勇者アキレア
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時系列的には前々回の続き。前回と前々回の間に、アキレアは男物の勇者っぽい恰好に着替えています。
「怖かった……とは?」
現れたのは今までの勇者アキレアと瓜二つ、しかし今までのアキレアより幾分か冷たい空気を纏った少年だった。隣にはホワイトレースが立っている。
「フリージアは、今まで私のために勇者でいてくれました。
けれど彼女は聖女であり、彼女の勇気は愛からくる勇気でした。彼女は皆から望まれるであろう勇者を演じてくれていたのです。それこそ、皆を愛し愛されるような理想の勇者を。
そんな彼女が大好きな人たちを裏切ってしまったと感じ、実際に魔女と呼ばれた……。
その恐怖はどれほどのものだったのでしょう。
そしてきっと彼女は、なによりあの時、意識を失っていた王子に嘘をついていたことを知られたくなかったんだと思います。
嘘をついていたと知られたら嫌われてしまうかもしれない。
周りの人たちと同じように自分を魔女と呼ぶかもしれない。
他の誰よりも、王子にそう呼ばれるのが怖かった……。
怖くてたまらなかった彼女は、あの場から逃げるために魔王について行ったのでしょう。」
「君は……」
「お主は、勇者アキレアで良いのだな?」
王が勇者アキレアを上から下まで見て、確認する。アキレアはその場に跪いて頭を下げた。
「はい。私こそがアキレアです。今まで聖女と偽って生きてきました。私の願いにより、私の双子であるフリージアと入れ替わって暮らしてきたのです。」
その言葉にその場にいた人たちがざわつく。分かっていても本人から聞くとやはり驚きが隠せない。
「王を騙すなど、何と言う不敬!!」
「この双子は罰するべきだ!!」
そんな言葉を発するものもいる。
「全ては!全ては私が望んだこと。罰するならどうか、この臆病な勇者アキレアを!心優しき聖女フリージアは、ただ私の願うとおりにしたまでなのです。」
それを遮るようにアキレアは大きな声でそう言った。
「魔王を倒せば勇者の役目はそれで終わる。そうしたら私のことは好きに処分してもらってかまいません。」
きっぱりと言うアキレアの瞳には強い覚悟が宿っていた。
「えっと、フリージアちゃんじゃなく、アキレア君……かな。君は魔王を倒しに行くつもりなんだね。」
ライがアキレアに確認する。
「はい。」
「私もご一緒します。」
ホワイトレースがそれに続いた。なお、ホワイトレースの父親は口を挟もうとしたがその場の空気に気圧されて口を開けなかった。
「俺も一緒に行くよ。俺はアッキーの友達だからね。」
「ライ様!」
「ありがとうございます。」
ライはそう言ってアキレアの近くに歩み寄った。
「王様。今、勇者や聖女を裁くのは良くありません。魔王が聖女を連れ去り、何処かに行ってしまっている。それならば魔王を探し出し倒すのが勇者の使命でしょう。裁くならその後が適切かと。」
ライは王に跪いてそう言った。
それに、一番面倒なことがあるのだ。
もしもここで聖女や勇者を裁くと言ったり、聖女が裏切り者だから倒す等と決めてしまっては、魔王を倒す前に国が滅びかねない。ちなみに状況を伝えないのも悪手である。
この場にいる一部のものはそれを知っていた。王もその一人である。
そうであるならこの場で一番良い今後の方針は
「……わかった。勇者アキレアよ。勇者として魔王を討伐し、聖女をこの場に連れ戻して来ると良い。処分を考えるのはその後にしよう。」
王が臣下を下がらせる。
「ライ。」
「……はい。」
人が少なくなった謁見の間で王はライを呼び寄せた。
「アストロンの気持ちは分かっているな。」
「はい。」
「……今回のこと、どう思うと思う?」
「とりあえず魔王に対しては憤慨するでしょう……。」
「では聖女フリージアに対しては?」
「……。」
「……。」
王はガシッとライの肩を掴む。
「いいか、ライ。アストロンの命は大切だ。それは一番の優先事項だ。だが!くれぐれも、くれぐれも我が息子が先走って無理矢理ことを起こさないように気を付けてくれ!!」
「……可能な限り、善処します。」
ライはどこか遠くを見ながらそう答えた。
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