魔王は聖女を糾弾する
町の中に突然モンスターが現れた。
大きなモンスター一体と小さなモンスターが数体。
町の人が悲鳴をあげて逃げ、近くにいた警備達がモンスターの処理にあたる。でも大きなモンスターの相手をするには力不足だったようだ。だから俺はそこに助力した。と言っても俺の攻撃力じゃ決定打にかける。攻めあぐねていると
「ここは私たちに任せてください!」
とフリージアちゃんとホワイトレースさんが走ってやってきて、モンスターに攻撃魔法を使う。
うん。正直俺よりこの2人の方が火力はあるからな。
「こんなことになっているのにアキレアが来てないなんておかしいです!ライさんは町で他に何か起こっていないか確認してくれませんか!」
フリージアちゃんが俺にそう言った。確かにその通りだ。この場は警備の兵士とこの2人でどうにかできるだろう。俺は町で他に騒ぎが起きていないか確認しに走り出した。
アッキーは正義感が強い。どんなに混乱していようと、町中にモンスターが出たのを放っておけるような性格じゃない。そうなるとアッキー自身に何かあったか、または町に他にもモンスターが出て討伐にあたっているか……どっちにしろ町で何か起きていないか確認するのが先決だった。
そうして町に魔王が出たという情報を掴んだ俺が見たものは
「え……?」
血の海に倒れるアストロン王子だった。
息ができなくなるようだった。
どうすればいい?体中の血管がきゅっと縮こまり、血が流れなくなるような感覚。どうすればいい?警備隊の回復術師が王子の回復をしている。どうすればいい?俺の回復魔法じゃ役に立たないのは分かっていた。
「ダメです!!回復魔法が効きません!!」
「何とかならないのか!!?」
「これは最上級回復魔法です!!これがダメならっ……。」
「そうだ!!聖女様を、聖女様を呼んで最上級神聖魔法を!!」
「先ほど町の反対側に現れた大型モンスターと戦闘中だと報告が来ています!!」
警備隊の連中の叫びを聞いた。どうすればいい?最上級回復魔法が効かない。どうすればいい?俺はフリージアちゃんたちの居場所を知っている。フリージアちゃんを呼んでくるのが最善か。混乱しながらも、そう考えた時だった。警備隊を押しのけてアッキーが王子に駆け寄った。
(アッキー居たんだ。)
呆然とそこで俺はアッキーがいたことを理解して、それから今までアッキーが王子に近づけなかった原因を理解した。
(魔王……!!)
今までアッキーを足止めしていたであろう魔王は、口元を少しだけ吊り上げてアッキーと王子を見ていた。その表情に疑問を感じる前に、視界に光が散った。
「!?」
ふわりと、零れる光。
暖かく、穏やかで、どこまで柔らかくて優しい光。それでいてその光はとても強かった。
驚いてその光を辿れば、アッキーが王子の傍で王子の傷に手をかざしていた。思わず状況も忘れて見惚れてしまうほど美しい光景。
そして俺は間違いなく、その優しい光の中で王子の傷がふさがるのを見た。
アッキー。
声にならなかったけど、口だけを動かす。もしかしてアッキーは……。
周りの人が呆気にとられている中で、ぱちぱちと手をたたく音がする。
その音の方を見て、俺は再び体をこわばらせた。
そうだ、ここにはまだ、この男が、魔王がいたんだ……!
魔王は満足げな笑みを浮かべ、手を叩いていた。
「一切迷わずに、傷を治したか。それでこそだ。なぁ、聖女。」
魔王の言葉に周囲が一斉にざわつく。
そりゃそうだ。目の前にいるのは勇者アキレア。
そのはずだ。
それなのに彼は最上級回復魔法で治せなかった王子の傷を治してみせた。
それは、魔王の今の言葉を証明する行動だ。
アッキーがゆっくり立ち上がる。
「多分もう、大丈夫だと思います。アストロンをよろしくお願いします。」
警備隊の人にそう言って、アッキーは魔王に向き直った。
「改めまして、こんにちは。聖女フリージア。」
アッキーは魔王の言葉に少しだけ眉をよせた。
「聖女?」
「え?」
「勇者様が?」
町の人がざわついている。正直俺も同じ気持ちだ。
アッキーが、聖女フリージア?
信じられないと思うのに、さっきアッキーは王子の傷を治してみせた。
「そうだ、聖女フリージア!
お前は周囲の人々を、いや、神の言葉すら裏切った!!
ずっと偽り続けてきたんだ。
聖女が!自分は勇者であると!!」
魔王が声高に、まるでアッキーを断罪するかのように言った。
アッキーは苦虫を噛み潰したような表情をした。
「神に選ばれた聖女が、神を裏切る。
人々を騙す。
知っているか?
そんな悪辣なことをした聖女のことをなんて呼ぶか。」
魔王は抑揚をつけて語る。
まるで町の人たちに言い聞かせるように。
それからゆっくりとアッキーを指さして言った。
「魔女って言うんだよ。聖女フリージア。」
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