本に残る想い
学校には本が多く揃っている、図書室というものがある。授業に本を読むものがあるので、その存在は知っていた。今日は授業で過去の勇者の話が出た。残っている数万年前の記録にも勇者や魔王の存在は確認されているらしい。
数十年から数百年に一度現れる勇者や魔王。俺はいわばその当事者だ。しかし先代勇者達は既に存在しないため、本からその知識を得ようと思った。神聖魔法の使い方も、本を読めばもっとちゃんとわかるかもしれない。
図書館の司書のサルビアさんに尋ねてみる。
「勇者や聖者関係の本ですか。ああ、もしかしてあなた、アキレアさんですか?」
「はい。」
サルビアさんの言葉にうなずけば、彼女は納得したという風に頷いた。
「今代の勇者様なら入っても良いでしょう。こちらへどうぞ。」
何が良いのか、首をひねりながらサルビアさんに付いてく。図書室のカウンターの奥、図書準備室に連れていかれる。図書室に並んでいない本がたくさん置いてある。それを見ながら進む。
どうやらこの奥にまだ部屋があるようだ。サルビアさんは鍵を取り出すとその奥の部屋の扉を開けた。
「ここは……?」
「勇者や聖者関係の本を集めた部屋です。勇者や聖者がいない時代は人気もあまりないし、そもそも図書室に出し切れる量ではないのでここに保管してあります。中には禁書もありますが、今代の勇者と聖者……あなたとあなたのご兄弟であれば閲覧可能です。」
ごゆっくり、といってサルビアは去っていく。案内された部屋はそこまで広くは無かったけれど、所狭しと本が並べられている。一応窓から入る光が本にあたらないようになっているみたいだけど、本棚に入りきらなかったであろう本が机の上にも置いてあった。多すぎてどの本から手を付けて良いのか分からない。でも
「とりあえずあんまり難しいのはダメだな。」
絵本とか、漫画とかのやつは無いだろうか。
ていうか禁書ってなんだよ。俺は読んで良いらしいけど……どれがその禁書なんだろう。難しい字とかはまだあんまり読めないけど、なんか禁じられた本とかって気になるよな。そう思いながら背表紙を眺める。
上の方の本も台を使えばとれそうだけど、最初の一冊にわざわざ上の方の本を選ぶ必要は無いだろう。
ふと、一冊の本が目にとまる。
しっかりした作りの本。年季が入っているように見えるけど、手入れがされているのか、きれいな本だ。ちょっと難しそうだけど、ちらっと見てみる分には良いかな?そう思ってその本を手に取った。ずっしりした質感があるけれど、見た目ほどは重くない。
とりあえず俺は部屋にあった椅子と机を使ってその本を読んでみることにした。難しかったら、他の本を選ぼう。そう考えながら本を開いた。
「歴代の勇者と聖者の紹介か?」
「そうですよ。」
「うわっ!?」
独り言に返事が返ってきて驚く。次の瞬間本から何かがパッと飛び出した。
「な、なんだお前は?!」
思わず飛び退き神聖魔法で剣を作り出す。本の上には何か半透明の……
「に、人形?」
「人形じゃないですよ。」
「うわっ。」
人のようなものがいた。妖精だったりするのだろうか。
とりあえず警戒は解かずにそれを観察する。人のようなそれは苦笑いすると本の上に座った。
「君は見た感じ勇者かな?まあ、私のことが見えるなら勇者か聖者なんだろうね。」
手のひらに載るくらいのサイズの半透明のメガネの男性がそう言って笑う。
「私はとある代の聖者だよ。」
「とある代の聖者……?」
「まあ正しくはとある代の聖者が神聖魔法で残した残留思念のようなものだけどね。」
神聖魔法って、そんなこともできるのか。少し驚きながら本との距離を縮める。
「さて、それで君はどうしてこの本を開いたのかな?」
「勇者とか聖者とかのことを知りたくて。」
「それはいい。私は勇者や聖者、神聖魔法に詳しいよ。なにしろとある代の聖者だからね。」
確かに難しい本を読むよりはこの残留思念の話を聞いた方が分かりやすい気もする。
「お、おま、……あなたは何代目の誰なんですか?」
「何代目って言っても勇者と聖者が出現するのもまちまちだし、遥か昔からいるから正式な代は分からないんだよね。まあ名前はクローバーで。」
「クローバー……。」
「さあ、席について。この本を使って勇者と聖者について話してあげよう。」
俺は少し警戒しながらも、クローバーに勇者と聖者について話を聞くことにした。
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