最上級神聖魔法
流血や傷の描写などのブラッディな表現があります。
「アストロン!!!」
魔王がアストロンの体から剣を抜く。するとアストロンは力なく地面に転がった。
「あ……ああ……。」
言葉が出ない。とにかく俺はアストロンの元に駆け寄ろうとした。
「お前にはまだ、俺の相手をしてもらう。」
「っ!!」
しかし魔王はそれを許さないらしい。悠々と剣を持って俺の前に立ちふさがる。
心の中が怒りで燃える。絶望で震える。
今だってアストロンの体から流れた赤が地面に広がっているのに。
すぐに駆け付けて回復をしたいのに!
「この!!」
しかし魔王は強い。1対1に持ち込まれれば勝ち目がほぼない相手。怒り任せに振るった剣はすぐに防がれてしまう。魔王の蹴りで後方に飛ばされる。すぐに体勢を立て直して魔王に向かう。けれど
(こうしている間にもアストロンは……!!)
「そろそろ良いだろう。」
何が良いのか。意味が分からないまま魔王に剣を振るう。
その視界の端で町の人たちがゆっくり起き上がるのが見えた。
そうだ、町の人。確か町にも警備隊がいたはずだ。
「アストロンを!!誰か警備隊の人を呼んで、アストロンに回復魔法をかけてください!!その人はこの国の王子です!!」
声を大にして叫ぶ。警備隊には回復魔法が使える人もいたはず。
俺はあらためて、魔王に向き直って戦う。アストロンの回復の邪魔をさせるわけにはいかない。
「やっと俺を見てくれたな。」
「ずっと見てただろ。」
「そういう意味じゃないんだが。他の意味でも、俺を見て欲しいんだが。」
「憎悪の対象としてか?!」
「強い感情という意味では歓迎するがな!」
町の人とアストロンから魔王を引き離しつつ戦う。
動けるようになった町の人はまだ苦しそうだが、最低限の距離はとってくれている。
魔王も町の人に手を出す気はないらしい。
視界の端でアストロンの元に警備隊の人が到着して魔法をかけているのが分かる。
とりあえず俺が今するべきことは魔王の足止めを
「ダメです!!回復魔法が効きません!!」
っ……?!
切羽詰まった声に意識が逸れる。その瞬間魔王に上から風魔法で地面に押し付けられた。
「勇者様!!」
町の人が何人か叫ぶ声がする。けど、それどころじゃない。
「何とかならないのか!!?」
「これは最上級回復魔法です!!これがダメならっ……。」
「そうだ!!聖女様を、聖女様を呼んで最上級神聖魔法を!!」
「先ほど町の反対側に現れた大型モンスターと戦闘中だと報告が来ています!!」
回復魔法が効かない?
最上級回復魔法が?
それはつまり……。
呆然としている俺に、魔王からの追撃は無かった。
魔王は地面に倒れている俺に言う。
「最上級回復魔法より優れた回復手段は、この世で一つしかない。」
そうだ。聖者の最上級神聖魔法は
―――――――聖女はアキレアだ
癒せない傷を癒す魔法
――――――アキレアはここにいない
――――――ここで俺が最上級魔法を使ったら
――――――俺が勇者じゃないとバレてしまう
――――――俺が聖女だと町の皆にばれてしまう
それはアキレアへの裏切りだ。
俺を勇者だと信じていた人たちへの裏切りだ。
けれど、だけど……!!
「アストロン!!」
俺は魔王に背を向けて走り出す。
魔王は俺に攻撃をしてこなかった。それを疑問に思うことも無く、俺はアストロンに向かって走った。
アストロンが魔王に貫かれたのはあばらの下。骨がない角度から心臓を貫かれたのが分かる。加えて大量の出血。
傷を見るのは得意じゃない。頭がくらくらするし、自分の体も痛くなる。それでも気を失うわけにはいかない。
行うべきは傷の回復。それから血の補充。死んでしまっている体の再生。
「勇者様、何を!?」
警備隊の人たちが俺の行動に目を瞠る。
そりゃそうだ。勇者がけが人に何を出来る。
いや、勇者も回復魔法は使える。けれど、それは最上級回復魔法までだ。
既に最上級回復魔法で回復できない人に何が出来るというのか。
むしろ魔王の相手をして、聖女が来るまでの時間稼ぎか、どうにか魔王を倒すほうが優先されるだろう。
(でもそれは、俺が勇者だった場合の話だ。)
一度も使ったことが無い魔法を発動させる。
この世界を知ることで習得できた魔法。
この世界の全てを救いたいと、救う方法を考え続けたいという願いから生まれた魔法。
ああ、認めよう。
それでアストロンが、世界で一番好きな人が救えるなら安いものだ。
町の人たちの目の前で、
魔王の目の前で。
俺は間違いなく、聖女であることを認めてやる。
最上級回復魔法のイメージは現代の医学に近い蘇生くらいのイメージです。最上級神聖魔法は神の加護を最大限に利用しているので現代医学では無理な感じな蘇生もできるくらいのすごい魔法です。
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