魔女か聖女か
前回から今回の前半はライ視点です。後半は第3者視点。
「魔女」
「魔女?」
「魔女」
「魔女」
「魔女!」
「魔女!!」
ざわざわとその単語が広がるのはあっという間だった。
言葉には多かれ少なかれ感情が含まれる。そして魔女という単語に、特に悪いことをしたのを理由に告げられた魔女という単語に含まれる感情は悪いものが多かった。嫌悪感、疑惑、衝撃、裏切り、失望。悪意はなくともそれらの感情が一気に町の人の中に広がる。
俺は戸惑いながらそれを見た。
魔王がゆっくりとアッキーに手を差し出す。ざわつく周囲にかき消されて聞こえないけど、魔王が何か言うのが分かった。アッキーが一歩魔王に向かって踏み出す。
「アッキー!!」
とてもじゃないけど黙っていられなくて、俺は前に飛び出した。
アッキーが驚きながら俺の方を向く。それから泣きそうな表情を一瞬した。
見たことが無い表情。少なくとも、俺には見せたことが無い表情。俺はその表情に息をのんで、固まってしまった。
アッキーはそんな俺に、にっこりと笑った。無理矢理作ったことがバレバレな笑顔だった。そして
「ありがとう、ライ。それからごめん。皆にも、アストロンにも、伝えてくれ。ごめんって。」
「っアッキー!!」
そう言ったアッキーは魔王の手をとってその場からパッといなくなってしまった。
俺が伸ばした手は届かずに宙をきる。
驚いた町の人のざわめきが大きくなる。どうすればいい?戸惑いばかりだ。分からないことばかりだ。だけど
「とりあえず王子を城に運んだください。それから聖女とホワイトレースをモンスター討伐後、城に連れてくるように。あと、町の人に落ち着くように指示を。」
意外と俺の大臣の息子としての部分は優秀で冷静で、その場で最適だと思われる行動をとっていた。
「それでは……勇者アキレアは聖女フリージアで、聖女フリージアが勇者アキレアということか……?」
「おそらくは……。その話は残った聖女改め勇者アキレアに問いましょう。」
「それで、その勇者改め聖女フリージアは魔王についていったと?」
「はい、魔王の手をとって姿を消したという目撃情報が多数あります。」
「また、町の住人からは彼女を魔女と呼ぶ声も」
「それはライからの報告の後にまた議論が必要だろう。」
王は深くため息をついた。
息子が一回死んで生き返ったけどまだ意識が戻らないとか、勇者が実は聖女でしかも魔王についていったとか、ちょっと面倒な情報が多かったらしい。部下からの報告を一通り受け、王はライを呼び出した。
ライは聖女が姿を消す直前会話をしている。聖女の裏切りを判断するにはライに意見を聞くのが重要であった。
「アッキーは裏切ってません。」
開口一番ライはそう言った。
「アッキーは皆にお礼と謝罪を言って、あの場を離れました。確かに、彼……いや、彼女が俺達を欺いて勇者と名乗っていたのは真実でしょう。けれどアッキーは今まで勇者として国を守り、旅をして、王子を蘇生までしています。」
「では、なぜ聖女は魔王についていったと思う?」
「何か理由があったのだと……」
どうして聖女が魔王についていったのか。ライはそれに明確な答えを持ってはいなかった。
少しだけ言いよどむライの代わりに、今この場にやってきた人物が口を開く。
「怖かったんですよ。」
「「!!」」
やってきたのは男子の服装をした聖女、いや本当の勇者アキレアだった。
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