その胸に剣を突き立てる
直接表現は次回ですが、タイトルの通りなので、間接的に今回も流血などの表現に繋がる表現があります。
アストロンと連携しながら魔王に切り込む。
アストロンにオーラが効かないと分かったからか、最初から魔王は剣で戦っていた。それでも全力の俺達2人がかりの攻撃をいなすことは難しいのだろう。よけきれない攻撃が魔王に当たり、学校の制服がところどころ破れ、血が滲んでいた。倒せなくてもダメージを与えることはできるのだ。
魔王……というか先輩は元々魔法使いクラスなだけあって魔法も使って攻撃してくる。俺はシールドでそれを防ぎながら剣で攻撃を仕掛けていた。
どうしても俺は魔法よりも剣の方が攻撃力が高い。それはアストロンも同じだ。魔法は防御に回して、剣で攻撃を仕掛ける。
(ここだ!!)
アストロンの補助を受けて、魔王の懐に飛び込めた。
俺は魔王の胸に剣を突き立てる。
だって俺は勇者じゃない。
これで魔王は死ぬはずがない。
けれど
「!!?」
(斬れ…ない……?!)
魔王の胸に突き立てた剣は魔王に傷一つ、つけられなかった。
魔王が何かしたのか?
いや、そういうわけじゃない。
魔王は大きく目を見開いた後、酷く優しい笑みを口元に浮かべた。斬れないなら懐にいるのは得策じゃない。俺は地面を蹴って飛び退いた。
「防御魔法?!」
アストロンが驚いたように言っている。
けれどそうじゃない。
そうじゃないことは俺が一番わかっている。
斬れなかった原因は魔王にはない。
(原因は俺だ……!!)
勇者の剣は、神聖魔法でできている。
だから、俺も神聖魔法で剣を作り愛用していた。
とても強いし、軽い。どこでも出せる。なにより自分との一体感が群を抜いている。
けれど、神聖魔法で作り出した剣にはとある特徴があった。
斬りたいと思えば石でも斬れる。斬りたくないと思えば紙の一枚ですら斬れない。
(俺は……魔王を斬りたくなかったのか!?)
殺せないと分かっていても、どうせ死なないと思っていても。
それが分かっていながら俺は魔王を斬りたくないと思ってしまったのだ。
(先生が言っていたのはこう言うことか。)
昔、俺が剣を使ってみた時に先生は眉を顰めて言ったのだ。「勇者なら大丈夫か。」と。俺にはその言葉の意味が分からなかった。今の今まで分からなかった。
(俺は勇者じゃない……!!)
勇者は魔王を殺すことが出来る勇気の持ち主。
どんなに表面を取り繕っても、
俺は殺せないと分かった上でなお、
魔王に剣を突き立てられなかった。
「お前なら、俺の人間としての経歴も調べたんだろう?」
魔王が静かにアストロンに言う。
俺はその言葉に、ハッとして魔王に意識を集中する。
今は落ち込んでいる場合じゃない。対策を考えるべきだけど、それは魔王を撃退してからだ。というかなんだって?人間としての経歴?
「まあね。」
「それなら俺がお前を嫌う理由も分かるはずだ。あの冷たい目の奴も嫌いだが、それよりお前の方が気に食わない。王家に生まれて、優秀で健康な人間で、俺の欲しいものを全て持っているお前が。」
魔王が言いながらアストロンに斬りかかる。俺よりもアストロンを狙う算段らしい。それはダメだ。
「っ!!?」
魔王が一気に攻撃魔法を仕掛けてくる。俺にも、そして剣で戦っているアストロンにも。
シールドを同時展開してアストロンと俺に仕掛けられている魔法を防ぐ。けれど
「ぐっ!!」
どうしてもアストロンのことを優先してしまい、自分の防御が疎かになる。
その瞬間、地面が形を変え、俺の腹にめり込んだ。俺の体を貫かなかったのは魔王の情か。
そしてその隙を魔王は見逃さず、アストロンに猛攻を仕掛けた。
シールドは神聖魔法だ。物理攻撃も魔法攻撃もお手軽に防げる万能の防御魔法。
普通は攻撃魔法というのはそれと反対の攻撃魔法を当てないと防げない。炎魔法には水魔法をといった感じに。
しかもここは町中だ。被害を最小に抑えるためには相手の出力に合わせて魔法を防がなければいけなかった。
アストロンだって自分で防御していたけれど、大分難しい。そこに剣で攻撃をされると対応がさらに難しくなる。
2人で剣で攻撃できれば肉薄出来る瞬間もあるが、1対1に持ち込まれると、魔王の方が明らかに実力が上だった。だから
「っ!!!」
俺が足止めされて、アストロンに猛攻を仕掛けた結果はこうなるに決まっていた。
例え魔王が俺達と何回か話していても。
ある程度友好的にも見える会話をしていたとしても。
俺達には魔王が殺せないけれど、魔王は俺達を殺せる。
それだけが本当のことだった。
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