臆病な勇者
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そろそろ物語が佳境になってきました。
モンスターを倒してホワイトレースと頷き合った。
それでもまだアキレアは見つかっていないから、後始末は警備隊の人に任せて探しに行かないと。
そう思っていると慌ててやってきた警備隊の人が言った。
「ホワイトレース様、それから、せ、聖女様……城に来るようにとのことです。」
警備隊の人が私を見る目が泳いでいる。それを少し疑問に思いながら、城の一室に移動した。
そこで私達は兵の一人に町で何があったのかを伝えられた。そして
「あの……聖女様は勇者様だという話がありまして」
そう、伝えられた。
「聖女様……」
兵士がいなくなった部屋。ホワイトレースが戸惑いを含んだ声で私のことを呼んだ。
きっと腹をくくるべきだ。私はフリージアに感謝こそあれど、怒りはない。そもそも入れ替わりを提案したのはフリージアだったけど、それを望んだのは私だった。
だから、悪いのは私で、立ち上がるべきも私で
「聖女……いえ、勇者様!」
「っ!!」
ホワイトレースが少し強い声で私の名前を呼んだ。
「震えて、いらっしゃいます。」
ホワイトレースはそっと私の手を握っていた。
そして彼女の言葉通り私の手は情けないくらいに震えていた。
ああ、覚悟を決めるべきなのに。
それなのに、この期に及んで私は……
「情けなくて笑えるでしょう。」
「……。」
「怖くて怖くてたまらないんです。」
「……。」
「魔王も、町の人も、他の皆も。」
「……勇者様。」
「私はっ!……私は、とても勇者なんてものではありません。」
ホワイトレースの呼びかけに、項垂れる。
そうだ、私は勇者なんてものじゃない。
間違った勇気しかない、皆に後ろ指差されることが怖いだけの臆病者だ。
「私は、笑いませんよ。」
ホワイトレースはそっと、私の背中を撫でながら言った。
「感情は……心は、他の誰にも分からない、主観的なものです。勇者様の恐怖も、背負っている責任の重さも、他の誰にも笑えるものでは無いのです。」
「でも、本当は勇者ならこんな臆病じゃダメなはずだ。もっとフリージアみたいに強く、前を向いて、魔王を倒しに行かないと……!!」
ホワイトレースは私の言葉を静かに聞いた後、口を開いた。
「臆病でも、良いじゃないですか。」
思いがけない言葉に顔をあげる。ホワイトレースはじっと私を見ていた。
「臆病なことと、勇気がないことは全然別のことです。臆病な人が、勇気を出すのは大変なことでしょう。でも、勇気がないわけではないのです。」
それは私にとって、とても予想外の言葉だった。
臆病なのも弱虫なのも、色んな事が怖いと思うのも、全部が全部、私が勇者ではないことの証明だと思っていたのに。
「私は……勇者でいいの?」
「むしろ私は、臆病であればあるほど何かをするのに人一倍勇気が必要だと思いますよ。
だから、もしもあなたが誰より臆病であっても前を向いて進むのなら、あなたは誰よりも勇気がある人。まさしく勇者であると、私は思います。」
臆病であればあるほど……。
(もしかしたら、私は誰より臆病なのかもしれない。)
臆病で怖がりで、情けなくて、でも、それでも前を向いて進むなら……
「ありがとう。ホワイトレース。」
私は立ち上がる。
進もう。今まで私の分まで頑張ってくれていたフリージアをこのままにしてはおけない。
勇者として、立ち上がるんだ。
「良かったら、一緒に来てくれないかな?」
「はい、喜んで!勇者様。」
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