王はもちろん許さないけどね。」
にっこり笑ってそう言えばライは口元を引きつらせた。
「そうです。アストロン王子。元々魔王はこの世界にいてはいけない存在。しかもフリージアを連れ去った今、彼にかける情けはありません。」
部屋にやってきた少年がそう言った。
「随分過激派だね。勇者アキレア?」
アッキーと瓜二つの彼は僕が寝ている間に覚悟を決めたようだ。
「それでライ、魔王の居場所って分かってるの?」
「王子が寝ている間に情報を集めて、魔王が城下町に出現以降、外部との接触が遮断されている場所が見つかりました。」
それは怪しさ満点だ。
さて、魔王が引きこもっている魔王城はどこかな?
「そこは?」
「……俺達の通っている学校です。」
怖くて怖くてたまらなかった。
今までずっと、子どもの頃からつき続けてきた嘘。
それがみんなの前でバレてしまった。
アストロンの無事が確保出来たら急に冷静になってしまって、罪悪感で息ができないほど苦しくなった。
「君の秘密、そこで寝ている王子様が知ったらどう思うかな?」
魔王の言葉が最後の一押しだった。
世界で一番大切で、大好きなアストロン。
他の誰に何と言われても、アストロンにだけは言われたくなかった。
ただでさえ、婚約の話でアストロンへの感情はぐちゃぐちゃだったのだ。
混乱した頭は、とにかくそこから逃げるための最短の方法を導き出した。
すなわち、魔王の手をとること。
(冷静になると、絶対悪手だったよな……。)
連れてこられた部屋の椅子に座り、膝に肘をついて俯く。
いや、せっかく落ち着いてきたんだ。とにかく状況を確認しよう。
「で、どうして俺を連れてきたんだ。」
「どうしても君が欲しかったんだ、じゃダメかな。」
そう言って首を傾げる魔王にため息をつく。いや、今は魔王というより先輩っぽいんだが。
俺はその場にいるもう1人に目を向けた。
「まさかあなたが魔王側だったとは思いませんでしたよ。」
「私もあなた達が入れ替わってるとは思わなかったんですよ?」
そこにいるのは回復室の先生。俺よりアキレアの方が彼女の講義を受ける機会が多かったであろう女性だった。瞬間移動は彼女の魔法のようで、魔王がいきなり消えたり現れたりするのは彼女の仕業のようだった。
「いや、フリージアさんがあんまりにもきっぱりと魔王討伐しようとするので可笑しいと思いまして。それに魔王様によれば、勇者が優しいというじゃないですか。だから、気付けたんです。」
そして俺達の入れ替わりに気が付いたのもこの人のようだ。
「……ここがお前の魔王城ってわけか。」
「まあ、とりあえずは?……君がいなくなったら向こうの戦力も落ちるだろうし、、この建物は攻めにくいだろう。君のことを説得したらここから離れてひっそり暮らしても良いけどね。」
そして今、俺達がいる場所こそが魔王城。
「とりあえず俺、オーラの使い方は上手いからさ。じっくり毎日少しずつ馴染ませたから、意識がなくても皆、俺のことを守ろうと動いてくれるはずだ。」
近くには跪いている人が20人ほどいる。
「俺があげたクッキーを食べた人は特に良い駒になってくれるだろうな。」
そう、ここは、俺達が毎日通っていた学校だった。
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